ヒッヒッフー

@karaokeoff0305

ヒッヒッフー【一話完】

「私たち、絶対にお互いを裏切らないって約束したよね?


あの約束、もう忘れたの?」


「覚えてるけど・・・仕方ないじゃない。

誰にも渡したくないほど、あの人を好きになっちゃったんだから」


誰も居ない体育館でひとり、居残り練習をしていたら、入り口の前で女子生徒二人が激しく言い争っているを目撃した。


「言っとくけど、松川くんは私のものだから。あんたなんかには、絶対に渡さないから。


ていうか、あの人があんたに夢中になるとか、まず有り得ないから」


「は?何調子に乗ってんの?

松川くん、少し前に私のこと『色白で可愛い』って褒めてたし?これからどうなるか分かんないよ?」



なるほど、親友同士で同じ人を好きによくなってしまったのか。それは大変だな。しかし、今の私はそれどころではない。

「16時までに体育館の中を10周走らなければ、卒業はできない」と、


担任の先生から言われているのだ。


「色白で可愛い?どこが?あんたの聞き間違いなんじゃないの?」


「自分が言われなかったからって、負け惜しみはよしてよ。みっともない」


親友Aと親友B(勝手に名付けた)のバトルが白熱してきた。じっくりバトルを観戦したいところだが、今の私には卒業がかかっている。体育館を走っていることが気付かれないよう、音を立てず、静かに走ろう。

二人がいる体育館の入り口の前を避けて走れば大丈夫だろう。



「あんたのこと、一番信用できる親友だと思ってたのにのに・・・サイッテー」


「恋人同士でもないのに、『約束』とか『裏切らない』とか・・・


正直、重いな~って思ってたんだよね。今まで言わなかったけど」


ヒッヒフッフー、ヒッヒフッフー。

フー、やっと3周。そろそろ、親友Aと親友Bのバトルは終わったかな?


あれ?まだ終わってない。あと7周も走らないといけない。


ズボンからはみ出たお肉が重たい。

あの二人が取り合っている、松川くんとやら、廊下で何度か見かけたことがある。ワイルド系って感じ?確かにまあまあカッコ良かったけど、別に取り合う程ではないかな。どちらかというと私は、切れ長の瞳がとてもセクシーな、茶髪の村瀬くんの方が・・・。


「思ってたんなら、直接言ってくれても良かったじゃない。


この卑怯者!裏切者!絶対の絶対に、許さないんだから」


「言ったところで、何か変わった?きっと何も変わらないわよ。今みたいに、私のことを罵って終わり。言っても無駄だと思ったから、言わなかったのよ」


ヒッヒフッフー、ヒッヒーフー。

ヒー、やっと7周。あと残り3周。16時まで、あと10分しかない。


間に合うか?いや、絶対に間に合わせてみせる。


「ダン!」


あ、ついうっかり音を立ててしまった。

親友Aと親友Bがこちらを振り返る。


「いやあ、今日は暑いですねえ」


気が動転して、意味の分からない言葉を呟いてしまった。


全速力で走ったから、暑いのは本当なんだけど。


「16時までにあと3周走らないと、高校卒業ができなくなってしまうんです。どうか、私のことを応援してくれませんか?」


パチパチパチ!親友Aが、手を叩いて私のことを応援し始めた。

「フレー・フレー!」親友Bが大声を張り上げて、私のことを応援し始めた。


キンコーンカーンコン、キーンコーンカーンコーン。

10周走り切ったちょうどその時、16時を知らせるチャイムの音が鳴り響いた。

親友Aと親友Bの熱烈な応援のおかげで、私は無事高校を卒業することができた。

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