ダンジョン走破(入り口に向けて)
第1話 先々代 隆行
小さな骨董品屋を商っていた彼は、地域の人々に愛されるスーパーマーケットへと店を大きくしたが、経営が軌道に乗るやいなや店長の座を退いた。その後はさっさと息子に店を任せて、趣味の骨董集めに没頭している。今では「いい世界を見てくる!」と言って家を飛び出し、各地を巡り歩く元気な老人だ。皴の少ない艶々した顔は、とても90歳近くとは思えないほど若々しい。
隆行が集めてくる骨董を第4倉庫に置いていると聞いていたので、そのせいで毎週倉庫の中の商品が入れ替わっているのだと美香は思っていた。しかし今日ダダ達に聞いた話によると、美香が知っている第4倉庫の商品はダンジョンのうん……排泄物のようなものらしい。
つまり、隆行が骨董品を置いているのは、店長と一緒に入った、あの普通の倉庫のほうだと思われる。
ダイニングに案内された美香は、隆行と向かい合ってテーブルに着き、弁当を広げた。
「ほう、美味しそうじゃの」
「ありがとうございます。先々代のご飯も美味しそうですね。店長が作ったんですか?」
「そうじゃよ。由紀子も忙しいのに良う世話してくれる」
「店長、優しいですからね。先々代とよく似て」
「これこれ、美香さん。先々代などと、堅苦しいの。わしの名前は隆行じゃけ、タッキーとでも呼んでおくれ」
「そういう訳にもいきませんので、山野さんとお呼びしますね」
取り付く島もない即答だった。
一瞬怯んで、その後大笑いした隆行は、「山野さん」だと孫である店長の山野由紀子と被るので、隆行さんと呼ぶようにと、10分ほど時間をかけて美香を説得した。
「ところで隆行さん、この鍵のことなんですが……」
美香がポケットから、第4倉庫の鍵を取り出した。
緑色のリボンが結ばれた鍵は、倉庫で出会ったトカゲ人間のズーラによると、転移の魔道具なのだとか。
山野は美香が差し出した鍵を手に取り、にっこり笑った。
「うむ。この鍵もすっかり美香さんに馴染んでいるようじゃな。どうじゃ、倉庫の中の害虫退治を任せているが、大丈夫かの?」
「害虫というか……ゴキブリよりも大きなのが」
「これ、美香さん、その単語はえぬじーじゃよ。スーパーマーケットで
「はあ」
「あの倉庫のGはわしが絶滅させたつもりじゃったが、まだ出るのかの?」
「Gよりもですねえ。大きなコウモリみたいなのとか、火の玉とか、ネズミとか」
「ああ、
小さい可愛らしいネズミよりも、ドブネズミサイズのラットのほうがNGな気がするが、そこはスーパーマーケットのプロが言う事なので、美香は黙って頷いた。
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