第29話 脱出
「……リディヤさん、質問したいことがあります」
「何かしら?」
「……昨日の晩は何処にいたんですか?」
「答える必要があるかしら?」
「…………またしても、此処に泊まりましたね? 妹である私の許可無しに!」
「あいつは私の下僕だもの。一々、どうしてカレンに許可を取らないといけないの?」
「…………上等、ですっ!」
瞳を紫に染めたカレンは短剣を引き抜き、空へ放り投げ――雷槍を形成。魔力が活性化し、紫電が飛び散る。……来た途端、これか。
対してリディヤは余裕の表情を浮かべ、徒手のまま。
カレンが後ろを振り返る。
「ティナ、エリー、リィネ! 今日こそ、悪の根源を叩きますっ!! 私に続きなさいっ!!!」
「「「はいっ!!!」」」
「小っちゃいのとエリーはともかく……リィネ、実の姉に逆らうの?」
リディヤが目を細め、赤髪公女殿下を見やる。
対して、リィネは怯まず微笑んだ。
「……姉様、ごめんなさい。リィネは、リィネは悪い子なんです。私だって、私だって――兄様のシャツを寝間着にして、一緒に寝てみたいんですっ!!!」
「……へぇ、いい度胸ね。あれは私だけの特権なのよ? でも……そうねぇ。私と戦いたいのなら」
リディヤは、先程から地面に文字を書いている紅髪の年上メイドさんの首元を掴み、盾とした。
「この――あいつに紅茶の美味しさで敗北した、元自称メイドを倒してからにしなさいっ!!!」
「…………元じゃないですぅ。でもでもぉでもぉぉ……どうせ、どうせ、アレンさんに負けた私なんてぇ…………ぐすんぐすん……もう、お嫁に行けません……」
リリーさんが本気で泣き始めた。
……いや『手加減は無用ですぅ! あ、私が手加減しましょうかぁ? むふん!』って言ってたから、つい。あと、お嫁には行けると思う。
それにしても……頭を抱える。
……本当に何時何処で、僕はリディヤの教育を間違ったんだろうか?
僕の様子に目敏く気づいた薄蒼髪の公女殿下が叫ぶ。
「先生! 多分、一番最初からですっ!!」
「……ティナ、時に真実は人を打ちのめすんですよ?」
若干、傷ついていると目の前のテーブルの上のカップに新しい紅茶が注がれた。
王立学校生徒会長が優しく微笑んでくれる。……いけない、涙が。
リディヤのあんまりな行動に、カレンが怯む。
「くっ! 死者に鞭打つなんて……それが、リンスターのやり方ですかっ!! 恥を知ってくださいっ!!!」
「死んでないですぅぅ……」
「『まずは勝つこと★ 物事はその後よ~♪』。御祖母様がよく言われていたわ。リリー! 呆けるのは終わりよ。この子達に勝ったら、あいつから紅茶の淹れ方を教わるのを特別に許可してあげる」
「!?!! ――……そうしたら、私、メイドさんを名乗ってもいいですか?」
「好きにしなさい」
「――……ふっふっふっ~! カレン御嬢様、ティナ御嬢様、エリー御嬢様、リィネ御嬢様!! これも運命、あれも運命、それも運命、全部丸っと運命ですぅぅ!!! 私の野望の為、皆さんには少しだけ、敗北の苦~い味を噛み締めてもらいますぅぅぅ!!!!」
「…………手加減してくださいね」
僕はあっさりと復活し、戦意を高めている年上メイドさんを窘め、腐れ縁へ目配せ。
『適度にね』
『んー』
視線を目の前に移し、すやすや寝ているアトラとリアに膝を貸している少女へ、話しかける。
「お待たせしました、ステラ。アトラとリアは僕が。向こうに参加してもいいんですよ? リリーさんとの対戦は良い経験になると思いますし」
「いえ。大丈夫です。だって……アレン様とお話したいですし……。とても可愛い子達ですね。――御伽話で読んだ大魔法とは思えません」
ステラが少しだけ頬を染め、上目遣いに僕へ微笑んだ。
……本物の聖女様かな?
この子だけは、必ず、必ず、守り抜かないといけない!
あと、出来れば――
「むむむぅ~! エリー御嬢様、やりますね~!!」
「アレン先生のメイドさんは、私だけでいいです!」
エリーが風の中級魔法を連射しながら、リリーさんと白兵戦を行っている。
……もう、駄目なのか……。
い、いや! 諦めるな。
僕には教え子である天使様を導く使命があるんだっ!!
カップを取り一口。
僕の顔をじっと見て、嬉しそうな生徒会長様へ尋ねる。
「そう言えば……フェリシアからの連絡はないんですか? てっきり、三人で来るのかな? と思っていたんですが」
「――――」
「ステラ?」
「! あ、は、はい! …………う~」
頬を赤く染め、僕へ向け唇を尖らす。
声に反応してアトラとリアが身体を揺する。
ステラは咳払い。
「こほん……フェリシアから連絡はありません。私とカレンも、王立学校の寮で待っていたんですけど」
「……なるほど。少し気になりますね。それじゃ、ちょっと行きましょうか」
「……え? あ――……はい…………」
片目を瞑り、ステラへそっと手を差し出す。
すると、ステラ・ハワード公女殿下は俯き、ちょこん、と僕の手に自分の手を乗せた。首筋まで真っ赤。前髪は左右に揺れている。
アトラとリアも目を覚まし「「♪」」ステラにしがみつく。
前方では、リリーさんが四人を翻弄中。
「ふっふっふっ~! 甘い、甘い、あっまーいっですぅぅ~!! アレンさんから、付きっきりで、お紅茶の淹れ方を教えてもらう為にぃ~……御嬢様達には、お昼寝してもらいますぅぅぅ★」
「くっ! は、速いっ!!」
「先生と同じ魔法介入!?」「あぅあぅ」「カレンさん! エリー! 魔法が駄目なら接近戦ですっ! 首席様はその間に魔法をっ!!」
そんな四人をリディヤは後方から監督中。ここは任せて大丈夫だろう。
『誓約』で僕の位置は分かるだろう――僕を、ちらり、と見た。
『……高いわよ?』
僕は片目を瞑り、頷く。後で埋め合わせをするとしよう。
――ステラへ微笑みかける。
「(では、行きますよ?)」
「(――はい)」
植物魔法を発動。
枝を動かし、僕とステラ、アトラとリアを上空に放り投げてもらう。
ステラを抱きかかえようとすると――逆に強く強く抱きしめられた。
アトラとリアは目を輝かせている。
僕は下の子達へ叫ぶ。
「ちょっと、フェリシアの様子を見てきますっ! すぐ、戻りますからっ、御心配なくっ!!」
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