公女殿下の家庭教師IF『聖女様の仰せのままに』下
※この世界線だとアレンがいる分、ハワードが興隆しています。
※ティナとエリーはアレンを兄同然に慕っています。
※相対している帝国は、ハワードの闇が色濃くなっているので頭を抱えています。
※逆にその分、リンスターが大変なことになっています。
※ティナとエリーが王立学校に行く時点なら、まだ辛うじて間に合う感じです
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「アレン! ノート、ありがとう♪ 凄く分かりやすかったわ。明日……私の魔法見てくれる? 王立学校の入学試験前に確かめておきたいことがたくさんあるのっ!」
「勿論です、ティナ御嬢様。寝間着、大変に可愛らしいですね」
「えへへ……ありがとう」
「アレン兄様、わ、私も……あの、その……」
「大丈夫。エリーも見るからね。寝間着も愛らしいよ。さ、今日はもうお休み」
「は、はひっ! ……えへへ♪」
「…………」
アレンが、ベットの上ではしゃぐ寝間着姿のティナとエリーを寝かしつけている。
……とてもとても優しく、頭を撫でながら。
私の時はあんな風にしてくれない。
あ、あと私だって新しい寝間着なのに――彼が視線を向けてきた。
「ステラ御嬢様も一緒にお休みになられますか? その方が、ティナ御嬢様とエリーも安心すると思うのですが」
「え? わ、私は……」
「御姉様! そうしましょうっ! いっぱい、いっぱい、話したいことがあるんですっ!」
「ス、ステラ御嬢様、ダメ? ですか?」
可愛い妹達が私を誘って来る。
こんな目をされたら断れない。
でも――私はアレンを少しだけ見る。え、駅でした話はどうなるの?
彼が妹達の頭を再び撫でた。
「ティナ御嬢様、エリー、少しだけ待っていてください。ステラ御嬢様は、温かくて甘いミルクを飲まないと眠れないので」
「!? ア、アレン!」
いきなり、彼が意地悪なことを言ってくる。
た、確かにそうなんだけど……い、妹達の前で、わざわざ言わなくてもいいでしょう!?
ティナとエリーは口元を押さえ、ニヤニヤした顔で私を見た。
「ふふふ~♪ 御姉様、相変わらず、アレンに作ってもらってんですね☆」
「アレン兄様、わ、私も、の、飲みたいでしゅ……あぅ……」
「あ! エリー、ズルいわよっ! アレン、私にもお願い♪」
「畏まりました。少しお待ちください。ステラ御嬢様、手伝っていただけますか?」
「え? あ、は、はい」
私は一瞬、ポカン、とし、すぐに頷き、アレンの後に続く。
扉を閉める前に、妹達が楽しそうに手を振るのが見えた。
※※※
「……アレンは本当に意地悪だわ。どうして、そんな性格になってしまったの?」
「そうかな? そうでもないと思うけど」
椅子に座り、頬杖をついている私の目の前でアレンが、温かいミルクを三つの陶器製カップに注いでいく。描かれているの可愛らしい狼だ。
キッチンには、当然だけど誰もいなかった。
今、この場にいるのは、私とアレンだけ。
それだけのことで――私の心は高鳴ってしまう。
何となく足をぶらぶらさせて、彼の横顔をちらちら、見る。
――アレンはこうやって見ると、カッコいいと思う。
背もそれなりに高いし、細いけど筋肉がきちんとついているし、執事服も似合っている。
あとは、私に意地悪する分、優しくしてくれれば――
「くしゅん」
くしゃみが出た。
昼間はあんなに暑かったのに、夜になると少し冷える。
――背中に上着がかけられた。
「……ふぇ?」
「ダメだよ。春とはいえ、まだ冷えるから。羽織る物を今、持ってくるから」
「――いい」
「でも」
「――……いい。これがいいの」
ホットミルクを入れ終え、すぐに羽織る物を取りに行こうとしてくれたアレンを呼び止める。
彼の上着を抱きしめていると、多幸感が溢れてきた。
……えへへ♪
私、こんなに幸せでいいのかしら?
しかも、これからもっと、もっと幸せになったりしたら――どうなってしまうんだろう? 心臓、持つかしら?
ふわふわしていると、メイド長のシェリーが顔を出した。
「ああ、ここにいたのね、アレン。――ステラ御嬢様も」
「御祖母様、どうかしましたか?」
普段は沈着冷静なシェリーが少しだけ焦っている?
アレンが私を見た。軽く手を挙げる。
「大丈夫。ティナ達には、私がホットミルクは持っていくわ」
「お願いいたします。転ばないように」
「こ、転ばないわよっ! も、もうっ!」
「ああ、それとですね」
「?」
アレンが耳元で囁いて来た。
「(新しい寝間着、とても似合っているよ。……今度、二人きりになれる時、着て来てほしいな)」
「(!?!!!)」
頬が真っ赤になるのを自覚する。
うぅぅ……アレンの意地悪ぅ……。
※※※
「まったく……こんな夜更けに傍迷惑な」
独白しつつ、月下の王都を駆ける。
御祖母様から伝えられた内容は大変に意外なものだった。
『……御屋敷の四方に張り巡らしている結界が幾つも消失したの。おそらくは侵入者。害意は感じないけれど、念の為、調査をしてちょうだい。お願いね、アレン』
王国四大公爵家であるハワード公爵家の屋敷に侵入を試みる者は、実のところそこまで多くない。
王家との繋がりすら持つ公爵家の力は王国において絶大で、下手に手を出せば火傷ではすまないから。
まして――ハワード公爵家ともなれば、なおの事。
魔法技術が衰退しつつ世になって、逆に興隆している御家柄であり、家中に人材も数多いる。
そんな家に侵入を試みる相手なんて、ここ最近はいなかったんだけど――……人気の一切ない大噴水広場に降り立ち、僕はその人物と相対した。
短い紅髪に、着ている服もこれまた紅の軍服。提げている剣は明らかに魔剣の類。
俯いている為、どんな表情をしているのかは分からないが――女の子だ。酷く、痩せている。
素直に尋ねてみる。
「貴女がハワードの結界を破っていた方――」
瞬間、身体を沈み込ませた。その頭上を神速の剣閃が通過。いきなりかっ!
剣がすぐさま振り下ろされる。魔法で受けるのは――不可!
全力回避を選択し、斬撃の嵐を凌いでいく。
「理由も、無しに、斬りかかるのはっ! 酷いと思います、けどっ!」
激しい金属音。
抜き放った短剣と魔剣越しに視線を合わす。
――その子は、酷く美しかった。
同時に余りにも、余りにも儚かった。
……そう、辛うじて人の形を保っているだけで、もう少ししたら『違うモノ』に代わってしまうような――少女が口を開いた。
「…………アレン・ウォーカー。貴方、『忌み子』に魔法を教えられる?」
「? 何を」
「答えてっ!!!」
悲痛しか感じられない叫び。
……困ったな。
こんな声を聞いてしまったら、どうにかするしかないじゃないか。
――脳裏にむくれる愛しい聖女様の顔が浮かんだ。
魔剣を切り返し、距離を取る。
「――何か、御事情がありそうですね。御名前をお聞きしてもいいですか?」
「……リディヤ。リディヤ・リンスター。…………『元公女殿下』よ」
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