公女IFSS『二人の帰還』上

※大学校卒業後、ティナの問題を解決し旅に出たアレンとリディヤのIFです。

※年齢18歳。

※ティナ、エリーは王立学校に入学を果たし、リィネと共に才媛を謳われていますが、その反面、ステラの焦燥は進んでいます。カレンは猛っている。

※オルグレンの叛乱は計画最終段階。

※聖霊教の手により、ララノアの政権交代が発生。ユースティン内部も内乱の兆し。



※※※


「久しぶりだけど……あんまり、変わってないなぁ」


 王国王都。西方の丘。

 眼下に広がるを見て、僕は苦笑を零した。

 王宮、大学校、王立学校の大樹。学生時代、足繁く通った水色屋根のカフェは流石に見えない。後で顔を出さないとな。


「……ねぇ」  


 背中から拗ねた声。

 振り返ると、そこにいたのは長く美しい紅髪をリボンで纏め、僕とお揃いの外套を羽織ってる女の子だった。腰には二振りの剣を提げていて、腕組みをし、ムスッ。

 恭しく、頭を下げる。


「何でしょうか? リディヤ・リンスター公女殿下?」

「……公女殿下、禁止」


 冷たく返され、詰め寄られる。

 リディヤは王国四大公爵家の一角にして南方を統べる、リンスター公爵家長女であり、『剣姫』の称号をも持つ本物の御嬢様なのだ。

 御先祖様にはウェインライト王家の血筋も入っていて、王位継承順位すらも持っている。

 そんな子が、孤児で、獣人の養子である僕と一緒に行動を共にしているのだから人生は何が起こるか分からない。

 紅髪の少女にシャツの首元を細い指で直され、お説教。


「……歪んでる。これから、御母様に会うのよ? きちんとしなさいよねぇ」

「へっ? リサ様と?? き、聞いていないけど?」

「言ってないもの」

「な、何でさっ!」


 僕は慌てふためき、王立学校入学以来、五年以上の付き合いがある相方の少女と視線を合わせた。

 ――学生時代よりも大人びた美貌。

 旅の中で髪型も変えたせいか、不覚にもドキマギしてしまう。

 リディヤは僕の様子を見て愉悦を浮かべ、頬っぺたを突いてくる。


「バカね。あんたと私は、北のちびっ子――ティナ・ハワードが魔法を使えなかった問題を解決した後、そのまま大陸各国を周る長旅に出たのよ? 帰って来たら挨拶をする。当然じゃない? あ、勿論、東都にも行くわよ。お義母様とお義父様に旅の報告をしないといけないしね♪」

「た、確かにそれはそうだけど、僕が気にしているのは、リサ様は普段南都に入らっしゃるのに――……リディヤ、もしかして」

「私が南方島嶼諸国から手紙を送っておいたわ。気が利くでしょう? さ、褒め称えなさい。あと、抱きしめて!」

「…………はぁ」


 僕は嘆息し、この一年の旅路の中で無数の武勲を積み上げた『剣姫』様を優しく抱きしめる。こうしないと、信じられないくらい拗ねるのだ。大学校一年の時よりも、依存度は高くなってしまっているかもしれない。

 ……何度か死にかけたし、心配させてもいるしなぁ。

 紅髪の公女殿下は僕の顔を見て、心底嬉しそうな笑み。


「えへへ♪」

「…………」


 駄目だ。この笑顔には勝てない。

 いやまぁ……そんなの五年前からずっと変わっていないのだけれど。


※※※


「まぁまぁ……まぁまぁまぁ」


 リンスター公爵家の御屋敷前で僕達を真っ先に見つけたのは、栗茶髪で小柄なメイドさんだった。左手で口元を抑え、目を大きく見開いている。

 僕の左側に立っているリディヤが片目を瞑った。


「ただいま、アンナ。元気そうね」

「リディヤ御嬢様!」

「きゃっ」


 メイドさん――リンスター公爵家メイド長を務めているアンナさんは、一瞬で距離を詰めリディヤに抱き着いた。

 瞳を潤ませながら、リディヤの両手を握り締める。


「嗚呼! この日を、どれ程待ちわびたことございましょうっ! 北都より突如、『大陸を巡って来るわ』との御手紙が届いてから早三百七日……リディヤ御嬢様、アンナは……アンナは……!」

「ち、ちょっと、アンナ。人目、人目を気にしなさいっ! ……その、いきなり行って、わ、悪かったわよ。手紙は届いていたわよね?」

「はい! 勿論でございます♪ うふふ……アレン様と星が降ったという谷を見に行ったことや、少しばかり喧嘩をしてしまい、ベッドの中で泣いてしまったこと。リボンを贈られてとても嬉しかった、むぐっ」

「あーあーあーあー!!!!! ち、ちょっと、黙りなさいっ! …………何よ?」


 アンナさんの口元を押さえ、頬を林檎のように真っ赤にしているリディヤが僕を睨みつけた。

 少しだけ考え、意地悪を口にする。


「ん~……もっと凄いこともしたよね?」

「なっ!?!!!」

「! ぷはぁっ! アレン様、その話、後程詳しくお教え願います~★ 奥様がお待ちですので、お早く~♪」


 リディヤの拘束を逃れたメイド長さんが屋敷の中へと逃走。あの剛力から逃れるとは、流石だ。

 ――純白の炎羽が僕を囲むように舞い踊った。

 双剣の柄に手をかけ、公女殿下は微笑。


「……で、遺言は?」

「……野宿する時、『一緒に寝ないとヤっ!』って、散々駄々をこねたのは」


 巨大な『火焔鳥』が顕現し――消失した。

 リボンで結った紅髪を振り乱し、リディヤがむくれる。


「む~! どうして、消すのよぉぉぉ!!」

「いや、消さないと死んじゃうし。あと、そう言うなら魔力を切って――」


 全ての炎羽が消えた。

 リディヤは焦った様子で僕に近づき、左袖を指で摘まみ、上目遣い。


「…………やだ。大人しくするから、切らないで」

「……はぁ」


 溜め息を吐き、こういう所は学生時代よりも少しばかり幼くなったかもしれない少女の頭をぽん。

 ……危機対応の為に、常時浅く魔力を繋ぐのを言い出したのはリディヤだったけれど、失敗だったかもしれない。

 公女殿下は僕の左腕に抱き着き、引っ張った。


「さ、行きましょう。御母様が待ってるわ♪」 

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