第15話 「点検して下さい」
医療従事者は、大規模災害の発生を
年に一度の子ども達の活躍をひとめ見ようと、両親や祖父母、遠方の伯父叔母まで駆けつけて……というのが、最近の風潮です。6月、10月と、開催時期はさまざまですが、老若男女が集まります。
医療従事者も人の子。我が子の応援に行くのですが、ぐるりと集まった人々を眺め、一瞬、不安が頭をよぎります。
誰かが倒れたら、どうしよう。
演技している子どもたちは勿論のこと。学校の先生、保護者たち……いつ、誰が倒れてもおかしくないよな、と、変な想像をしてしまいます。医療従事者たる者、教師や保健室の先生の手に負えない事態になったら、いえ、見かけただけでも、何かしないといけない……ですよねえ、やっぱり。
勤務先の病院は、地元です。職場の同僚が、子どもを同じ学校に通わせている場合もあります。面が割れているわけですから、知らぬふりは出来ません。
ある麻酔科の先輩に、家族で外出中に交通事故を目撃してしまい、救急隊が駆けつけるまで救命処置に参加した方がいます。この時、先輩の脳裡に浮かんでいたのは、
「ぼくのパパは、びょういんの先生なのに、じこのとき、たすけにいかなかったんです」と、子どもが作文に書いたらどうしよう。という恐怖だったとか――(な、なんて
とある循環器内科の医師。地元町内会の夏祭りに参加していた際、(おそらく脱水を起こした)ご高齢の男性が倒れました。
「こりゃあ、いかん!」と駆けつけて救命処置をしていたところ、居合わせたオバチャンに、
「ちょっとアンタ! 動かしちゃダメでしょ! 触らないで!」と怒られました。
「ぼ、僕、こう見えても医者なんです。信じて下さい……というか、早く救急車を呼んで下さい」
釈明するのが大変だったとか。
閑話休題。
突然の心停止。威力を発揮するのはAED(自動体外式除細動器)です。でも、私たち、あまり使ったことがありません。
どんな機械かは知っています。使い方も。しかし、病院の救急現場で使っているのは、AEDではなくDC(直流除細動器)です(注1)。
真面目に訊いてしまいました。
「AEDとDCって、使い分けがあるんですか?」
VFやVT、トルサ・デ・ポワンといった致死的な不整脈(注2)が出現した際、患者さまの胸に押し当て、150~300
AED……もしかして、不整脈の種類によって使い分けがあるとか? 実は直流でなく交流とか?(注4)
違いました。AEDは単に、機械が自動的に心電図を読み取って電流を流す装置です。
DCは、医師が心電図を読み取り、必要性を判断し、電圧を決定しなければなりません。緊急時、医学知識のない一般の方にも使えるよう、この部分を省いたのがAEDです。
倒れている人がいたら、とりあえず機械を当てれば、必要か否かは機械が判断します。どうぞよろしくお願いします。
このAED、最近、「電池切れ」が問題になっています。
日本中の公共施設やマンションなどに急速に普及したAEDですが、まあ、そんなに出番のある機械ではありません(あったら困ります)。そのせいか、設置したまま放置され、二年も経過すると電池切れを起こしている場合があります。非常用の懐中電灯と同じですね。
これでは、いざという時に、使えません。
お宅のマンションのAED、大丈夫ですか?
是非、一度ご点検を、お勧めします。
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(注1)AEDとDC
AED:Automated External Defibrillator 自動体外式除細動器
DC:Direct Current Defibrillator 直流除細動器
どちらも、身体の外から電極を当てて心臓に電流を流す装置です。
AED、いい機械なのですが、循環器科の医師に言わせると「まどろっこしいよ」。本当に今にも心臓が止まりそうな状態だと、機械が心電図を検出できない(作動しない)ことがあり、慌てるそうです。だから、医師はDCを使います。
脈がふれないのにAEDが作動しない場合は、心臓マッサージをしながら、誰かに救急車を呼んで貰って下さい。お願いします。
(注2)致死的な不整脈
VFは心室細動、VTは心室頻拍。トルサ・デ・ポワンはフランス語で、なんかグネグネ曲がる心電図です。大丈夫、読む必要はありません。意識を失って倒れている人の心臓が止まっていると感じたら、まずはAEDを当て、機械が動かない場合は心臓マッサージをして下さい。
(注3)J(ジュール)
エネルギー、仕事、熱量、電力量の単位です。
1N(ニュートン)の力で物体を力の方向に1m動かすエネルギー。標準重力加速度のもと、102.0gの物体(リンゴ一個分)を1m持ち上げる仕事量――などと定義されていますが、イメージしにくいですね。大学受験からン十年経過した埃まみれの私の脳では、すぐには理解できませんよ。
致死的な不整脈を正常な脈に戻すため、だいたい200Jくらいの電流を流します。ええと……1J=1W・s(ワット・秒)なので、200Jは200W・s。電流を流す時間は一瞬ですから、0.1秒なら2000W。ヘアードライヤーを考えると、かなりの熱量ですね。
正常に戻るまで、何度も繰り返すわけですが……やるたびに、心臓が焦げてしまわないかと不安になります(大丈夫です)。いえ、ご本人は意識がありませんし、不整脈を止めないと死んでしまうわけですが……結構、ドキドキしながらやってます。
あ、皮膚には火傷ができますので、保護シートを貼ります。AEDにもありますので、必ず使って下さい。
(注4)交流?
我ながら、いくら何でもボケすぎです。一瞬だけ流す電流の、+と-を交代することにどんな意味が……orz
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