第2話 隆行の話

「ところで美香さんは、もうむこうの人達とは知り合ったかの?」

「それはえっと、二足歩行チワワさん達のことですか?」


 美香が聞くと、そうじゃ、そうじゃと隆行は嬉しそうに手を叩いて頷いた。

 そして、昼ご飯を食べながら、隆行がこの鍵を手に入れた経緯を簡単に話してくれたのだ。



 隆行がまだスーパーではなく、小さな骨董品屋を営んでいた頃の事だ。隆行の家はこの辺りの地主で、骨董品屋の裏山も山野家のものだった。戦後使われなくなった防空壕を倉庫にしようと思い立ったのは隆行だ。入り口のドアを付け替え、内側の壁はコンクリートで補強して奥の壁だけはごつごつした岩壁のままだったが、立派に倉庫として使えるようになった。


 ある日、いつものように隆行が買い集めてきた骨董品を倉庫に収めようとしたとき、手に持っていた鍵を落としてしまった。

 明かりがあるとはいえ、薄暗い倉庫の中だ。隆行は床に這いつくばって鍵を探したが、なかなか見つからない。10分以上も探して、ようやく見つけたのは、突き当りの岩壁とコンクリートの床との境目だった。この倉庫の鍵を拾い、ふとその境目に、土に埋もれた緑色のリボンが見えた。隆行がそのリボンを手繰り寄せると、その先にはさっき見つけたここの鍵とそっくりな鍵が結び付けられていたのだ。


 心当たりはなかったが、誰かがうっかり合い鍵を落としたのだろうと、さほど考えもせずに拾い、家に持って帰った。そして次に倉庫に来るとき、その緑色のリボンが付いた鍵を持って来てドアを開けると、そこには見知らぬ洞窟があったのだった。


 つかのま驚いて立ちすくんだものの、好奇心旺盛で野山に分け入るのも好きだった隆行は、そのまま奥へ入って調べることにした。

 途中、落ちているいろいろなものを拾い、その骨董的な価値に胸を躍らせる……つまりはまあ、目先の利益のほうが、異常現象に驚くよりも勝ったと言う訳だ。


 洞窟の奥には上へと続く階段があって、隆行が上るには少し窮屈だったが、天井も頭が当たるほど低くもなく、通る事ができた。少し歩きにくい幅に刻まれた階段を一段飛ばしに1階上ると横に分かれ道があった。

 気にはなったが迷ってはいけないと思い、そのまま階段を数階分上がる。大した時間はかからなかったが、裏山よりもはるかに上まで続く洞窟の異常さに、さすがにもう少し準備してから来るべきだと思い、引き返した。


 洞窟を進んで、またドアまで戻る間に、何体かの奇妙な生き物にも会った。幸い、途中で拾った骨董品の短剣を使い襲ってきたものには応戦し、飛んできたかなり大き目の蝙蝠コウモリも叩き落とす事ができた。

 それから何年か、暇を見つけては洞窟に入り、探検を続けたのだ。



「きっと美香さんもそろそろ、向こうの人達と交流できているんじゃないかと思うが」

 にっこり笑って差し出された隆行の手のひらには、ぽつんとひとつ、目立つ黒子ほくろがあった。

 思わず美香も自分の手を広げて、隆行に見せる。そこには、隆行のものとそっくりの黒子がひとつ。むこうの世界の人々と意思を疎通できるようになる、魔法の黒子だった。

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