第14話 襲撃
僕は受け取った古い杖を振り、十数羽の小鳥を生み出した。
次々と窓から飛び出していく。何をするにせよ、情報が必要だ。
「父上! 御無事ですかっ!?」
アーティ・アディソンが警護の兵を引き連れ、部屋へ突入にしてきた。
壊れた窓、武器を手に持つ老アディソン閣下と、大剣を持ったリリーさんと杖を持つ僕。
少年は腰の剣を抜き放ち、激高した。
「まさか、貴様がっ!」
「え、えーっと……」
「アーティっ!!!!! 馬鹿なことをするなっ!!!!! 状況判断すらも出来ぬのかっ!!!!!!」
『っ!』
アディソン閣下が一喝した。
少年と警護兵達の顔が蒼褪め、震えた。
すぐさま、僕へ向き直り頭を下げて来る。
「――アレン殿、申し訳ない。だが、事が起こってしまった以上、私は、私自身の、『アディソン』の責務を全うせねばならない。最早、一族全員は救えぬ。どうか、息子を頼む」
「父上っ! 何を仰るのですかっ!?」
アーティ少年が慌てふためくも、閣下の瞳は小動もせず。
僕は片目を瞑り、小鳥達の視界を確認。
思わず呻く。
「この襲撃、都市全体で行われていますね。無数の骸骨を召喚する魔法……まさか、大陸動乱時に使われたという禁忌魔法」
「アレンさん!」
窓から飛び込んで来た、骸骨百足の頭をリリーさんが大剣で両断した。
すぐさま、追撃で『火焔鳥』が飛翔。
続けざまに侵入しようとした骸骨達を焼き払う。アーティ少年が叫んだ。
「! ま、まさか……炎属性極致魔法!? そ、そんなっ!」
「――閣下、今はこの襲撃を凌ぐことを考えましょう。都市内で、確定的な御味方は?」
「……『七天』殿とその部下達。それ以外の軍は日和見を決め込むだろう。他にも同志はいるが……」
僕は微かに頷く。
旧権力の中枢たるアディソン邸に大規模襲撃をかけた以上……敵は、今日一日で全てを片付けるつもりだろう。
増援が早期に来る可能性はかなり乏しい。
――魔工都市全体を、気持ち悪い灰白の霧が覆っていく。おそらくは、敵方の大規模妨害魔法だろう。
みんなと早めに合流しないと。
僕は断を下し、老人へ告げた。
「閣下、交渉は一旦中断としましょう。まずは生き残ることを最優先に!」
※※※
リリーさんと共に、屋敷内を僕は駆けた。
既に、異変は伝わっているようで武装した警護兵達が外へ出て行き、急造の陣地を形成しながら各所で戦闘を開始している
前方にいる兵士達を避けるべく、天井へ移動しながら、隣の年上メイドさんへ聞こえるよう叫ぶ。
「まだ、屋敷内には侵入されていないみたいですね!」
「はい~! ――あ~そうだぁ」
器用に姿勢を変えた、リリーさんが悪戯っ子の顔になる。
……凄く嫌な予感が。
床へ着地し、階段を駆け下りる。
「今って、非常時! じゃないですかぁ? アレンさん、私の魔力を~」
「リリーさん、前!」
中階段の窓から、数羽の骸骨鳥が飛び込んで来た。
僕は魔杖の穂先に氷刃を形成――普段通りの力で横へ薙いだ。
すると――轟音。
「「っ!?」」
骸骨鳥達の首を断ち切るだけでなく、分厚い壁をも切り裂き、吹雪を発生させた。
こ、この魔杖……僕は年上メイドへジト目。
「……リリーさん、これ」
「し、知らないですぅ~。『俺がいる時に何かあったら事だ』って言われただけなのでぇ……」
「はぁ……行きましょう」
頭を抱えそうになるのを辛うじて抑え込み、階下へ。
ティナ達の家庭教師を引き受けて魔法制御自体は向上している。
……が、僕自身の魔力は伸びていない。
つまり、今の一撃を出せたのはこの魔杖の力だ。
おそらくは、『氷』属性特化している杖なのだろう。
脳裏にアーサーの言葉が浮かんだ。ほぉ、六属性か。
僕は嘆息し、愚痴を零す。
「……本当に、僕は何も知らないな……リリーさん、その映像宝珠はなんですか?」
「え~? 『悩んでいるアレンさん』って、メイド隊の中では、高値で取引されているんですよぉ?」
「取引しないで――来ますよ!」
「はい~」
リリーさんが急停止。
宝珠を仕舞い、右手の大剣を両手持ちにし構えた。
直後――正面玄関が吹き飛び、無数の骸骨兵達が殺到。
「えいやぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
裂帛の気合を共に、大剣を横薙ぎ。
炎花が舞い踊り、百体以上の骸骨兵達を無に帰していく。
「御見事!」「私はメイドさんですから☆」
後方で、呆然としている警護兵士達へ視線を飛ばし「此処は僕達が抑えます。アディソン閣下を!」と告げた。
――小鳥達が次々と状況を伝えて来た。
ティナとエリー、フェリシアは内庭で無事。
当然だ。何しろ、アンコさんとエプロン姿の『剣聖』リドリー・リンスター様が守ってくれている。今の魔工都市で一番安全だと断言出来る。
ギルとゾイは僕の伝達に従い、屋敷内を駆け回り劣勢に陥った部隊を救援してくれている。あの二人ならば、骸骨達に遅れは取らないだろう。
問題は……年上メイドさんへ話しかける。
「リリーさん」
「はい~? 何です――はっ!」
左手を伸ばし、もう一振りの大剣を顕現させながら、年上メイドさんは小首を傾げ――双大剣を突き刺し、薄っすら頬を染めながらにじり寄って来た。
「うふふ~♪ 覚悟を決められたんですかぁ? 私は何時でもいいですよ? だって、許嫁☆ですしぃ!」
「……なった覚えはありません。今朝、イゾルデ嬢の姿を見ましたか?」
「アレンさんのいけずぅ~。えーっと、朝食は別でしたし、考えてみると、見ていない……まさか」
「――はい。彼女は」
扉だった残骸を吹き飛ばしながら、灰色の鎖が僕達に殺到してきた。
僕とリリーさんは背中を合わせ、一つの旋風と化し、全てを防ぎ切る。
――この魔法は
「情報通り、というわけか。忌々しいっ!」
骸骨兵に守られながら、屋敷の中にフード付き灰色ローブが侵入してきた。
この声、女のようだ。
僕は目を細め、言葉を口にした。
「……聖霊教異端審問官」
「はっ! 私をそのような、者達と一緒にしてもらっては困るなぁ」
嘲りと共に、鋭い犬歯と頬に浮かび上がる『蛇』のような紋章が見えた。
灰色ローブが叫ぶ。
「――我が名はイーディス。聖女様に選ばれし使徒なり! 全てはあの御方の予言通り……来てもらおうか、『欠陥品の鍵』よ」
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