公女SS『アレン・ハワードはちょっと意地悪 中』

※ステラは生粋の御嬢様ですが、私服をあんまり持っていません。カレンやフェリシアよりも少ないかも(カレンはリディヤ絡みで。フェリシアは商会に入った後、メイドさん達が集めている)。

※ただ、アレンと出会って以降は時々買い物へ行っています(アレンは両親とカレンの教育よろしきで、女の子の服装や髪型をきちんと褒める子です)。

※言葉には出しませんが、カレンがアレンから毎年プレゼントを貰っているのを、羨ましく思っています。

※……毎巻書いていて思うんですが、公女ヒロイン達の「感情の重さランキング」だと、ステラって結構上位なんですよね。故に作者とは冷戦関係にあります。


※※※


「えっと……ここで合っているのかしら?」


 風曜日の午後。

 私は制服のまま、王都東部の商業地区へやって来ていた。

 父から渡された地図を確認し、もう一度硝子と大理石がふんだんに使用された、真新しい七階建ての建物へ視線を戻す。

 看板は掛けられておらず、カーテンも閉め切られているものの、中で動く魔力を感知出来る。

 ……間違いはないみたいね。

 老舗服屋『エーテルトラウト』が確保した建物は、大通り沿いの一等地にあった。

 普段、私がカレンやフェリシアと一緒に買い物へ行く店とは、明らかに違う高級感。思わず、嘆息する。

 御父様に騙されたのかしら?

 そんなことを思いながら、精緻な装飾の施された重厚な玄関を開け、店内へ。

 すると――


「ステラ・ハワード公女殿下、お待ちしておりました! 本日は、私共の申し出をお請け下さり、真に有難うございますっ!!」

『有難うございます!!』


 男装姿の若い茶髪で眼鏡をかけた女性と、その後方に整列していた十数名の女性店員達が一斉に頭を下げてきた。

 ……グラハムが時間を伝えておいたのね。

 私は気後れしつつも、制帽を外し辛うじて返す。


「ステラ・ハワードです。今日はよろしくお願いします」

「当店の店長を務めております、ウルスラ・エクトルと申します。嗚呼――このような日を迎えられようとはっ。感無量でございます。ステラ様が北都の本店を訪れられたこと、私共の間では伝説として語られております」

「は、はぁ……」


 確かに私は北都の本店へ、ティナとエリーを連れて服を選びに行ったことがある。 

 その際、たくさんの服を試着したのも事実だ。

 け、けど、伝説だなんて! どういう尾鰭が?

 それに『エクトル』は北方侯爵家の姓だ。血縁者なのかしら? 会ったことはないけれど。

 戸惑っていると、頬を上気させたウルスラが左手を握り締めた。


「万事お任せくださいませっ! 皆は撮影の準備を。私はステラ様をご案内します」

『はいっ!』


 あっという間に女性店員達が動き始めた。

 戸惑う私へウルスラが近づき、微笑む。


「では、参りましょうか。もう一人のモデルの方は少しだけ遅れるそうです」

「――……もう一人?」


※※※


 大きな姿見に着飾った自分が映る。

 私も公女殿下。それなりにドレスだって着てきた。

 だけど、あの、その、こ、これは…………。


「嗚呼……何と、何と、お美しい…………」「え、映像を……い、今すぐ映像を遺さないとっ」「駄目よっ!」「限られた方への宣伝の為だって、念押しされたでしょう!?」「その子を拘束してっ!!」


 恥じらう私に対し、貴賓室で着替えを手伝ってくれたウルスラと女性店員達はとても騒がしい。

 心を落ち着かせ、もう一度だけ姿見を確認する。

 

 そこにいたのは、白と薄蒼基調のドレスに身を包んだステラ・ハワード。


 銀のイヤリングと、品が良い金のネックレスが陽光を反射した。

 ウルスラ曰く『ステラ様にモデルを務めていただきたいのは、婚姻用の新作ドレスなのですっ! 何卒、よろしくお願い致しますっ!!』。

 ……どうしてこんなことに。

 取りあえず、この姿で男性と並ぶのは嫌だ。絶対に嫌だ。

 並ぶなら――


『『アレン様がいいっ!!』』


 脳内で白の天使と黒の悪魔が、羽を羽ばたかせながら同時に叫んだ。

 ――いけないわ。いけないことだわ。

 ステラ、貴女ったら何て大それたことを考えているのっ!? ア、アレン様とだんて……そんな。…………でも、褒めて下さるかしら?

 内心で見悶えしながらも、私は平静を装いウルスラへ話しかけた。


「えっと……これで後は撮影を?」 

「いえっ! もう一人の方と並んでの撮影となります」

「……さっきも言った通り、男性とは」


 念押ししようとした、正にその時。

 丁寧なノックの音が耳朶を打った。

 ……え? この打ち方って。

 心臓が早鐘を打ち、頬も勝手に火照ってくる。

 対して、男装の女性店員は恭しく答えた。 


「どうぞ。開いております」

「失礼します」


 間違えようのない優しい青年の声。

 私は身じろぎすることも出来ず、御守りとして持ち込んだ蒼翠グリフォンの羽根を胸に押し付けた。扉がゆっくりと開く。

 礼服姿の青年――私の魔法使いさんである、アレン様は室内を見渡し、ふんわりと微笑まれた。


「おや、ステラ? もしかして、君も教授に頼まれたんですか??」

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