公女7重版御礼SS『二人の出会い』

※アレンが水都、ニッティ家に拾われていた場合のIFです。

※アレンとリディヤが幼い頃からの幼馴染→婚約者(強制)ルートとなります。

※この場合、リディヤは『忌み子』の期間が極めて短く、性格に影はありません。また、本編よりも強いです(幼い時点で魔法が使え、洗練されている為)。

※侯国連合は、リンスターとの繋がりを深め、連邦を侵食していくことになります。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「アレン! 何処にいるんだっ! アレンっ! 出て来いっ!!!」


 屋敷の中から、兄上—―ニケ・ニッティが僕を探す声が聞こえてくる。

 兄上は今日もお元気そうだ。

 屋敷傍の木の上で本を読んでいた僕は、眼下を見渡す。

 

 引っ切り無しに入港、出向を繰り出す多数の商船。

 魚を採りに行く漁船や、上空を飛ぶたくさんの海鳥。

 初夏の生暖かい風と微かな潮の匂い。

 

 何となく嬉しくなってしまい、にこにこ。

 ――此処は侯国連合の水都、ニッティ家の屋敷。

 今日は、連合北部位置するウェインライト王国、その四大公爵家の偉い人が来る見たいで、朝からみんな騒がしい。

 ただし、僕の名前は『アレン・ニッティ』ではあるけれど、拾われ子。あんまり関係はない。

 精々、屋敷内が五月蠅くなって、本が読みにくくなるくらいだ。

 さて、と本の続きを――


「ねぇ、そこでなにをしているの?」

「?」


 窓枠から顔を覗かせ、僕に尋ねてきたのは見知らぬ男の子だった。

 帽子を被り、白の半袖と半ズボン。紅い髪で白い肌。年齢は僕と同じか、もう少し年上に見えるから、六歳とかかな?

 でも……こんな子、屋敷にいたかなぁ?


「……ねぇ、きいてる?」

「あ、う、うん。聞いてるよ。今日は、王国の偉い人が来て、屋敷の中は五月蠅くなるんだ。本を読んでると、兄上にも文句を言われるし……」

「ふ~ん。……どうやって、そっちへいけばいいの?」

「えっと……出来れば来てほしくないんだけど……?」

「とべばいい?」

「…………」


 本気で来るつもりみたいだ。

 まぁでも、流石に跳んだりは……少年は窓の欄干に足をかけ、躊躇なく


「わっ!」

「ここがひみつきち?」


 跳躍して枝に着地。衝撃で葉っぱが舞い、少年の前髪に何枚かくっついた、

 僕の隣に腰かけ本を手に取る。

 そして、ぷくぅ、と頬を膨らまし、返して来た。


「……まほうの本は、おもしろくないっ!」

「そんなことないと思うけどなぁ」

「おもしろくないのっ! ……だって、まほうつかえない……」

「? 今、使ってたよね??」


 窓からこっちへ跳んだ時、確かに身体強化魔法を使っていた。

 多分、兄上よりも凄かった気がする。

 すると、ますます頬を膨らまし、少年はそっぽを向いた。


「…………そうじゃなくてぇ」

「えーっと……こういうの?」

「!」


 極僅かな風を発生させ、帽子の葉っぱを取る。

 輝く紅髪も揺れ、光を反射。ぴかぴかだ。あと、いい匂いがする。

 僕は手を伸ばし、一枚だけ前髪に引っかかっているのを取った。


「~~~!」


 すると、少年は何故か身体を硬直。はて?

 僕は少しだけ疑問に思いつつ、微笑む。


「髪の毛、綺麗だね」

「……毎晩、アンナとマーヤにあらってもらってるから」

「アンナとマーヤ?」


 知らない人の名前だ。

 多分、女の人だとは思うけど……メイドさんと一緒にお風呂へ入ってるのかな?

 少年が、にじり寄って来た。僕は後退る。

 すると、またしてもにじり寄って来る。僕も再び後退り――背中に幹がついた。


「…………ねぇ」

「な、何かな?」


 手が伸び、僕の左袖を指で摘まみ、上目遣い。

 そして、恥ずかしそうにこう告げてきた。


「…………あたしに、まほうをおしえてくれる?」

「…………えーっと」


 僕は自分が根本的な間違いをしていたことに気付き、激しく動揺する。

 ――普通、男の子は自分を『あたし』とは言わない。

 風が吹き、帽子が飛ぶ。


「きゃっ!」「おっと!」


 僕は帽子を手を伸ばし掴んだ。

 必然、短い紅髪をした女の子との距離が縮まる。


 ――綺麗な瞳が僕を見つめていた。


 そこにあるのは、祈りにも似た何か。ちょっと、思いつめているみたいだ。

 僕は頬を掻き、告げた。


「……いいよ」

「! ほんと!?」

「うん。――……ただし」

「……ただし? あ! あたしとけっこんしたい、っていうのはだめだからっ! あたしよりもよわい男の子はがんちゅうにないの!!」

「……いや、そうじゃなくて……」

「……どーして、ちがうのよぉ?」


 女の子がとても不機嫌そうに唸る。

 ……ど、どうすればいいんだよぉ。

 困ってしまったので、早口で要求。


「僕は君に魔法を教える。その代わり、君は」

「あたしは?」


 再びの突風。

 葉っぱが舞う中、僕はお願いを伝えた。

 すると、女の子は、満面の笑みを浮かべ、頷いたのだった。


 …………それが今から、十二年前のお話で。


※※※


 目を開けると、柔らかい枕に頭を乗せられ、髪を優しく撫でられていた。

 ――そこにいたのは、美しく長い紅髪で、私服姿の美少女。

 僕の幼馴染であり、先頃、婚約者になった、王国四大公爵家の一角、リンスター公爵家長女『剣姫』リディヤ・リンスター。

 淡い魔力灯の中で、信じられないくらいに綺麗だ。

 一先ず、挨拶をする。


「おはよう、リディヤ」 

「おはよう。もう、夜だけどねー」

「……色々と聞きたいことがあるのだけれど、どうして、僕は膝枕をされて、頭を撫でられているのかな? あと、一応、鍵もかけておいたんだけど?」

「……何よ? 世界で一番可愛い婚約者の膝枕に頭撫で撫でが気に喰わないわけ? あ、鍵は、こんなこともあろうかとアンナに合鍵を作らせておいたわ♪」

「酷いなぁ。……懐かしい夢を見たよ」

「ん~?」


 リディヤが心から嬉しそうに髪をくすぐりながら、顔を覗き込んで来た。

 僕も自然と微笑み、手を伸ばし頬に触れる。


「覚えているかな? ほら、君が初めて水都へ来てさ」

「……覚えてる。アレン。私を男の子だと思ってた!」


 長い紅髪がさらさらと落ちる。

 僕は気恥ずかしくなり、視線を逸らし起き上がろうとした。


「そろそろ、夕食だよね? 起きないと――」

「『僕は君に魔法を教える。その代わり、君は――髪を長く伸ばしてほしい。男の子と間違えないように』。あ~酷い話よね~。幼気な女の子の髪型を決定する男の子なんてっ! なんてっ!!」

「……似合ってるよ?」

「……えへ♪」


 リディヤは幸せそうに微笑んだ。

 そのまま、顔が近づいてきて――


「アレン様~♪ 美味しい、美味しい、夕食ですよぉ~☆ 今晩は私、メイドさんの中のメイドさん、リリー御手製で~…………あ」

「………………うふ★」


 突然、入り口から入って来た紅髪のメイドさん――リリーさんは口元を大袈裟に抑えた。

 リディヤが微笑を顔面に張りつけ、ゆっくりと立ち上がる。

 そして、立てかけてあった剣を手に取り、


「リリー、今日という今日は勘弁ならないわ……。私とアレンの時間を邪魔する者、死すべしっ! しかも――御手製の夕食ですって?」

「ふっふっふ~ん♪ だって、私の方が御料理、上手ですしぃ?」

「…………」


 あ、ヤバい。

 炎羽が舞い踊り、リディヤは無言で剣を抜き放ち、長く美しい紅髪を靡かせ、胸を張っているメイドさんへ襲い掛かった。

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