公女IF『アレン・ニッティは怠惰に過ごす 上』
※アレンが侯国連合が水都の名家ニッティに拾われた場合のIFです
※ニケ君、既に家督を継承しています。多忙の多忙。
※アレン、水都で学問を修め、現在は部屋住みの身です。
※ニコロ君、幽閉状態ではなく、自由の身。休日の大分部はアレンの部屋に入り浸っています。兄様、尊敬なわんこ。
※このIFのアレン、ルブフェーラIFとは異なる強さ。……と、いうよりも、怖さを持ちます。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「では――これにて商談成立、ということで」
「異議はない。よろしく頼む。連邦産の物品を扱えたいと思っている者は水都にも多いからな」
目の前の豪華な椅子に座る、眼鏡をかけている青年が慇懃に頷いた。早くも次の書簡に目を走らせている。
やや長い薄青髪で礼服姿。年齢は精々二十代前半。
本来ならば、連邦随一の大商人である私が直接交渉する歳ではなく、またその態度にも若干の不快感を覚える。
しかし……私は立ち上がり、深々と頭を下げた。
「『侯国連合はニケ・ニッティによって持つ』と謳われますニケ・ニッティ様の言、大変有難く。よろしくお願いいたします」
「…………買い被りだ。私は見ての通りの家督を継いだばかりの若輩者に過ぎない。連邦、更には東方諸国をも商圏と出来れば、北はユースティン、西は南方島嶼諸国、南は我が侯国連合が繋がり、莫大な利益が齎されるだろう。大多数の人間は自らの財布に豊富な金貨あるのなら、争いを望むまい。我等も連邦との戦を欲してはいない。連邦首脳部にそう伝えてもらいたい」
「……必ず。では、失礼を致します」
平然と恐るべき構想を口にした青年に畏怖を覚えつつ、私は部屋を辞す。
――戦を望んでいない。
先年の国境紛争での大敗以降、連邦内で高まりつつある『侯国連合脅威論』も、実際に金貨の重みを感じれば、収束していだろう。
戦は儲かる。……が、負ければ全ては御破算。
しかも、相手は――……紛れもない怪物。
連邦に戻り次第、各人に説いて歩かねばなるまい。
戦う前から負ける戦なぞ、挑むべきではないのだから。
※※※
侯国連合の中心都市、水都。
その地にて、古くより有力家の一つに数えられるニッティ家別邸の廊下を私――ニケ・ニッティは大股で進んで行く。
途中、仕えている者達が私を見て、ぎょっ、とした顔になり脇に寄るが、気にもしていられぬ。
別邸奥の奥へと進み――扉をノックもせず開け、叫ぶ
「愚弟っ!!!!!!!!!!!!」
「――……兄上、怒鳴らないでください。奥へどうぞ」
「……ちっ」
整然と並ぶ本棚の奥から普段通り、穏やかな声が聞こえてきた。
舌打ちし、部屋の中へと進む。
――本を捲る音。
今日もどうせ古書を読んでいたのだろう。このままでは水都中の文献全てを読みかねない。
やや広い空間に出る。
そこに置かれていたのは木製の机と数脚の椅子。今日は末弟は来ていないようだ。
窓際に立っている淡い茶髪の青年――我が愚弟、アレン・ニッティを睨みつける。
「愚弟っ! 貴様……どうして、今日の商談に来なかったのだっ! 必ず来るようにと言っておいた筈だっ!!!」
「? 兄上がおられるじゃないですか? 『侯国連合はニケ・ニッティで持つ』。最近、諸外国にも知られて来たようですし」
「誰のせいだと思っているっ!!! 貴様が考え、貴様が流布し、貴様が根拠づけを行ったのだろうがっ!!!」
「まさか! 買い被りですよ。あ、紅茶飲まれますか?」
「…………」
私の怒鳴り声にも一切動じず、アレンは手慣れた動作で紅茶を淹れていく。
――豊潤な香り。外国産のようだ。
ソーサーに載った白磁のカップが差し出される。苦虫を噛み殺しながら、受け取り飲む。
アレンは古書を片手に、微笑を浮かべた。
「おそらく――此度の商談で、連邦内の有力商人達はこう認識した筈です。『侯国連合と争っても益はない』と。後は勝手にあちらが忖度をしてくれるでしょう。流石は兄上。名声が益々高まりますね」
「……全て何処ぞの引き籠りの筋書き通りにな……貴様が表に出れば」
「ニッティの血をひいていない僕では、説得力がありませんよ」
紅茶を飲み干し机に起き、睨みつける。
――私とこの愚弟との間に血の繋がりはない。
幼き頃より、私達はこのように噂されてきた。
『――ニッティ三兄弟の内、長男、三男が出来物。なれど、血が繋がっていない次男は平々凡々』
その評通りに、水都の学院を平凡な成績で卒業した愚弟は、以来別邸で日がな一日本を読み、今では国の内外で『穀潰し』と噂されている。
だが……私はアレンを睨みつけた。
「……血……血だとっ? 本音を言ってみろっ!」
「あ~……色々と面倒なので。そういうのは兄上に全部お任せしたいな、と」
「死ねっ!」
私は水属性上級魔法『大海水球』を複数展開し――瞬時に分解され消失。
愚弟が大袈裟に身体を震わし、苦笑する。
「怖い怖い……兄上、非力な弟を虐めて何が楽しいのですか?」
「……私はお前が嫌いだ。大嫌いだっ!」
「僕は兄上のことが大好きですよ? 是非とも、統領になっていただきたい!」
「…………ちっ。――商談は成立した。公式書類に貴様の名を」
「入れたら王国に亡命します。いや? 世界各国を巡る方が楽しいかもですね」
「がぁぁぁぁぁ!!!!!」
私はその場で地団駄を踏む
この愚弟を喪うことは、侯国連合の未来を喪うに等しい。
だが、怠け者故、一向に表に出て来ようとしない。
どうにかして反撃を――先程の書簡を思い出す。
懐に手を入れ、愚弟に手渡す。
「? これは――……あ、兄上」
「聞かん。先方は貴様を名指しで指名してきている。断れる相手ではない」
私は、今日初めて困った顔になった愚弟へ視線を叩きつける。
――精々、苦労するがいい!
才ある者は、働くべきなのだから。
「今宵――王国南方を統べるリンスター公爵家よりの使者を歓迎し、晩餐会が開催される。お前はそこでリディヤ・リンスター公女殿下の御相手をせよ。なに、つい数ヶ月前までは机を並べて学んだ仲であろう? なお、先方はお前が出てこなかった場合、此度の話――南都から水都を結ぶ鉄道敷設の件を白紙にするとも内々に伝えてきている。これはお前が発案したものだ。よもや――断るまいな?」
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