第43話 決戦! 魔工都市!! その➆
魔杖の宝珠が激しい光を発し、
「「っ!」」
ギルとゾイが驚く中、雷を纏った氷柱が地面を駆けた。
一本の血槍をなり、僕を貫かんとしていたイゾルデが犬歯を剥き出しにして嘲る。
「今更、そんな魔法っ! 効くものかっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
確かにそうだ。
吸血鬼の魔法障壁は、『竜』にこそ幾分劣るものの、歴戦の魔法士や、若い『悪魔』を上回る。
魔法介入で崩そうにも、生き物のかのように形を変え、都度暗号まで変える為、演算能力で上回るのも困難。普通の方法では、打撃を与えること能わず。
――が、何事にも例外はある。
僕の放った『氷雷』は、一直線にイゾルデへと向かい、
「!?」
直前で弾け、無数の氷片となった。
恐るべき魔法障壁と接触する度、純白の電光が走る。
そして、
「なっ! こ、これは!?!!」
「……魔法障壁を」「消失、させてる?」
イゾルデが驚愕しながら、態勢を変え回避行動を取る中、ギルとゾイが後方で呟くのが聞こえた。僕は自分の魔力を用い、氷風を放つ。
すると、無数の氷片はまるで意志を持つかのように吸血鬼へと纏わりつき、手を足を、羽を、髪を凍結させていく。
「こ、こんな……こんな魔法で、私をっ!!!!!!」
イゾルデが絶叫し、魔力を振り絞り、逃れようとするが……氷の勢いは増すばかり。あれ程、強大だった魔法障壁は今や完全に消失し、氷風は氷嵐へと変貌しつつある。
……自分で創っておいてなんだけど、この魔法、おっかないな。
ギルとゾイが我に返り、僕の前へ回り込みながら、詰問口調で聞いてきた。
「……アレン先輩」「……白状してください。今回は何ですか?」
「え? アリスの魔法式をギリギリまで簡易化して、そこに『銀氷』を混ぜ込んだだけだよ?」
「「……………………」」
後輩達の顔から感情が消え、次いで頭を抱えた。
僕は慌てて補足する。今や、イゾルデの姿どころか屋敷すらも見えない。
「当たり前だけど、本物の『勇者』様が使う魔法式はこんなもんじゃないからね? 黒竜との一騎打ちの話、前にしたろ?」
「…………ゾイ」
「話を振んなっ! ……アレン先輩、王都へ帰ったら」
長い髪を靡かせ、ゾイは大剣を一閃。
氷嵐が吹き散らされ、視界が少しずつ回復していく。
普段は何だかんだ、僕には優しい後輩の少女は大剣を地面へ突き刺し、宣告した。
「裁判を開廷します。こ、こんな魔法を軽々に使ったのを、リディヤ先輩にバレたりしたら…………」
「あ~……大丈夫じゃないかな? ほら? 緊急避難的な話だし?」
「「『勇者』の魔法式を簡単に模倣しないで下さいっ!!!!!」」
「え~……」
後輩達が僕へ詰め寄り、仲良く人差し指を突き付けてきた。
――『吸血鬼の天敵は『勇者』と『魔王』のみ。
後者については見た事はないものの、前者についてなら僕は幾度か、彼女の魔法式を見ている。
敵の方が強大なら、何でも使わないと逆にリディヤに怒られるんじゃ……。
前方の視界が回復し、空中で無数の氷線に捕らわれ、氷像と化しているイゾルデが見えて来た。生きてはいるが……時折、雷が走り動きを阻害している。
後輩達のジト目。
「「…………アレン先輩」」
「某リンスターのメイド長さんを真似て、氷風に混ぜてみたんだ。と、言っても本家には到底敵わないけど。今度、二人にもやり方教えようか?」
まぁ、アンナさんにバレたら怒られそうだし、そもそも、完全再現は余りにも労力が合わないけれども。
そう僕が内心で嘯いていると、ギルが半泣きになりながら、少女の名前を呼んだ。
「………………ゾィィ」
「な、情けない声、出さないでっ! アレン先輩なんだから、仕方ないじゃないっ! 普通の魔法士は、一つの魔法に複数の『罠』なんて仕込めないけど、この人は、息を吸うようにそうするのっ!! リディヤ先輩の教えを思い出しなさいっ!!! 『いい? あいつになろうとするのは止めなさい。心が持たないわ。あいつの真似は誰にも出来ない。背中を追いかけるだけでも、発狂しそうになるかもしれないけど、それは諦めるように』って、散々言われたでしょう! 今こそ、その教えを繰り返し、心を強く保つ時なのよっ!!」
ゾイも動揺しているのか、素の口調に戻り、ギルを叱咤した。
……リディヤ、僕がいない時に後輩達へ何を教えて?
感じ取れる魔力が空になった魔杖を回転させ、軽く否定する。
「二人も何れ出来るって。今度、魔法式は書いておくよ」
「…………まずはテトでお願いするっす」
「ば、馬鹿ですかっ、貴方は!? あの自称『一般人』が、アレン先輩から直々に渡された魔法を受け取ったらどうなるとっ! ぜっっったいっに、使えるようになるまで、何万、何十万、何百万と、試行錯誤をするに決まっているじゃないですかっ! そこは教授を生贄に差し出すべきですっ! 冷静になってください、ギル・オルグレンっ!!」
「! はっ!! そ、そうだったっすね……感謝するっす、ゾイ」
「分かればいいんです、分かれば。『一般人』を名乗る天才様達に惑わされないでください。ユーリにも秘密ですからねっ!!!!!」
「…………今、僕は後輩達から間接的な虐めを受けていると思うんだ。貴方もそう思いませんか?」
溜め息を吐き、僕は魔杖を頭上に突きつけ、睨みつけた。
そこにいたのは、フード付きローブを身に纏った男――自称『賢者』。
男は僕の視線を受け止め、イゾルデを見て唇を歪ませる。
「……イブシヌルの言を受け、使ってみたが、所詮は小娘。時間稼ぎにもならぬか。まぁ良い。その魔杖の魔力を使わせただけ良しとしよう。では」
『!』
男の魔力が膨れ上がり、黒風が吹き荒び始めた。
――本当の戦いはここから。
「始めるとしよう。聖女には悪いが、私はお前を危険だと認識しているよ、『欠陥品の鍵』。ここで、死んでおけっ!!!!!!!」
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