第16話 核心

 停車場には多くの馬車とそれに混じって少数の車が停まっていた。

 まだまだ馬車が主流なのが分かる光景。

 ……リサさんみたいに車嫌いな人が多いというのもある。

 近くには王立学校の巨大な校門。

 確か、生徒の自主性云々で、保護者と生徒は別々の入り口からだったかな?


「お嬢様方――お手を」


 先に馬車から出て、微笑みながら手を差し出す。

 それを見た三人は硬直。

 ――あれ? 多分、間違ってないと思うんだけど。


「兄――こほん。アレン、余り驚かさないで下さい」

「?」

「そ、そうです! ただでさえ、今日の先――アレンは素敵になっているのですから……少しは私達の心臓を心配して下さい!!」

「あら? 何処かの首席さんは、普段のアレンが素敵ではないと?」

「なっ!? ……いいでしょう。入学試験の時につけられなかった決着、今ここで!」

「――望むところです」

「――ティナお嬢様、リィネお嬢様」

「「!?」」

「わぁ」


 二人の周囲を柔らかい風で包み込み――浮遊させる。

 そのまま馬車から外へ。ふわり、と着地。


「お二人は王国全土から集まってくる俊英達の頂点。模範となられる存在です。自覚を持たないといけません。それに――」


 二人のほんの少しだけ乱れた髪を手櫛で直してやる。

 苦笑しながら注意。


「折角、何時も以上に可愛らしくされているんですから、じゃれ合うのは駄目です」

「……はい。ただし、じゃれ合ってはいません」

「……ごめんなさい。貴女と同意するのは心外ですけど、そこは同意です」

「そうですか? お二人はとても仲良しに見えますが?」

「「仲良しじゃありませんっ!!」」


 同時に叫ぶティナとリィネ。

 僕からは子猫が二匹いるように見えるけどなぁ。

 さてと――


「エリーお嬢様――お待たせしました」

「は、はひ!」


 何故か緊張しているエリーの手を取る。

 ……この3ヶ月で慣れたろうに。

 それにしてもこの光景。既視感が――


「きゃっ!」

「おっと――お怪我はありませんか、お嬢様?」


 エリーが段差を踏み外し、転びそうになったので抱きかかえて、降ろす。

 危ない危ない。折角の晴れ舞台なのに。

 僕の腕のにすっぽりと納まったエリーは真っ赤。相変わらず可愛い。

 そのまま、ぎゅー。


「兄様っ!!!」

「先生っ!!!」

「――何でしょう?」

「兄様ともあろうお方が……するなら私にもして下さい。不公平です」

「そうです! 今すぐ止め……どさくさに紛れて何を言ってるんですか?」

「え?」

「え? じゃありませんっ! ……やっぱり、今ここで決着を……」

「あ、今はいいです。それよりも――兄様、次は私の番ですよ。エリーさん、そろそろ代わって下さい」

「……い、嫌です」

「――代わっていただけたら、姉様秘蔵の兄様映像コレクションから選りすぐりの物をお見せします」

「!」

「……分かりました」


 不穏な単語を口にしたような……。

 エリーがこちらに視線。楽しい時間はお仕舞らしい。

 緊張もほぐれただろうしね。名残惜しいけど解放。

 そろそろ――


「アレン、猫可愛がりするのは良いけど――後から全部ばらすわよ?」

「……御無体な」

「そうされたくなかったら、今からは私に付き合いなさい」


 案の定、リサさんと、満面の笑みで撮影に勤しむアンナさんが立っていた。

 要は、会場内をエスコートをしろ、と。

 まぁ……何だかんだ緊張していた三人の為にわざわざ馬車を分けてくれたのだろうし、それ位は致しましょう。

 密談はしてた、絶対。

 だけど、可愛がってもらっているのも事実。

 ……貴族ばかりの空間に行くのは気が重いけど。

 そんな事を考えていると、リサさんが笑みを浮かべながら三人へ声をかける。


「リィネ、ティナ、エリー」

「「「は、はい!」」」

「ここで分かれます。入学式の間、アレンは借りるわよ」

「……母様、もう少し後からお声をかけてくださっても」

「駄~目。自分の決断が遅かったことを悔やみなさい」

「……リサ様、アレン先生に変な事しないで下さいね?」

「あら? ティナ、言うようになったじゃない。昔の大人しすぎる貴女より、今の貴女の方が好きよ。――期待しているわ」 

「あの、その、えっと」

「二人をお願いね? この子達、ちょっとやりすぎるから」

「は、はい!」

「よし! それじゃ、楽しんでらっしゃい」

「「「はい!」」」

「アレン」

「――ティナ、リィネ、エリー。また後で」

「「「は~い♪」」」


 三人が元気に校門へ向かって行った。頑張れ!

 それにしても――リサさんには敵わない。

 まだまだ、僕も未熟者だ。

 

「さ――私達も行きましょう。アレン、途中でじっくりと色々聞かせてもらうわ」

「手紙でお報せした通りですが」

「ええ、そうね。だけど――」


 リサさんが悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

 ……この顔はリディヤから散々見せられた。ああ、嫌な予感。


「私が知りたいのは――貴方が、

「それは――まだ確証がありません」

「そう? なら、なおの事、話してみなさい」


 やっぱり、核心を突いてくる……話さざるを得ない、か。

 リディヤにばれたら殺されかねないなぁ。

 

『ど・う・し・てっ! 真っ先に私へ話さないのっ!!』


 嗚呼――幻聴が。

 そんなに怒るなよ。


『兄さんは馬鹿なんですか?』


 ……カレン、そうは言ってもリサさん相手じゃ僕に勝ち目はない。

 これは不可抗力だ!


「アレン様。これも試練でございます――はい、笑顔をこちらに」


 アンナさん、思考を読むのはやめてください。

 ……後でその映像、しっかり監修しますからね。

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