第21話 視線
「――参った参った。今回も僕の負けだ」
「む……」
僕は魔法の展開を止めリディヤに声をかけた。
……毎回、思うけどこの子に付き合うのは命懸けだね。
魔法も凄まじいのに、
魔法の連射で無理矢理、剣の軌道を限定してもなお――生きた心地がしない。
苦笑しながら、騎士剣を見せる。相当頑丈な筈なんだけど?
「これ以上は受けきれない――近衛の備品が壊れる。……
「何? もう、ボロボロなの? 剣の受け方が下手なのよ」
「む、無茶苦茶言うなよ……」
リディヤの騎士剣には傷一つ付いてない――凹まないぞ。技量差が絶望的なのは誰よりも知っている。
大体……この子の剣技を真正面から受けれる人なんて、それこそ『剣聖』とか『近衛騎士団団長』とかそこら辺の人外――達人様しかおられない訳ですよ。
そんな超絶技術を求められても……僕は君等と違って一般人。
リディヤは納得してなさそうな素振りを見せている――まだ続くかな? 一度始めると中々解放してくれないから……。
すると、胸元から何かを――あれは小さな懐中時計。
時間を確認し、不満気に一言。
「……しょうがないわね。今日は勘弁してあげるわ」
「それ――使ってくれてたんだ」
「な、何よ? も、貰った物は私の物でしょ!」
「うん、そうだね。だけど――使ってくれてありがとう。あれ……でもそんな鎖なんか付いていたっけ?」
「ほ、ほらっ! 終わりよ終わり。後片づけをしてっ!」
リディヤが何かを誤魔化すように真っ赤な顔をして怒鳴ってくる。
……それなりに疲れてるんだけど。この短時間に、何発の基本魔法を展開したと思って?
やれやれ――取り合えず穴とヒビは埋めておこう。
「――相変わらずとんでもないわね」
「? この程度、君だってやれるじゃないか」
「嫌よ。面倒じゃない」
「ええ……」
誰かさんが暴れたせいで、戦火をくぐったかのような修練場を修復していく。
……しまった。
これ、ティナ達にとって格好の教材だったかも。今からでも遅くは――
「変な事を考えてないでとっとと直しなさい。……言っとくけど、あの子達に同じ事をさせようとするのは虐めよ、虐め」
「……たった今、僕を人前で辱めたのは誰さ」
「はぁ? 何を言ってるのか理解出来ないわね。そこは私と戦えたのを涙を流して感謝するとこっ!」
「はいはい――ああ、リチャード!」
僕を見捨てた
リィネとカレンは――微笑。
……聞くのはよそう。あれは、結構怒っている。
そんな目をしても僕は知らないよ。
「ア、アレン――た、助け」
「怪我人は治してしまって構わないよね?」
「む、無視は止め」
「ありがと。それじゃ」
後方から声がするけど――無視。
リディヤとリサさん相手だったらそんなもんじゃ済まないんだから、幸運だと思ってほしい。
壁沿いに横たわっている近衛騎士達に回復魔法を展開――僕等の模擬戦によって、中へ入る事が出来なかったんだろう、外にいる近衛の人へ軽く頭を下げる。
もう近付いても大丈夫ですよ。
それにしても……さっきから視線を感じるけど、何だろう?
リディヤに辱められたのを憐れんでくれているのかな?
「はぁ……疲れた。もう、汗だく。ああ……この服、借り物なんだよ? 僕のお財布じゃとてもじゃないけど弁償出来ないのに……」
「あんたねぇ……幾らご両親が大事だからって限界ギリギリまで仕送りするのは止めなさいって何度言えば分かるの? ま、まぁ、その服は――あんたにあげるけど」
「は、はは……ごめんなさい」
「……本当に分かってるのかしら……」
リディヤが騎士剣を修練場へ突き刺し、こちらへ近付いてくる。
……ちょっと近過ぎない?
そして、僕の胸元を掴んで引き寄せる。な、何さ?
「……汗臭い」
「ひ、酷っ。生理現象は止めようがないよ」
「私はかいてないもの――確かめてみる?」
「…………リディヤ、毎度毎回言ってるけどさ――恥ずかしさに耐えられないなら最初からそういうのはしなくてもいいんだよ?」
「う、うるさいわねっ! ほ、ほら、行くわよ」
盛大に自爆――何時ものお決まりである――をしたリディヤに引きずられて、優雅に観戦していたらしい、ティナ達に合流。
ティナとエリーとステラ様の表情が固い……何かあったかな?
考えているとリィネがハンカチを差し出してくれた。
「兄様、お疲れ様です」
「ありがとう。ああ、ごめん……今は汗をかいてるから……」
「私は構いませんよ? 遠慮なさらず抱きしめて下さい」
「……アレン、止めなさい。リィネもいい度胸ね?」
「姉様はズルいです。兄様は今日、私の為に素敵なお召し物をして下さっていたんですよ? それを……」
「私が選んだ服を、私がどうしようと勝手よ!」
「お嬢様方、今はアレン様を――そろそろお時間かと」
リディヤとリィネが珍しく姉妹喧嘩をしそうになっているのを仲裁するアンナさん。この服、リディヤが選んでくれたのか。
取り合えずメイドさん達が持ってるのは――何も見えない。何も見えないよ。
「……確かにそうね。愚兄っ! 何時まで座ってるの! アレンを案内しなさい」
「わ、分かった――おうふ……あ、足の痺れがのっぴきならない……」
「案内?」
立ち上がった
すると――悪戯が成功した時のような表情。ふ、不吉……。
「アレンも汗をかいたろう? 入ってきなよ王宮の大浴場に。今なら――誰もいないから」
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