公女IFSS『アレン・ティヘリナは考える』上

※本編とは一切関係がありません。

※アレンはティヘリナ辺境伯家に拾われた場合のIFです。

※つまり、テトが義妹!

※各家の中で最も魔法士としての完成度は高く、また、政治家としての能力も高いかもしれません。

※各公爵とは顔馴染みです。

※基本的に辺境伯領から出て来ることはなく、引き籠っています。なので、顔は殆ど知られていません。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「えっと……此処は何処だろう?」


 王国王都の中央駅。

 多くの人々が行き交う煌びやかな駅舎内で、僕は考え込んだ。妹の手紙によると『正午に時計塔の下で!』ということだったのだけれど……姿は見えない。

 前回、王都へ来た時は両親も一緒だった。普段は王国でも指折りの僻地であるティヘリナ辺境伯領に籠っているせいもあって、大都会はどうも苦手だ。西都に出ると、色々な人達に厄介事を持ち込まれるし……。

 革製の旅行鞄を地面に置き、懐から妹が送って来た分厚い手紙と地図を取り出して、時計塔へ見る。

 妹は王国の名門である大学校の生徒であり、同時に大魔法士である教授の愛弟子。

 僕や両親、辺境伯家の皆にとって自慢なのだ。

 手紙には、王都や研究室で起こった出来事。美味しいお店。無数の魔法式と『どう思いますか? アレン兄様の意見を!』という走り書きと、気になっている男の子の話が書かれていて、表情が緩む。

 血の繋がらない僕の妹――テト・ティヘリナはとてもいい子なのだ。

 手紙の最後には、強い筆圧で、


『その日は研究室で論文発表があるのですが……万難を排し、必ず迎えに行きます。ですから、私が行くまで、ぜっったいにっ! 動かないでください!! ……アレン兄様が動き回ると、必ず事件が起こるんですからっ!!!』


 と、書かれている。

 ……どうやら、妹は時折『翠風』様や『花賢』様の手伝いをしているだけの、辺境伯家居候に過ぎない兄に対し、大きな誤解を持っているようだ。今回の旅行中に認識を変えさせないとなぁ。

 そんなことを思いながら、僕は旅行鞄を手にしようとし――


「ひったくりだっ!」


 突然、駅舎内に悲鳴が響き渡った。

 声のした方に視線を向けると、フード付きの外套を羽織り、手に小さな鞄を持った若い男が複数の警備員と若い騎士に追われている。

 ……人のすることなんて、何処でも一緒か。まぁ、身体強化魔法自体は拙いながらも、それなりだけど。

 苦笑しつつ、その場を離れようとしていると――若い男が僕を見た。思った以上に若い。十六歳になったテトと同じか、それ以下か。

 少年は更に身体強化魔法を発動。

 すぐさま此方へ突っ込んで来る。狙いは僕の旅行鞄のようだ。

 警備員達を一気に振り切って、手を伸ばし、


「いただきっ!」「――うん、駄目だね」

「!?!!!」


 次の瞬間、天窓にもう少しで届く程、男は僕に放り投げられ宙を舞った。

 風魔法を習得していないのか、姿勢制御もままならず、表情が一瞬で真っ白になり、瞳を大きく見開く。

 魔法で足場を形成する時間はなく、頼みの身体強化魔法も僕が崩した結果、見る見る内に落下。

 悲鳴すら上げられず地面に叩きつけられそうになり――


「~~~~~っ!!!!!」


 スレスレで停止した。

 僕が認識阻害で見えなくしておいた『枝』を用いて拘束したのだ。やや遅れて降ってきた鞄は左手で受け取る。

 人々が呆然とする中、僕は顔を状況が理解出来ていない少年を見下ろし、微笑む。


「――王立学校の生徒が、魔法を誇示する為にひったくりかな? 折角、一生懸命努力をして入ったのに、それを自分から捨てるなんて、君は余程の愚か者なのかな?」

「っ! ぼ、僕は……ち、違うっ!! せ、生徒なんかじゃ」

「え? でも、君が使った身体強化魔法は、王立学校の教科書通りだったよ?」

「う、五月蠅いっ! ぼ、僕の御父様は貴族なんだぞっ!! とっても偉いんだっ!!! 早く離せっ!!!! さもないと――」

「その『御父様』は、『大魔導』ロッド卿よりも偉いのかな? 魔王戦争を戦い抜き、王立学校長を務めておられる大魔法士様よりも?」

「………………」


 少年の顔が見る見る内に蒼くなっていく。

 ロッド卿は少々融通の利かない方ではあるものの、筋は通される。この一件が露見すれば、退学は免れないだろう。

 ようやく警備員の人達と、背が高く騎士鎧を身に着けた青年が到着した。

 『枝』から解放し、地面に転がった少年を拘束し――次いで僕も取り囲む。


「……へっ?」


 困ってしまい、頬を掻いていると青年が腰に提げた剣の柄に手をかけ、重々しく口を開いた。


「……貴殿、何者だ? ただ者ではあるまいっ! 未知の魔法を使う怪しげな魔法士――取り調べに付き合ってもらおうかっ!! 申し遅れた。私の名前はイェン。休みの日はこうして警備を手伝っている」

「あ、それは困ります。妹と待ち合わせをしているので……普段は可愛いんですけど、僕がもめ事に巻き込まれると怒るんですよ。勘弁願えませんか?」


 名前を覚えながら、僕は青年に返答した。

 テトの機嫌を悪くするのは避けたいのだけれど……。

 警備員達は通信宝珠を用いて、次々と増援を呼び、数が増えていく。さて、どうしたもんか。

 僕が考え込んでいると、青年の瞳に強い戦意と好奇心が瞬いた。


「……交渉決裂、のようだな。ならば! 此処から先は実力行使とさせてもらうぞっ!! 大人しく、縛につけっ!!!」


 警備員達からも一斉に杖を突きつけられる。

 はぁ……やっぱり、都会って凄く怖い所なんだ。以前来た時も、リンスターの公女殿下と王宮侵入させられるわ、王女殿下に捕まりそうになるわ、で大変だったし。

 嘆息しながら僕は右手の旅行鞄を手にし、淡々と告げた。


「……言っておきますけど、後で困るのは貴方ですからね? それでも、良いならご自由に。ただし、正当防衛の権利を行使させてもらいます。悪しからず」

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