公女殿下の家庭教師IF『聖女様の仰せのままに』上

※アレンが『ウォーカー』に拾われている場合のIFです。

※本編とは全く関係がありません。

※アレン、ステラ様付の専属執事になっています。

※この結果、ステラ様の成長促進+ティナの安定化+エリーの妹化が進んでいます。

※アレン自身の戦闘力は本編よりも上ですが、内政や魔法全般に対する知識量では劣っています。また、ちょっと黒いです。

※ハワードは他公爵家よりも、婚姻については寛容(能力重視)なので、ステラとの婚姻はほぼ確定ルートです。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ティナとエリー、遅いわね。もう到着時刻は過ぎているんだけど……」


 此処は王都中央駅。

 北都からの汽車を待ちつつ、小さな懐中時計を確認してみる。

 ――うん、やっぱりもう定刻は過ぎている。

 何かあったのかしら? 

 もしかして、事故とか!? 

 た、大変――いきなり、首筋に冷たい物が押し当てられた。


「きゃっ!」

「ステラ御嬢様。汽車が遅れることはよくあることですよ。今日は春とは思えぬ暑さです。冷たい果実水でも飲んで、落ち着いてください」


 私に硝子のグラスに入った果実水を渡して来たのは、黒茶髪で執事服を着ている青年だった。

 その顔には意地悪な笑みが浮かんでいる。

 私は文句を言う。


「……う~。『御嬢様』は止めてって、何度言えば分かってくれるの?」

「私はステラ御嬢様の執事なので。それとも――」

「!」


 青年はベンチに座っている私の耳元へ顔を近づけてきた。

 小さく囁かれる。


「(二人きりの時だけは『ステラ』と呼んでいることが王立学校の生徒達にバレてもいいのかな? 勿論、僕は嬉しいけれど)」

「(うぅ~……アレンのいじわるぅ……)」

「(そうだよ? 知らなかったのかな?)」 


 くすくすと笑うこの人の名前はアレン・ウォーカー。

 私の家である王国四大公爵家の一角にして、北方を鎮護するハワード家を長年に渡り支えてきたウォーカー家次期当主。

 小さい頃からずっと一緒に過ごして来た人で、二年前、王立学校に入学した時からは私の専属執事を務めてくれている。

 ――なお、私の大事な人でもある。意地悪だけど。とっっても意地悪だけどっ。

 私は恥ずかしくなりアレンの片腕をぽかぽか殴りながら、冷たい果実水を飲む。


「ステラ御嬢様、痛いんですが」

「……執事の仕事よ。果実水、前に買った時よりも冷たい気がする」

「気のせいでしょう」

「…………う~」


 私は唇を尖らせるも、アレンの微笑は崩れない。

 きっと、温度調節で冷やしてくれたのだ。

 ……こういう所がズルい。本当にズルい。

 普段は意地悪するのに、何だかんだ私を甘やかすのだ。

 王立学校生徒会会長として、如何なる時も私は自分を律して――


「おや? 口元が汚れてらっしゃますよ。お拭きしますね」

「!?」


 あっさりと、アレンにハンカチで口を拭かれる。

 そして彼は硬直した私を見て、くすり、と笑った。


「ア~レ~ン~……わ、私で遊ぶのは止めてっ!」

「はて? 遊んでなぞおりませんが」

「嘘ですっ! そ、そうやって、何時まで経っても、私を子供扱いするんだからっ! わ、私だってもう十五歳なんですよ? す、少しは大人扱いしてください!」

「大人扱い、ですか? ……それは困りましたね」


 珍しくアレンが考え込んだ。

 ――基本的にこの人は何でも出来る。本当に何でも出来てしまう。

 剣術、体術、魔法制御で公爵家幕下に敵う人はいない。

 荒事だけでなく、料理、洗濯、掃除、資産管理まで隙が無いし、王都で流行っている食べ物や服、ちょっとした噂まで、凄く物知りだ。

 

 ないのは……魔力だけ。


 けど、それだって――わ、私と魔力を繋げば何の問題はない。

 彼にだったら、私の全魔力を委ねたって構わない。むしろ、全部使ってほしいな、って思うし。


 そんなアレンが困っている。


 ……もしかして、ここが彼の弱点なのかも?

 私の中で悪魔な『私』が主張する。


『ここよ、ステラ! 偶には攻めなきゃっ! 主導権を握るのよっ!!』

『そ、そうよね』

『ダメよ、ステラ。そんなはしたないことをして、アレンに嫌われたらどうするの?』

『そ、それは……嫌かも』


 天使な『私』が怖いことを主張してきた。


『アレンに嫌われる』


 そんなの無理っ! 絶対に無理っ!! 

 でもでも……私はアレンと、もっと、もっと、仲良くなりたい……。

 私は考え込み過ぎ、執事服の左袖を指で摘まんだ。


「う~……ア、アレン……」

「? ステラ御嬢様。どうされましたか?」

「そ、その……ア、アレンは、わ、私が大人になるのが、嫌……なの?」


 彼は即答してくる。


「いいえ。まったく」

「だ、だったら、ど、どうして、そんな困った顔をするの?」


 じーっと、彼の顔を見つめる。

 ――小さな頃からずっと、ずっと見てきた。

 なのに、飽きない。

 それどころか、どんどん私の心を占領しつつある。

 だって、私はこの人のことが、世界で一番――アレンが私の両頬を軽く摘まんだ。


「???」

「ぷっ……ステラ御嬢様は本当に百面相ですねぇ。見ていて飽きません」

「~~~! ア~レ~ン~……」


 私の感情に反応して、周囲に雪華が舞い散る。

 けれど、それらは青年が指を立てると次々と消えていく。


「雪華を飛ばさないでください。皆さんの迷惑になります。――おや? どうやら、汽車が到着したようです。ティナ御嬢様とエリーが来られますよ」

「……アレンの意地悪。はい、これ」


 ホームに汽車が到着する音が聞こえてきた。

 私は飲み終わったグラスをアレンに手渡す。

 微笑のまま受け取った私の執事さんが戻しに歩いて行く。 

 ……もうっ!

 どうすれば、彼に私をもっと意識させることが出来――耳元で囁かれる。


「(ステラは――『大人扱い』の意味、分かってるのかな? 僕も男なんだけど?)」

「(!? ~~~~~っ!!!!!!!)」


 両頬を押さえ、意地悪な笑みを浮かべている私の執事さんを睨む。


「……アレンは本当に意地悪ね」

「そうですよ? 勿論――ステラ御嬢様にだけですが」

「うぅぅぅ~!」


 ――この後、アレンの腕をぽかぽか殴っていると、妹のティナとエリーが到着して、散々呆れられてしまった。


『はぁ……御姉様、相変わらずアレンにべったりなんですね』

『あぅあぅ……ち、ちょっとだけ、羨ましいでしゅ……』


 わ、私の姉としての威厳が……。

 全部、全部、ぜ~んぶ、アレンのせいっ! 

 後でお説教しておかないと。

 

 ……ね、念の為、お、お気に入りの寝間着、出しておかなきゃ。

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