第7話 ダンジョンって……

 ダダと美香の間につながった絆は、契約の魔法の一種である。拘束力はなく、頭の中で相手に呼び掛けることができる。いわゆる携帯電話のようなものだ。

「ここに来れる時には、出来れば一日前に連絡して欲しい。俺たちがここに来るのに時間がかかるからな」

「分かったわ。ところで、ダダの仲間たちについて聞きたいのだけれど、人類はこの3種族だけなの?」

「いや、たくさんいる。例えば……」

 ダダの説明で、大まかに人類と魔物の区別を教えてもらったが、あまりにたくさんの種族がいるようなので、取りあえずはこの洞窟で出る魔物を覚えて、それ以外を殺さないように気をつけることにした。

 魔物は最後まで襲い掛かってくる凶暴なものが多く、美香も少なからず倒しているのだが、人類は危険と思えば逃げていくので、幸い今まで殺したことはなかったようだ。知らなかったとはいえ、ほっとした。

「小さいから、つい虫だと思って殺虫剤を振りかけた虹色妖精さんがいたんだけど……」

「ああ、妖精族のカプロだな。死にそうになったが、高魔力の魔法杖が落ちていたから治癒魔法で助かったと聞いた」

 美香のあの、置いてきた木の棒が役に立ったらしい。


 話しながら3人に手伝ってもらって、美香はこの辺りにある窪みから骨董品を回収した。

 ダダ達によるとこの洞窟はダンジョンで、あちらこちらの階で力尽きた冒険者や魔物の遺体と残したアイテムをダンジョンが吸収し、アイテムの一部は魔力が付加されて、その多くがこの60階層に現れるらしい。美香が退治して赤いリボンのついた穴の中に捨てていた魔物たちも、時を経てアイテムとなってこの洞窟のどこかに、いつか現れるのだ。


「なるほど。つまりこの骨董品はこのダンジョンの、う……排泄物みたいなものかしら?」

 異世界の不思議を、ふんふんと頷きながら、特に疑問に思うこともなく受け入れていく美香であった。




 1週間後の冒険をダダ達3人と約束して、美香は段ボール箱4つ分の骨董品を持って第4倉庫から出た。

 今までは普通の倉庫だと思っていたので、ここでの出来事を店長と話すことはなかったが、今はもう事情が違う。さて、どうするべきかと台車を押しながら考え込む美香。

 裏口から店舗に入り、台車から荷物を下ろしていると、店長が現れて声を掛けてきた。


「ああ、美香さん、ちょうど良かった。荷物はそこに置いていて良いから、休憩時間にちょっとお願いがあるの」

「あ、はい。何でしょう」

「今日、おじいちゃん……先々代が帰ってきたの。それで倉庫の鍵をって言われたので、美香さんに預けていることを言ったら、どうしても美香さんとお話したいって言うのよ。申し訳ないけれど、先々代と一緒にお昼ご飯を食べながら、少し相手をしてあげてくれる?大丈夫。頭も体もしっかりしてるから」

「はあ。あ、あの鍵は先々代が使っていた物って言ってましたっけ。分かりました。じゃあ、休憩行ってきます」


 先々代のお誘いで、今日は控室ではなく、ヒマワリマートから程近い店長の家でお昼ご飯を食べることになった。

 玄関のチャイムを鳴らすと、中から足音が聞こえて、カチャリと鍵が開いた。ドアの向こうに居たのは、髪こそ白髪だがとても80過ぎとは思えない艶肌の、ぴんと伸びた身長が175センチを超える、優し気な笑顔が少し店長に似たおじいちゃんだった。


「やあ、君が美香さん?由紀子(店長)から聞いてるよ。さあ、上がって、上がって」


 第4倉庫の現実を知った美香の前に現れた、魔道具である鍵の持ち主。果たしてその目的は!?


「あ、はい。じゃあ、お邪魔しまーす」

 あくまでマイペースに返事をする高梨美香38歳は、近所のおじいちゃんとも仲良く井戸端会議ができる、まさに主婦のプロなのであった。

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