第7話 総力戦
「今だっ! 全火力を叩き込めっ!! 総力戦だっ!!!」
『了解っ!!』
ギル先輩の激を受け、他の先輩方が剣や杖、斧を眼下で構えた。
超高速で数えきれない、各属性の上級攻撃魔法が組み上がっていく。
え、えーっと……退避出来もないし、このままだと私、巻き込まれるんじゃ? アンコさんを抱きしめ直そうとすると、抜け出されてしまった。うぅ、癒しが。
当の「……静謐性が多少向上して。二人きりで練習したのかしら? そう言えば、同棲先をまだ聞いていなかったわね。後で尋問が必要ね」と呟きながら、『火焔鳥』の頭を撫でられている。常識が。私の常識が死に絶えようとしているっ。
「あ、あの……リディヤ公女殿下」
「『公女殿下』は禁止よ」
「で、では、リディヤ先輩。で、出来れば、私を地面に降ろして欲しいんですが……ま、まだ死にたくありません」
「あら? トトは私を見捨てるっていうの?? 酷い後輩ね」
上品にクスクス笑われる紅髪の美少女――小さい頃、孤児院でユーリ兄に読んでもらった絵本の【魔女】みたい。
美しくも恐ろしい。
人の身でどうこう出来るとはまっったく、思わない。
「テ、テト先輩みたいな、嘘吐き『一般人』ではなく、私は正真証明の『一般人』なんですっ! 将来は南都で小さなお菓子屋さんを開く夢があるんですっ!!」
「本気? 貴女は、あの性格のひねくれ具合なら大陸全土でも五指に入るだろう教授の研究室に所属しているのよ?」
「そ、それは……どうして、入れたのかは私に聞かれても――」
「お話中、申し訳ありませんが!」
突然、テト先輩は会話を遮った。
はっ、とし状況を確認する。
盛り上がった地面の四方を、無数の魔法が覆うように布陣していた。しかも、空間内に撒き散らされた呪符が、どんどん新しい魔法を生み出し、増幅されていく。
逃げ道が、ないっ!?
魔女帽子に触れ、小柄なテト先輩が不敵な笑み。
「お陰様で準備が整いました。『火焔鳥』は恐ろしい魔法ですが」
「これだけの量! 全てを打ち消せますまい?」
「しかも~我の増幅魔法で威力も限界まで上げておる★」
「全てはアレン先輩に褒めていただく為にっ!」「……全部は否定出来ない」
「あんたはやり過ぎたんだよ、リディヤ・リンスター! 償えっ!! 具体的には、アレン先輩をもっと、研究室へ寄越しがやがれぇぇぇっ!!!!!」
イェン先輩とスセ先輩が悪い顔になり、ヴァル先輩とヴィル先輩は何時も通り。
そして、ゾイ先輩が発光する大剣を、此方に向けて全力で投擲した。魔力量がおかしい、おかしいからっ!
呼応して――周囲の魔法も連鎖発動。
同時にリディヤ先輩が『火焔鳥』を解き放つ。
「~~~っ!?!!!」
凶鳥の炎と水、土、風、雷、光、闇がぶつかり合い――七属性の魔法が訓練場内を荒れ狂い、石柱を壁を観客席を崩壊させていく。
ゾイ先輩の大剣が『火焔鳥』を見事捉えるも、硬質の音を立てて弾かれ、空中遥か高くを舞う。
私だって、研究室に入った当初で三属性。今では四属性を使えるようになってる。
……でも、こんな、こんなのってっ! 現実じゃないっ!!
「はんっ。やっぱり、弾かれたかよっ。テト! スセ!」
「ゾイ、しくじったら詰みよ!」
「増幅魔法を使いつつじゃからのぉ……失敗しても恨んでくれるなっ! 誰しもが主の如き魔王じみた魔法制御を出来るわけではないのじゃっ」
先輩達には、まだ切り札が? しかも、ギル先輩とユーリ兄がいない??
この状況下でもソファーで丸くなっていたアンコさんの獣耳がピクリ、と動いた。
ゾイ先輩が啖呵をきる。
「やれっ! 『倒れる時は前のめりにっ!!』 アレン先輩に教えてもらって、うちらが自分で決めたことだろうがっ!!!」
「――ええっ!」「うむぅっ!」
「ヴァル、ヴィルっ」「「はいっ!!」」
牽制の為だろう。イェン先輩に呼応し、リディヤ先輩を狙う石弾の数が一気に増し、炎で消失されるのも構わず、物流で凶鳥を拘束しようする。
テト先輩とスセ先輩が、地上と空中で杖を重ね合わせ――精緻の極みというべき魔法式が発動。
「おっしゃぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!」
「えっ!?」
上空から聞こえてきたのは、大剣を手にしたゾイ先輩が獅子吼。
まさか………転移魔法っ!?
リディヤ先輩の眉が微かに動いた。
「――……へぇ」
「ギル先輩、後は任せます!」「ああっ!」
更に石弾の陰から、ギル先輩とユーリ兄も飛び出しきた。
リディヤ先輩との距離は殆どない。認識阻害魔法で姿を隠して接近をしていたの!?
ユーリ兄に背中を押されたギル・オルグレン公子殿下が槍杖を回転させ、雷魔法を発動させる。
――雷が降り注ぎ、空中に獣が顕現した。
私は掠れた声を発する。
「雷属性極致魔法……『雷王虎』」
「とったぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!」
同時に風魔法多重発動し、ゾイ先輩が直上から急降下!
『火焔鳥』は先輩方の魔法群によって依然拘束されている。
これは届くっ! 心臓の鼓動が熱くなり激しい。
すると、リディヤ先輩が場違いな程、幸せそうに笑われた。
「――残念、時間切れよ」
瞬間、空間から全ての魔法が字義通り消失した。
驚く間もなく、私がいる地面も崩れ落ち、空中に投げ出される。
「へっ?」
反応することも出来ず、私は地面へと落下。
――駄目っ! 魔法も間に合わないっ!!
本能的にぎゅっ、と目を瞑り、
「ああ、大丈夫だよ。リディヤが迷惑かけたみたいだね」
穏やかな声が耳朶を打った。
落下感覚が……ない?
おそるおそる目を開け、呆ける。
「へぅ?」
私の身体は、植物の枝によって支えられていた。さ、さっきまではなかった。絶対なかったっ!
軽い音と共に、黒茶髪で魔法士風の外套を羽織った青年が、枝の上に降りてきた。
「……遅い」
「約束の時間通りだと思うけど?」
「あら? 私よりも早く来ているのが常識でしょう。再教育が必要かしらね?」
「はいはい」
「はい、は一回っ!」
極々自然な動作でリディヤ先輩が傍に近寄られ、腕組みをして唇を尖らす。
……この青年が、先輩達の対決を止めた、の?
同じく近くの枝に着地したギル先輩と、枝に拘束されているゾイ先輩が嘆いた。
「……アレン先輩、せめて、もう少し早く来てほしかったす」
「そーだ、そーだ!」
! アレン!!
じ、じゃあ、この人が……『剣姫の頭脳』様!!!
あっさりと場を収めた青年はアンコさんを抱き上げ、苦笑する。
「大規模魔法戦をしてるとは思わないじゃないか。勇気を振り絞って飛び込んだ、研究室唯一の『一般人』である僕を褒めてほしいな」
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