第41話 決戦! 魔工都市!! その➄

 イゾルデが咆哮した瞬間、僕は後輩達へ指示を飛ばしながら、全力で光属性初級魔法『光神弾』を速射していた。


「ギル、ゾイ、攻撃をまともに喰らっちゃ駄目だっ! 吸血鬼は『魔力を喰らう』! 傷を負ったら、治癒魔法も効かないっ!!!」

「「り、了解っ!」」


 呆然と中空の少女を見つめていた後輩達は返答し、大きく距離を取った。

 そして、次々と雷槍や風槍を展開させていく。頼もしい限り!

 

「こんな魔法っ!!!!!」


 僕が足止めで放った光弾を薙ぎ払い、イゾルデが飛翔。

 なりふり構わず、僕目掛けて突っ込んで来る。


「そう易々とっ!」「行かせるかよっ!」


 ギルとゾイが中級魔法で弾幕を張り、次々と直撃させる。

 ――が、効果無し。

 イゾルデの纏う血の色に染まった魔法障壁はまるで生きているかのように動き回り、雷槍と風槍を叩き落とし、砕いていく。

 少女の瞳に愉悦が浮かび、大きく血の剣を振るう。


「死ねっ!!!!!!!!!!!!」

「「「!?」」」


 直後、血の剣身はまるで大きな枝のように分裂。

 咄嗟に僕が張り巡らせた氷壁を粉砕しながら、辺り一帯にある構造物全てを崩壊させていく。

 屋敷を囲む石壁や重厚な正門、地面が切り裂かれる中を、各々別方向へ必死に逃げ回る。

 イゾルデ・タリトーは戦闘の素人。しかし……


「これ程までに圧倒的な魔力を、押し付けられると、そういう不利すらも関係ない、なっ!」


 左手を振り、ギルに襲い掛からんとした血の剣に一瞬だけ無理矢理介入。凍結させ、退避の時間を稼ぐ。

 ゾイが、級友を口汚く罵倒。


「馬鹿野郎っ! 足手纏いになるんじゃねぇっ、公爵殿下が――っ!」

「おっと」


 意識を取られ、背後から貫かれそうになったゾイを、僕は風魔法で吹き飛ばし、魔杖を薙いだ。

 雪風が血の剣を凍結させていく。……アーサーにこの魔杖を渡されていなかったら、まずかったな。

 砕けていく血の剣の奥では、吸血鬼と化した少女が歯軋りし、僕へ憎悪の視線をたたきつけている。……どうやら、使徒か『賢者』に偽情報を吹き込まれたか。

 魔杖を振り、猛吹雪を巻き起こし、少しの間、時間を稼ぐ。

 すぐさま、僕の前へと降り立ったギルがゾイを揶揄。


「足手纏いはいらねぇっすよ? 辺境伯爵令嬢?」

「っ! う、うっせぇっ!!」

「ギル、ゾイ」

「「! は、はいっ!!」」


 強張った顔ながら、普段通りじゃれ合っている後輩達の名前を僕は呼んだ。

 ――イゾルデの後方に聳える屋敷内に、未だ他の魔力反応無し。

 使徒達は戦略禁忌魔法を発動しており、戦場には出て来る余裕はないのだろう。

 この魔法を作ったのは、人の極致――リナリア・エーテルハート。

 天候を変えるなんて滅茶苦茶な魔法、如何な使徒でも他に何かする余裕はない筈。

 つまり……僕は魔杖を回転させる。


「二人共、吸血鬼と戦った経験はあったかな?」

「……アレン先輩」「……普通はないんですよ?」


 後輩達が何とも言えない顔になり、返してきた。吹雪の奥で、薄っすらと少女の影がゆっくりと剣を掲げていくのが見えた。

 僕は魔法を静謐発動させながら、片目を瞑る。


「そうかな? 僕は、王都に来て以降で、『竜』『悪魔』『吸血鬼』と遭遇したし、千年を生きる怪物ともやりあったよ? 二人も、教授と関わっていれば、すぐにそうなるさ。現にもう『吸血鬼』には遭遇したわけだしね」

「…………遠慮したいです」「アレン先輩、後輩虐めは良くないと思います」


 二人は普段の口調すらも忘れ、心底嫌そうに呟いた。少しはほぐれたかな。

 苦笑し、外套を整える。アーサー達は……まだ、時間がかかりそうだ。


「大丈夫! 何れ、どちらとも出会うさ。取り合えず、今は――目の前に集中しよう」

「「!」」


 猛吹雪が血の斬撃で切り裂かれ、四散。

 射線上にあった後方の通りや建物が薙ぎ倒されていく。

 秀麗な顔を歪め、血の大剣を軽々と片手で持つイゾルデへ目線を向けながら、僕は後輩達へ『吸血鬼』の特徴を伝達。


「『吸血鬼』は人にとって、最悪の相手の一角だ。圧倒的な魔力に物を言わせた、身体強化に、殆どの剣士、魔法士は太刀打ち不能。再生能力と俊敏性をも併せ持ち、月のある夜は圧倒的な魔力を更に増す。弱点は存在しない。天敵と言えるのは勇者と魔王のみ。遭遇した場合は、全力で逃げることを推奨するよ」

「……逃げられない場合はどうするんですか?」


 ギルが斧槍に全力で魔法を紡ぎながら、引き攣った顔で聞いてきた。

 その隣でゾイは、『英雄殺し』の準備を開始している。

 僕は魔杖に氷刃を形成しながら、軽く答え、地面を蹴った。


「そんなの決まってるだろう、ギル――勇気を振り絞って、立ち向かうのさっ!」

「真正面からっ。舐めるなっ! 『欠陥品』っ!!!!!」


 イゾルデが叫びながら、血の大剣を大きく振るおうとし――直後、大きな瞳を見開いた。

 突如、無数の氷の枝が少女の大剣、手足、翼を拘束したからだ。


「こ、これは……先程の吹雪の」

「実戦経験が不足しているんですよっ!」

「っ!?」


 少女に対し、至近距離から光弾を応用した閃光弾を速射。

 人よりも圧倒的に身体能力が勝る故に、反応してしまった目を眩ませ、射線上から退避する。

 ――名前は呼ばなくとも、頼りになる後輩達は僕の欺瞞突撃に呼応してくれれいた。


「ゾイっ!」「分かって、るっ!」


 大咆哮をあげながら、雷属性極致魔法『雷王虎』が発動。

 イゾルデ目掛けて飛び掛かり、ゾイは大剣を両手持ちにとんでもない風の斬撃を解き放つ。


「「いっけぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!」」


 二人が声を合わせて叫び、現時点での全力攻撃がイゾルデに襲い掛かる。

 目を押さえ苦しんでいる少女は、左手を突き出し魔法障壁を展開しようとするも、


「!?!!!」

「貴女の魔法は、一度観ていますからね」


 僕は魔杖の力を借りて、無理矢理介入し、魔法障壁を自壊させた。

 嵐を纏い、強大化した雷の虎が吸血鬼へ炸裂!


『っ!』


 雷光が駆け巡り、僕達は声なき声をあげ、衝撃をその場で堪える。

 ――光の中で、少女が手に何かを持ち、あおるのが見えた。 

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