公女IF『アレン・ニッティは怠惰に過ごす 下』
※このルートだとアレンとリディヤ、幼い頃からの知り合いです。つまり……幼馴染属性追加!
※結果、リディヤは純粋に成長している+アレンと同じ学校を選んでいるので、本編よりも純粋戦闘力は上です。
※アレン自身の戦闘力も、本人の努力+ニッティの水魔法+各種貴重な文献で向上しています。
※侯国連合、東方の連邦を叩き、幾つかの都市を併合しています。また、リンスターとの対決を指向していません(※対決派は粛清済み)。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「…………こんなもんかな?」
自室の姿見に映る自分を確認。
淡い青の礼服……う~ん、久しぶりに着たな。
本当は、堅苦しい晩餐会になんか出たくないし、読みかけの古書を読んでしまいたいのだけれど……額に手を置く。
脳裏に浮かぶのは両腰に手を置き、眼光鋭く僕を睨む長く美しい紅髪の幼馴染。
「……あいつが来るなら仕方ないか……顔を出さないと斬ってきそうだし」
その時、控え目なノックの音が響いた。
視線を入口へ向け、返答。
「開いてるよ」
「失礼します!」
元気溢れて声。
飛び込んできたのは、薄青髪で嬉しさが前面に出ている少年だった。
「兄様! 今晩の晩餐会、参加されるとお聞きしましたっ! 僕と一緒に行きましょうっ!」
「……ニコロ、僕と一緒だと悪い意味で目立つよ?」
「大丈夫ですっ! 兄様と一緒に行くのは世界で一番の名誉ですっ!! あと、ニケ兄様から厳命されていますっ!! 『……連れて行け。お前が言えば断らん』と!」
「…………兄上は困った御方だ」
僕は肩を竦める。
あの苦労がよく似合う義兄は、何が何でも僕を表舞台に引きずり出したいらしい。
最近は仕事のし過ぎているようだし、義姉に忠告しておくとしよう。あれであの人は、愛妻家の中の愛妻家なのだ。
ニコロが上目遣いに尋ねてくる。子犬みたいだ。
「……兄様、ダメ、ですか……?」
「――……ダメじゃないよ。一緒に行こうか。でも、向こうに着いたら別行動だ。僕は今晩、怖い怖い『剣姫』様の御相手をしないといけないからね」
※※※
水都の大議事堂内に設けられた晩餐会会場には多くの人が集まっていた。
顔を見る限り――侯国連合の有力者はほぼ全員がいるようだ。
ニコロは周囲をきょろきょろ。
「わーわーわー。兄様! 凄いですねっ!!」
「そうだねぇ――……見つけるのがお早いですね、アンナさん」
僕は弟に答えつつ、後方を見ずに名前を呼んだ。
くすくす、という笑い声。
「バレてしまいましたか♪ 流石はアレン様☆ 三ヶ月ぶりでございましょうか?」
「……それくらいですね」
振り返るとそこにいたのは、栗茶髪のメイドさんだった。
――ウェインライト王国四大公爵家が一角、リンスターのメイド長さんであるアンナさんだ。
僕がチビの頃からの顔見知りで、色々と御世話にもなってきた。
人見知りなニコロは、自分付のメイドであるテゥーナの背中に隠れる。
アンナさんに尋ねる。
「……貴女が来て居る、ということは」
「はい♪ リディヤ御嬢様もお越しでございます☆」
「…………機嫌は」
「今朝方、『真朱』を抜かれて火力調整をされておられました★」
「………………逃げてもいいですか?」
「ん~構いませんが、捕まったら南都に拉致されると思いますが?」
メイド長さんが当然のように告げて来る。
……どうしよう。反論出来ない。
水都を飛び級卒業して以来、あの幼馴染とは会っていない。
何しろ、彼女は『公女殿下』。社会的立場がある。
……僕も兄上に付き合って、少しばかり忙しかったし。
瞑目、嘆息し聞く。
「……あいつは何処に?」
「――此処にいるわよ」
涼やかな――けれど、はっきりと『私、不機嫌なんだからねっ!』が込められている声がし、深紅のドレス姿の美少女が近づいてきた。
腰には二振りの剣を提げている。
周囲がざわめく。
「あれは……」「お美しい……」「リディヤ・リンスター公女殿下だ」「大陸西方に名を轟かす『剣姫』にして、次期リンスター公爵を送り込んで来るとは」「かの公爵家も本気か……」。リディヤは色々やらかしているので有名人なのだ。
僕は片手を挙げる。
「やぁ、リディヤ。久しぶり」
「…………理由!」
言葉の外の意は『会えなかったのは何故? 気に喰わなかったら、斬って、燃やして、斬って、拉致するっ!!!』。のっけから、言葉の選択を間違えられない。
けどまぁ……こう見えて僕は正直者なので。
「忙しかった! 以上っ!!」
「し・ね★」
リディヤが双剣を瞬間抜剣し――即座に鞘へ収める。
音が後から聞こえ、前髪が数本、尊い犠牲。
ニコロは目をぱちくりし、震えている。
肩を竦める。
「……酷いなぁ。当たったらどうするのさ?」
「酷くないっ! 幼馴染の私をほったらかしにする方が余程、重罪――……まぁ、いいけどね」
「?」
珍しく、リディヤがあっさりと引き下がった。変だな? 普段なら、延々と僕をなじって、なじって、最後は甘やかさないと機嫌が回復しないのに。
……嫌な予感がする。
これは、離脱した方が――左手をがっしりと拘束される。
『剣姫』様の瞳には獲物を捉えた喜びが浮かんでいた。
「くっ! リ、リディヤ! は、離しておくれ、よっ。ほ、ほら? み、みんなが見ている、よ?」
「離さない。…………この三ヶ月、凄く寂しかったんだからね?」
「っ! こ、ここでその顔は――」
本気の声色と拗ねた表情に狼狽し、文句を言おうとした――その時だった。
室内の照明が落ち、壇上に兄のニケ・ニッティが立った。
「皆、よく集まってくれた。端的に――本日、東方の連邦、そして、北方のリンスターとの合意が成された。戦はない! 今後、我等は大陸西方全体を商圏とすべう、邁進してくとしよう。今晩は多いに食べ、飲み、語らってくれ――ああ、一点だけ報告をしておきたい。アレン、リディヤ公女殿下、此方へ」
兄の視線が僕を貫く。
……しまった。
こ、これは……これは罠だっ!!!
全力で逃走を試みようとするも――リディヤは左腕に押し付け、僕を引っ張っていく。瞳にあるのは、強い興奮と歓喜。アンナさんや、リンスターのメイドさん達は、僕の逃走に備え、第一種戦闘態勢。くっ!!!!!
僕は一縷の望みを弟を見やる。ニコロ! 僕を助け――小さな舌を出してきた。
「ニコロっ!?」
「兄様、ごめんなさい! 頑張ってくださいっ!!」
孤立無援とはこのことか。
そのまま壇上へと引きずり出された僕へ兄が囁く。
「(……私だけが苦労するのは納得出来ん。貴様も精々苦労せよ。そして――大陸全土にその名を轟かせるがいいっ! その為ならば、私は苦労を惜しまんっ!!)」
「(…………兄上、僕は怠けていたいんですが)」
鼻を鳴らし、ニケ・ニッティは高々と宣言。
「此度――我が弟、アレン・ニッティと、ウェインライト王国四大公爵家の一角、リンスター公爵家長女『剣姫』リディヤ・リンスター公女殿下との婚約が正式に交わされたことを報告する! どうか盛大に祝ってくれ!!!」
一瞬、静寂が満ち――大歓声が響き渡った。
常に侯国連合にとって、恐るべき仮想敵だったリンスター。
その相手との和解が果たされる。悲願の達成が成されたのだ。
リディヤが僕の肩に頭を乗せてきた。
「……ねぇ? 嬉しい……?」
「……それ、言葉にしないとダメかな?」
「……ダメ」
「……仕方ない公女殿下だなぁ」
僕は左腕を抜いて向き直り、片膝をついた。
そして、準備しておいた贈り物――薄い青と薄い紅が混ざり合っている腕輪を取り出し、リディヤの左手首に着ける。
幼馴染の少女は右手を自分の胸に押し付け、瞳を大きくし――頬を真っ赤にした。
早口で返答。
「……ま、まぁ、こういうことだよ……」
「…………バカ」
※※※
この後、ニコロの王立学校進学を契機に、僕等は王都へ出向き――リディヤと同じ『忌み子』の少女に出会うことになるのだけれど、その話はまた別の機会に。
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