第14話 リンスター公爵家臨時兵站総監
「リィネ、リィネ! 見えてきましたよっ! あれが、南都のリンスター御屋敷ですか??」
「ティナ、暴れないでくださいっ! 空の上ですよっ!!」
後ろから私に抱き着いているティナが、見えてきた屋敷を指さしています。
グリフォンに乗っているというのに、この子ときたら……。
風魔法でリリーから通信が入ります。
『リィネ御嬢様~、先行しますね~。エリーさん、いっきますよぉ~!』
『ひ、ひゃうっ! リ、リリーさん、ゆ、ゆっくりがいいですぅぅぅぅ』
エリーの悲鳴を残し、私達の前でグリフォンが急降下していきます。
あの子、グリフォンの扱いも熟達者なんですよね……才能だけで見れば、一族内でも姉様に次ぐかもしれません。
ステラ様からも通信が入ります。
『リィネ、私達も!』
『はい! カレンさん』
『問題ありません。早くフェリシアと合流して、兄さんの足取りを、きゃっ! こ、こら! 舐めないで! ……もう。悪い子ですね!』
カレンさんが、ついて来てしまったシェリル王女殿下の使い魔である、シフォンに頬を舐められています。
王立学校副生徒会長様は兄様に似て、とても優しい方なので、それを察知したのでしょうか。
首席様が頬を突いてきます。
「リィネ!」
「分かってますっ! 行きますよっ!!」
「きゃっ!」
手綱を引き、グリフォンを急降下させます。
ティナが抱き着いてきましたが、知りません。
ふふん。偶には、こういうのもいいものですね!
※※※
屋敷内に降り立つと、すぐさま、メイド達がやって来ました。他にも、警護の兵達が多数。
未だ戦時体制のようです。
先頭にいるのは……
「エマ!」
「リィネ御嬢様、お帰りなさいませ」
「ただいま戻りました。報せていた通り、こちらの方々は私の御客様です」
「はっ! ステラ・ハワード様、ティナ・ハワード様、エリー・ウォーカー様。そして――カレン様でございますね? 皆様の御名前、フェリシア御嬢様からうかがっております」
「フェリシアから?」「あの子は、無茶をしていませんか?」
ステラ様とカレンさんが、心配そうに尋ねます。
フェリシアさんとは、出会ってまだ間がありませんが……仕事に没頭してしまうと、食事も取らない方と聞いています。兄様と似ていますね。
エマが誇らしげに胸を張ります。
「大丈夫でございます。私共が未然に防止を!」
「ありがとうございます」「感謝します」
「エマさん~。私、お腹が空いちゃいました♪」
のほほんと、リリーがエマに尋ねました。
この子は……思わず頭を抱えると、エマが近づいていき御説教を開始しました。席次的には、リリーの方が上なんですけど。
「……リリー、貴女は御嬢様達の護衛の筈では? そうだから、未だにメイド服をいただけないんです」
「! あ、あ~! 私、今、ちょ~っと、カチン、と来ちゃいましたっ! いいですっ。なら、エマさんのメイド服を奪いますっ!!」
「……私のを、ですか?」
光がない暗い瞳でエマがリリーの胸を見ます。周囲にいたメイド達も唇を噛んだり、目を伏せたり……私も凝視。隣のティナも再認識したようで、黙り込んでいます。
エリーが叫びました。
「あのあの……フ、フェリシア御嬢様に早く、お会いしたいでしゅ……あぅ……」
「……そうでした。早くフェリシアさんと相談して、先生とリディヤさんが何処へ行かれたのかを見つけないといけません!」
「すみませんが、案内をお願い出来ますか?」
ステラ様が、エマへ丁寧に頼みます。
すると、メイド達が目を見開きました。「こ、これが……」「ハ、ハワード家の御嬢様……」「神々しい……神々しい……」「これはこれで……いぃ」。いけません、リンスター家の恥部をこれ以上、晒すわけにはっ!
私は、エマを促します。
「エマ」
「はい! 皆様、こちらへ!」
※※※
案内されたのは、屋敷内の大広間でした。リリーは『お菓子作ってきま~す♪』と行ってしまいました。シフォンまで……。
整然と机が並び、その上には多数の電話。
奥には王国南方から侯国連合を網羅した巨大な地図。幾つも、赤いピンと青いピン。部隊配置でしょう。
次々と人が駆けこんでは、出ていき、また駆けこんでは、出ていく……を繰り返しています。
ティナとエリーが手を取り合って、跳ねます。
「凄い凄い!」「あぅあぅ、ハワードの御屋敷と、に、似てますぅ」
「エマさん」
「エマ、と御呼びください、ステラ御嬢様」
「もしかして、これをフェリシアが?」
「ふふふふ……どうぞ」
案内されて、広間の中を進みます。
皆、私達へ目礼してきます。
戦時下のリンスターでは兵站を司る部門において、敬礼は略される――とは聞いていましたが、私も初めて見る光景です。前線を飛び回っていましたし。
広間の中央では、巨大な執務机が二台並んでいました。一台は空いています。
私は駆け寄り
「お祖父様!」
「おお、リィネや。よく、戻ったね」
「はい!」
白髪頭で変わらず、優しい笑顔のリーンお祖父様に抱き着きます。
頭を撫でられていると――視線。はっ!
「ふ~ん。リィネはお爺ちゃんっ子なんですね」「あの、その……リィネ御嬢様、お可愛いです♪」
「ち、違っ! こほん。お祖父様、この子達は私の――……と、友達のティナとエリーです。隣の人達は、先輩のステラ様と、兄様の妹であるカレンさんです」
「ほぉ。君達がか」
お祖父様が立ち上がられました。
微笑まれ挨拶をなさいます。
「リーン・リンスターだ。昔は公爵だった。遠方からよく来たね」
『は、はいっ!』
「そして――カレン君」
「は、はい」
リーンお祖父様がカレンさんへ近づかれ、肩へ手を置き、深々と頭を下げられました。広間が、少しだけざわつきます。
それに構わず、お祖父様は痛切な声で謝罪を口にされました。
「……すまない。君の兄君に我がリンスターは、多大な、本当に多大な恩義がある。にも関わらず、肝心な時に力を貸すことが出来ず……またしても、彼に大きな責任を負わすことになってしまった。許してくれ、とは言わない。だが、リンスターはこのことを忘れない。そのことは覚えておいてほしい」
「――……大丈夫です。兄さんは、私の兄さんは、そういう人ですから。勿論、御説教はしますけど!」
「ふふ……そうか。彼が、リディヤと共に姿を消した、という話は聞いている。我が孫ながら、リディヤは我が一族の長い歴史上でも屈指の知恵者でね、足取りを残すようなへまはしない」
そうなのです。
姉様は、剣や魔法だけの御方じゃありません。
『王立学校入学以降、関わった全分野で首席』
そう言うと、とても嫌がられますが……。
ステラ様とティナが口を挟み、エリーがしゅん、とします。
「残念ですが……今はまだ、私達はリディヤさんに敵いません。でも」
「みんなで、力を合わせれば、追いかけられます! 急がないと、先生がリディヤさんの毒牙に!」
「私、ア、アレン先生にお会いしたいです……」
視線がお祖父様へ集中します。
私達の想いは一つ『兄様にお会いしたい!』ただ、それだけです。
――大広間の扉が開きました。
息を切らし、淡い栗色髪で眼鏡をかけ、胸が大きく、何故かメイド服を着ている少女が立っています。寝ていたのか、寝癖が凄いです。
見るからに不器用に駆けてきて、ステラ様とカレンさんに抱き着きました。
「ステラ! カレン!!」
「きゃっ!」「フ、フェリシア、大丈夫、大丈夫ですから」
フェリシアさんは王立学校に通われていたとはいえ、荒事は不得意です。
王都から、エマ達の援護を受けて無事撤退出来たとはいえ、怖い思いもされたのでしょう。
ステラ様が背中を撫でながら、尋ねます。
「フェリシア、一つ聞くわね。……貴女、ここで何をしているの?」
「え? う~ん……なんて言えばいいのかな……」
「私が説明しよう」
お祖父様が引き取られました。
満面の笑み。
「――現在、フェリシア・フォス嬢には、リンスター公爵家の兵站総監を臨時で務めてもらっているのだよ。彼女の活躍により、我等は侯国連合を圧倒しつつある。……少々、勝ち過ぎてしまったのだけれどね」
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