第52話 増援到着
「ゾイ、くるっすよっ!」「私よりも自分のことっ! ギル!!」
【龍】が顎を外して、猛烈な毒の息吹を放つ直前、俺は大学の同期生に警告しながら、左右へ散った。
全てを腐らせる息吹が放たれ――
「「っ!」」
猛火の斬撃で両断され、燎原が広がっていく。
あっさりと怪物の攻撃を凌いで見せた、赤髪の剣士――『剣聖』リドリー・リンスター公子殿下が苦々し気に呟く。
「……骨までは斬れん、か……」
【龍】はリドリー様の斬撃をまともに受け、牙を数本喪い、顔面を炎上させるも、火傷をすぐさま癒し、切断された牙も生え変わっていく。
翼の再生は、アレン先輩の魔法で阻害されているが……完全ではなく、三分の一程、形になりつつある。飛翔能力が復活すれば、勝ち目はない。
俺は斧槍を握り締めながら、顔を引き攣らせた。
「こ、こんな化け物……足止めも辛いじゃないっすかっ。王都に帰ったら、絶っっ対、裁判開廷しないと、割に合わないっすよっ!」
「じゃあ、向こうの戦場に顔を出す? ……あっちの方が、怪物みたいだけどっ!」
少し離れた場所でビリビリの袖を破り、身体強化魔法を限界まで重ね掛けしていくゾルンホーヘェン辺境伯爵令嬢が、恐ろしく整った顔に、賛嘆、畏怖、諦念という複雑な感情を浮かべながら、怒鳴ってくる。
先程まで、大聖堂近くから放出されていた魔力は、正直言って【龍】を超えていた。何より、アレン先輩の判断に間違いはないのだ。
……連れて行ってもらえなかったのは、情けない話だけれど。
斧槍を一回転させ、俺は穂先に『雷王虎』を展開していく。魔力の底も見えている。とっとと、片をつけなければ……。
後退してきたリドリー様が剣を構え、大聖堂上空へ目を細められた。
少しだけ遅れて、俺とゾイも気づく。
「……ぬ?」
「え?」「あ、あれは……」
巨大な『花』が形成されていき、明滅。
直後、純白の炎鳥と無数の光が降り注ぐのが見えた。
「『火焔鳥』と光魔法!? じ、じゃあ……」
「リ、リディヤ先輩と……まさか、シェリル王女殿下が!?」
「来るぞっ!」
呆気に取られている俺達へ、歴戦の『剣聖』様が鋭い注意喚起。
目の前の【龍】は形態を変容させ――胴体から、無数の脚を、背中には無数の針を生み出していてく。
飛翔能力再生を一時的に放棄し、先ずは俺達の排除へと目的を変更したようだ。
こ、これで、属性を忘れているのかよっ!
しかも、この姿……前、アレン先輩が話していた千年を生きた魔獣『針海』の姿に似て?
俺とゾイが顔を引き攣らせる中、リドリー様の表情が更に鋭くなった。
「――……厄介だな。イゾルデ嬢を斬らずに済んだのは良かったが、出来れば早くアーサー達に合流したいのだが」
『~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
「「「っ!」」」
【龍】が大咆哮し、大気が震える。
同時に無数の魔法陣が虚空に浮かび、俺達を照準していく。し、洒落になってないっ!
「ゾイ! リドリー様!!」
今の内に攻撃を――と、叫ぼうとした、その時だった。
翡翠の閃光が【龍】本体を射抜き、眩い光線が魔法陣を薙ぎ払った。
「なっ!」「こ、これって……!」「…………………」
俺が驚き、ゾイが大きな瞳を大きくし、リドリー様は大きく後方へ跳躍した。……心なしか、及び腰のような?
逆に【龍】の前へと降り立ったのは、美しい弓を持ち、純白基調の軍装を見に纏った二人のエルフと大きな白狼。
長く淡い翡翠髪を右側に纏め、右耳にイヤリングを付けているエルフが振り返った。信じられないくらいの美人だ。
「――シェリル・ウェインライト王女殿下直属護衛を務めています、ノアと申します。ギル・オルグレン公子殿下とゾイ・ゾルンホーヘェン辺境伯爵令嬢ですね?」
「お、俺達のことを?」「……知って?」
ノア、と名乗った美女の隣に立っていた、左側に髪を纏めているもう一人の美女が弓を引き絞り――【龍】の息吹を、一矢で霧散させた。
片目を瞑り、快活に教えてくれる。どうやら、双子らしい。
「同じく、直属護衛のエフィです。アレン様とリディヤ様に可愛がられている後輩様方――シェリル様が、毎回飽きずに拗ねられていました☆ ゾイ御嬢様は『私達も西方出身』とお伝えすればお分かりいただけるかと?」
「は、はぁ……」
俺が戸惑い、少し離れた場所にいるゾイへ視線を向ける。おい、どういう意味だよ?
すると、ゾイは畏怖と賛嘆が混じった顔になった。
「その髪色と、王女殿下付き護衛を務める恐ろしい技量……長く、王族の護衛を務め続けているルブフェーラ公爵家の分家筋ですか。そして、そっちの神狼は――」
「「シフォンちゃん!!」」
「わふっ!」
エルフの姉妹に名前を呼ばれ、白狼が嬉し気に吠えると――大衝撃波が発生。
突撃しようとしていた【龍】を吹き飛ばし、建物に叩きつけた。……出鱈目だ。
リドリー様は腰を落とし、周囲に強い警戒の視線を向けながら、呟く。
「……ウェインライトに残された【天魔士】の獣。その末か。だが――腐っても【龍】だ。俺達だけでは足止めにしか……」
「はい♪ ですので~★」「私達も参りました。……別件もございますが」
「「「!」」」
瓦礫の中から飛び出してきた【龍】に、光が纏わりつく。
直後――絶対的な防御力を誇っていた魔法障壁ごと、無数の脚がバラバラに切断された。気持ち悪い血しぶきの中、大鎌を背負ったメイドさんが突撃。
刃が光を発し――【龍】の尾を両断した。
リドリー様の顔が引き攣り、蒼褪めていく。
『~~~~~~~~~っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
【龍】が絶叫し、灰色の魔法を発動させ、無理矢理再生を試みる。
……だが、駄目。
どういう原理なのか、傷口が埋まっていかない。アレン先輩と同じ魔法阻害!?
唖然としていると、建物の上から聞き慣れた声が降ってきた。
「……アンナ、ケレブリン……余り派手に攻撃しないでおくれ。僕の攻撃が地味に見えてしまう。生徒達の前だ。少しは格好つけたい」
「「えっ!?」」
俺は今日最大の驚きを発し、ゾイは唖然。
そんな中、【龍】の周囲を漆黒の光が飛び交い――
「「「!?」」」
虚空、地面から『剣』と『槍』が顕現し、貫いた。
そのまま空中で固定し――指の鳴る音。
すると、一瞬で四角い箱が生まれ、圧縮し消えた。
――帽子を被った初老の男性が先程まで【龍】がいた場所へと降り立つ。
俺とゾイは思わず叫んだ。リドリー様は今にも逃げ出しそうだ。
「「き、教授!?!!!!!!」」
「やぁ、ギル、ゾイ嬢。元気そうで何よりだ。リドリー、久しぶりだね。ああ――逃げるのは止めておきたまえ。『死神』と『首狩り』相手の逃走は自殺行為だよ。何より、君の母親に……フィアーヌに知られたらどうするつもりだい? 僕の知るリドリー・リンスターはあの子を怒らせる程、蛮勇じゃないと思うんだがね」
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