第3章
第26話 新しい日常
唐突だけれど、大陸の一週間は8日制だ。
つまり――火・水・土・風・雷・氷・光・闇、の各属性に曜日が割り振られている。
今の所謂、魔法属性は七属性だけど、それが定められたのは魔王戦争以後の話。
氷曜日がまだ残っているのは八属性時代の名残と言う訳だ。
一般慣習としては光曜日が礼拝の日。僕は不信心なので滅多に行かないけれど。続く闇曜日は完全休息日。この2日間が休日と言える。
ティナ達が通う王立学校は、火曜日から氷曜日のお昼まで授業があるから、僕は最初『光か闇のどちらかで授業をするんだろうな』と思っていた。彼女達も休日や遊ぶ日が欲しいだろうし。
つまり――僕は1日、長くても1日半だけ家庭教師をして、他は自由に過ごせると思っていたのだ
――今の状況を考えると、3ヶ月前の自分を問い詰めたくなるなぁ。
「アレン様、如何されましたか?」
「……いえ。ただ、自分がどうしてここにいるのかな、と」
「そうでございますか――次はこの案件となります」
アンナさんが笑みを浮かべながら取引用の資料を渡してくれる。
――ちょっと条件が良すぎるかな?
リンスター・ハワード両公爵家との繋がりを重視して、条件を良くしてるんだろうけど――長く関係を継続出来る誠実な相手を選びたいな。
「この――フォス商会の詳細な情報はありますか?」
「ございます」
「ふむふむ……元々は西国出身ですか。僅か2代で王都でも有数の商会になるなんて、やり手なんですね。アンナさんは、どう思われますか?」
「私はメイドですので。御主人様に従うだけでございます」
「……いや、僕は貴女のご主人様じゃないですし」
「失礼ですが――時間の問題かと。今の内に慣れられる方が賢明かと存じます」
「……余り虐めないで下さい。ただでさえ、こんな無理難題を押し付けられて、あたふたしているんですから」
「ふふふ――アレン様はご冗談も御上手でございますね。私見ではございますが、悪くはない、と思います」
楽しそうに笑うアンナさんに対して、僕は愚痴がこぼれてしまう。
――机の上は半ば意地で綺麗にしてるけど、未決箱には大量の書類。
おかしい、結構なペースで片付けている筈なのに。少なくとも、先週の段階では空にしたんだけどな……
「とてもそうは見えません。もう何年もこのような仕事をされてきたかのようでございます」
「……リディヤの金銭管理やら、交渉事やら、散々やらされてきましたからね。あいつ、些事は全て切り捨てにしますし――ご意見、有難うございます」
「いえいえ。なるほど、リディヤお嬢様の――やはりアレン様が最適任でございます。リンスター・ハワードという二大公爵家の王都における商取引、その交渉役として。この三ヶ月、一緒に仕事をさせていただきましたが――正直、感服致しております」
「これ……リサさんの無茶振りですよね?」
「ふふふ――それだけ愛されているのですよ。奥様はアレン様が可愛くて仕方ないのでございます」
「有難い話ですが……今の立場は余りにも……」
――そうなのである。
今、僕は何故か、二大公爵家の王都における商取引――特にこれから売り込みたい新商品が中心だ――の交渉担当者をしている。否、させられている。
当初、言われた時は『僕には荷が重いです』『公爵家――しかも、リンスター・ハワード共同なんて聞いたこともない』『第一、両公爵家のほんの一部とはいえ資金に関わるのは……』等々、必死の抵抗を試みたのだけれど……うん、リサ様達には勝てなかったよ……。
しかも、わざわざメイド長兼リディヤ・リィネ付きのアンナさんを僕の補佐役にし、グラハムさんとの直通電話と詳細連絡用の使い魔網まで準備済みと言われた挙句、どれだけ困っているかを説明――特に今まで積極的に動いてなかったハワード家の。……あれ? どうして、リサさんがあそこまで詳しく知って――されてしまえば、反論なんか出来なかった。
「取り合えず、早い内にフォス商会と面談したいと思います。日程調整をお願い出来ますか?」
「そう仰られると思いまして――明日の午前中に。それと今週はハワード家で授業となります。火曜日は、商談が午前午後にそれぞれ一件ずつ。水・土も同様です。風曜日は奥様、グラハム様との方針確認が」
「……アンナさん、僕は何処で人生誤ったんですかね……」
「アレン様――むしろ、これからかと。リディヤ様をあれだけ骨抜きにしたのですから、王都の商人達など容易い話でございましょう」
前から、この人もオカシイとは思ってたけど……僕に対する評価が高過ぎるんだよね……。
確かに年齢の割には、色々やらされてきた方だけれど……。
取り合えず、今の僕の一週間は
火~風曜日が交渉役。
雷曜日と氷曜日午前中はお休み――だけど、授業の準備をするからゆっくりは出来ない。リディヤが『かまえ、かまえー』とくるし、最近は学園長からも例の件で報告があったりする。自分が調べている事は平日夜だ。
氷曜日の午後から闇曜日まではティナ達の家庭教師(氷曜日午後開始は、絶対に譲ってくれなかった)。場所は、ハワード・リンスター家が月毎に持ち回り。
準備時間を考えると週の内4日以上は家庭教師関連となる。
……あれ? やっぱり、僕、かなり働いてるよね??
――引き受けた事だし、確かに面白いからやるけどさ。
だけど……これだけは声を大にして言いたい。
人生、何が起こるか分からない、と言うけれど――どうしてこうなったっ!
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