第17話 学園長

「君達は、卒業した後も色々としてくれるな――無論、私の寿命が縮む方向にだが……」


 苦々しくそう言ったのは、王立学園学園長にして王国内はもとより、大陸内でも数少ない『大魔導』の称号を持つ、ロッド卿。

 エルフの常として、美形かつ20代後半にしか見えないが――実年齢は本人曰く300歳以上。

 魔王戦争の英雄達を直接知っている数少ない一人でもあるが……性格は長生きし過ぎてひん曲がっており、教授とは違った意味で注意が必要。

 入学式終了後、突然呼び出しを受け、学園長室に来た途端、これだし。


「何もしてないと思いますが?」

「……君は私が阿呆とでも言うのかね?」

「まさか。尊敬してますよ――それなりに」

「はんっ! ……ティナ・ハワード嬢と君の関係は、先程のの前――入学試験の段階で気付いていた」

「流石ですね」


 何処で気付いたのかな?

 やっぱり――入学試験の実技か。

 何かあったらしいんだけど……教えてくれなかったんだよなぁ。


「…………君に私の気持ちが分かるか?」

「――どういう意味でしょうか?」

「……確かに君と剣姫の時も大概だった……。未だに、上級魔法の発動を止められたり、訓練用の剣で叩き斬られる悪夢を見もする。それでも君達は、実技場を半壊させはしなかった……それが、だっ!」


 学園長が悲痛な表情で僕を睨みつける。

 ……うん、この後の話は分かってしまうけど、甘んじて受けよう。

 この人にこんな表情をさせるなんて――やるなぁ、三人とも。


「よもや、13歳の少女達が『火焔鳥』と『氷雪狼』を連射してくるなど――何処の誰に想像出来ようか? 否、出来る筈がないっ!! ……もう一人の少女も、何なのだあの静謐性は!?」

「凄いでしょう? あ、リィネは僕じゃありませんよ。文句はリディヤに」

「剣姫=君ではないか。直接教えていなくても、根本の考え方は同じ。つまり――君に大半の責があるのだ」

「そう言いながらも楽しかったのでしょう? それに――どうせそちらから言い出したのでは? 13で構わない、と」

「……ふんっ!」


 顔を背ける。

 どうやら図星のようだ。

 今までの会話で見えてきた――どうやら派手にやったみたいだね。

 思わず苦笑してしまう。


「それで――今日は何なんです? お嬢様方をお待たせしているので、愚痴だけならまた後日に――」

「……私ではない」 


 ぽつり、と学園長が呟いた。

 ……ああ、本題はそちらですか。


「重ねて言う。私ではないのだ――君の王宮魔法士就任を妨害したのは」

「――分かってますよ。ありがとうございます。お気遣いいただいたようで」

「……君の一件で、この3ヶ月間、私がどれ程、虐められたと思う? エルフ・ドワーフ・巨人・獣人……王国内の少数民族代表からは私の画策ではないか、と散々咎められた。四大公爵からも内々の詰問状が届き……」

「そ、それは御面倒を……」


 僕が思ったよりも大事になっていたようだ。

 各所に事情は手紙で報せておいたんだけどなぁ……。   


「分かっているだろうが……妨害した主犯はだろう。あの時代錯誤の差別主義者めっ!」

「そうでしょうね……仕方ないですよ。僕は平民ですし」

「最早、そういう立場にいないことをいい加減、自覚を――まぁいい。どうせ、今回の件で君は後戻り出来ないだろう」

「?」

「分からないのかね? はっ! 妙な所で鈍くなるのは変わらんな。教えてほしいかね?」

「いいえ、別――」

「先程の新入生代表挨拶だよ」


 無視……だと……?

 くっ……薄々気付いているから考えないなようにしてたのに。


「ティナ・ハワード嬢が魔法を使えなかったことは、この国の貴族達ならば誰しもが知っていた――その子が首席合格したのだ。当然、何かしらあると思うのが自然。そこであの挨拶だ」

「…………」

「『で私は魔法を使えるようになりました』。そのある人は誰か? 知りたいと思うのが人だろうし、すぐバレる。引く手数多だな、その家庭教師は」

「……ノーコメントです」

「くっくっ――少しは苦労したまえよ」


 妙に腹が立つ。

 ……うん、これは胃痛の種を渡しておくとしよう。


「そう言えばですね」

「知らんな。聞きたくもない。そろそろ帰りたまえよ、君」

「……良いんですか? ご自身の生死に関わる話だと思いますが」

「……ろくでもない事なのは分かっているが、どれ程かね?」

「『氷鶴』」

「!?」


 学園長の表情が驚愕に染まる。

 そして、見る見るうちに青褪めていく。

 ふむ――中々面白いな。

 

 ――ノックの音が響いた。


「失礼します――こちらに兄が来ているとうかがったのですが?」

「カレン、いるよ」

「兄さん――もう! 入学式が終わったらお昼を食べに行こう、と言ってた――」

「ごめんごめん。では、学園長。僕はこれで」

「あ、ああ……」


 振り向きカレンへと視線をやり謝る。

 そして、不発弾をお土産に渡され硬直していた学園長へ会釈。

 

 ――多分、これで色々調べてくれるだろう。

 

 喪われた大魔法は謎が多いのだ。

 信頼出来る調べ手は多いに越したことはないしね。

 だけど……さっきリサさんに話した内容はまだ言えないか。漏れると事だし。

 何故か押し黙っているカレンの手を引き学園長室を退出。


「カレン、お待たせ。さ、昼食を――」

「……兄さん」

「うん?」


 どうかしたかな?

 小首を傾げながら可愛い妹を見やる。

 ……おや、どうしてそんなに眼が紅く……



「ど・う・し・てっ! そんな恰好してるんですかっ!! 説明を求めます!!! 今すぐにっっ!!!!」

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