第50話 雷狼
僕の決意を叩きつけられた空中の天使は、顔を歪め、
『!!!!!』
絶叫しながら、鋼翼を広げると突進してきた。
狙いは――僕!
咄嗟に光弾を速射するも、次々と出現する鋼の楯によって弾かれ、届かない。
少し離れた場所にいるアーサーが注意喚起。
「アレン! ぬっ!」
ララノアの英雄様に対し、無数の鋼刃が襲い掛かり、強烈な牽制。
双剣で悉く弾いていくものの、僕を支援出来そうにはない。
『~~~~~~!!!!!』
天使が金切り声をあげながら、右手に刃の分かれた大剣を顕現。
周囲全てを切り裂きながら、見る見る内に迫りくる。
アリスが腕組みをし、名前を呼んだ。
「アレン」「うん」
短く応じ――僕は身体に雷を纏った。
獣耳と尻尾が大きくなるのを感じながら、『雷神化』。
瞬時に加速し、
「――この力、そんなに使ったことがないので」
『!?』
無数の鋼楯に守られている天使の後方へ躍り出て、雷槌を形成した魔杖を思いっきり叩きつける。
強大な魔法障壁が、僕の打撃を阻もうとするも――
『♪』
僕の中でアトラが歌うと、植物の枝のような雷が走り、天使の魔法式を貫き、崩壊させた。
対して、『悪魔』と対を為す、伝説の存在は超反応。
石畳に叩きつけられる寸前で、手に持つ大剣を突き刺し、衝撃を殺してみせた。……とんでもないな。
建物や石壁、後方の大聖堂すらも、次々と破損していく中、唯一無傷の石畳上で、僕の戦いぶりを見ているアリスが満足気に論評。
「ん。【雷狼】の名に恥じない。欠けてる八大公のどれか継ぐ?」
「……荷が重いよ」
空中に作り出した氷鏡へ降り立ちながら、僕は苦笑し、顔を歪ませている天使へ視線を戻した。
虚を突いたものの、殆ど打撃は無し。
しかも、僕達はこの後、『賢者』や使徒を追わなければならない。奴等は本来なら、切り札扱いになる『人造天使』を足止めにした。何を企んでいるのかは分からないけれど……間違いなく禄でもない話だろう。
アトラと花竜の杖の力を借りても、僕自身が使える魔力には限界がある。アーティを救うことを考慮しても、長期戦は極めて不利だ。
アーサーへ目配せすると、微かに頷いてくれた。
白金髪の美少女も、魔杖をくるくると回転させ、目を細める。
「…………余り時間がない。『龍の心臓』と世界樹の最も古き新芽を分離する。後は、子犬の意志次第。邪魔者が来る前に片を付ける」
「了解っ――!」
僕はそう叫び、雷を最大活性。
氷鳥も周囲を飛び回り、防御用の氷花を展開してくれる。
天使が大剣を引き抜き、背中に更なる鋼翼を形成し、威圧。
『!!!!!!』
アーティとは似ても似つかない咆哮を上げ、無数の鋼槍を放射した。
同時に、僕とアーサーも突撃を開始!
たった今作成した、雷と氷の花楯を信じ、遮二無二、鋼槍の嵐を突っ切る。
先に弾幕を突破したのはアーサーだった。
「悪いが――手加減はせんっ!!!!!」
『!』
双剣が煌めき、天使の翼が断ち切られる。
半瞬遅れ――僕も鋼槍の嵐を凌ぎ切り、魔杖に光、雷、氷、三属性を混ぜた刃を顕現。
残り双翼を両断!
すぐさま、全力で二属性浄化魔法『清浄雪光』を全力発動。
天使の瞳が大きく見開かれ、心臓部分が激しく明滅し、背中に残る『鋼』が凍結していく。
『ガァァァァァァ!!!!!!!!!』
「「っ!」」
僕とアーサーが魔力の衝撃波で吹き飛ばされ――無数の閃光が走った。アリスが未知の雷魔法を放ったのだ。
天使は魔力を振り絞り、数千、数万の鋼楯で防ごうとするも、薄紙が剥かれるように、砕かれ、遂には貫かれる。
『!!!!!』
天使の瞳が、蜥蜴や蛇の瞳へと変わり、不気味な光を発する漆黒の魔法障壁を展開。アリスの雷と拮抗した。
美少女は嫌そうな顔をし、呟く。
「……生前は【闇龍】。世界樹の力と『白の聖女』の力を取り込んで、乗っ取ろうとしている。時間がないのに、面倒」
「アリス!」
どうすればいい?
と、僕が尋ねようとした、その時だった。
――大聖堂上空の大気が鳴動。
光が走り、巨大な魔法陣が展開していく。
僕とアーサーは目を見開き、絶句。
「あ、あれは……」「な、何だ? 新手か!?」
「…………はぁ」
驚く僕達に対し、アリスは魔法発動を止めた。
魔杖を器用に回転させ、後方へ。
――背筋に寒気が走った。
淡々とした美少女の命令。
「跳んで」「「っ!」」
『~~~~~~!』
躊躇なく跳躍すると、その直後、アリスは無造作に魔杖を薙いだ。
アーティの身体を乗っ取った【龍】の瞳に恐怖が生まれ、百を超える魔法障壁を展開し、光り輝く一撃を抑えにかかった。
アリスが不機嫌な声で、指示を飛ばした。
「――……全力で浄化。その後、意識が戻るまで完全拘束。役に立て、弱虫毛虫と腹黒王女」
「「言われなくてもっ!!」」
「えっ!?」
上空に『花』が顕現――大規模転移魔法!
驚く間もなく、その中から、【龍】目掛けて、巨大な純白の『火焔鳥』と眩い光が降り注ぎ、白炎と光が全てを浄化していく。
片手で目を守っていると――抱き着かれる感触。
視界の外れを、紅髪が掠めた。
「リ、リディヤ!? ど、どうして――……」
「………………バカ」
僕に抱き着いてきたのは、王国の王都に居る筈のリディヤ・リンスターだった。瞳には大粒の涙が滲んでいる。
真新しい剣士服に身を包み、地面に突き刺しているのは炎剣『真朱』だ。
……どうやら、心配の限界を超えてしまったようだ。
背中に手を回し、頭を優しく撫でる。
「……ごめん」「……ダメ。許さない」
「そうよっ! 許さないんだからっ!! あと――リディヤ、代わってっ!!!!!」
「え、えーっと……」「五月蠅い……」
僕は困り、リディヤは、浄化され無防備になったアーティを光の鎖で捕縛している、長い金髪で、白基調の魔法衣に身を包み、宝珠付きの長杖をぶんぶん振り回している少女へ目を細めた。アリスに到っては腕組みをし、胸を親の仇のように睨んでいる。
アーサーも困っているので、僕は尋常ではない光魔法を発動させている、少女の名前を呼んだ。
「……シェリル、君まで来る必要はなかったんじゃないかな?」
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