第2章
第14話 入学式の朝に
王立学校――それは、王国最高学府である王立大学校へと続いていくエリートの登竜門である。
この学校を上位で卒業出来れば、王国中枢への路は大きく開かれることになる。
――余程のヘマをしない限りは。
僕みたいに、王立学校を次席で卒業しながらダメダメな場合もあるので過信は禁物だ。
大学校も次席卒業(首席は当然リディヤだった)で、こんな状況に置かれているのは僕だけだろうけど。
「――アレン様、如何されました?」
「いえ……自分の無力さを嘆いていたところです――ところで、アンナさん。その宝珠は?」
「リディヤ様へ後でお見せしないと! この為だけに王宮魔法士としての初出仕を休もうとされていましたので」
「……そうですか」
「では、そろそろお披露目を。お嬢様方がしびれを切らしている頃でしょうしね。うふふ――反応が楽しみでございます」
そう言うと、スキップしながら部屋を出て行った。
心の底から楽しそうだな……。
リディヤとカレン(入学式の準備で先に王立学校へ行った)がいないのは不幸中の幸いか……単なる問題の先延ばしか……。
姿見に映った自分を確認――自然とため息が出る。
「せ、先生……!」
「に、兄様……!」
「ア、アレン先生……!」
僕が黄昏ていると扉が開き可愛いドレスに着替えている、ティナ、リィネ、エリーが次々と部屋の中に駆けこんできた。
そして、こちらを見て絶句――この前も似たような姿を見ているんだから、そこまでの反応しなくてもいいのに……。
似合ってないのは、自分が一番良く分かってるから!
「――話には聞いていたけど、よく似合っているじゃない。リディヤが『私も入学式へ参加するっ!』と駄々をこねるのも無理はないわ」
「……あまり虐めないで下さい」
「あら? 本当のことを言ってるだけよ。普段もいい男だけど――うん、これはこれでありね。アンナ、よくやったわ」
「ありがとうございます、奥様」
三人の後から入ってきたのは、アンナさんとリサ・リンスター殿下。
リンスター公爵の奥さんにして、リディヤの母親である。
普段は南方の領地で、多忙なリンスター公を補佐されているけど、リディヤが王宮魔法士となり、そしてリィネが王立学校次席入学と言う晴れの舞台。
――というのを建前にして、先だって南方から出て来られたのだ。
おそらく、自分だけ蚊帳の外が嫌だったのだろう。基本、放任主義な方だし。
相変わらずの美貌とスタイル。
リディヤに良く似た綺麗な赤い髪が印象的。
年齢不詳で20代にしか見えず、二人でいると親子ではなく姉妹に見える。
浮かべている笑顔を見ると、親子なんだなぁ、と思う。
……今回の黒幕である。
「リサ様」
「――アレン?」
「……リサさん。王立学校の入学式が大事なのは僕も分かっています。けれど」
「ダ~メ。折角の機会なんだから、きちんとなさい。私だけ息子のお洒落な姿を見てないなんて不公平だし、何より母親には息子をカッコよくする責任と義務があるのよ?」
そう……今の僕は、普段絶対に着ない――というより着る機会そのものがない、超高級スーツに身をつつんでいる。
髪型も、整髪料で固められさながら執事のような姿。
今朝、起床後に突然拉致された挙句、気付けばこのような有様。
リディヤの駄々なら聞かなかったかもしれないけれど、相手がリサさんでは是非もなし。僕に発言権などない。
……心配をおかけした負い目もあるし。
公爵家に着いてみると、そこにはティナとエリーの姿もあった。どうやら、言葉巧みに誘い出されたらしい。
なお、二人のドレスもアンナさんが選んだとのこと。
悔しいことにとても似合っている。
忘れがちだけど、アンナさんは超絶有能なメイドさんなのである。
まぁ、そう伝えると照れ隠しに、あれこれリディヤを焚きつけてくるのが目に見えているので絶対に言わないけど。
勿論リィネも可愛らしくなっていた。
その三人に比べて――もう一度、ちらりと姿見を確認。
いやいや、これはちょっと……正直、似合ってないと思うなぁ……。
グラハムさんという、完成形を見てしまっているので、偽物感が満載。
王立学校試験日に、リディヤにはめられ似たような恰好(あの時は『小説に出てくる執事風』だったらしい)を強制されたが、ここまで本格的では……。
「我ながら素晴らしい出来です。惜しむらくは、リディヤお嬢様の反応見れないことですが――まぁ、これはこれで良いですね」
そう言いつつ、アンナさんが嬉々として未だに固まっている三人の姿を映像宝珠へ収めている。
言っても聞いてはくれないと思いますけど、それって、普通の人の月収を軽く超えるんですからね?
しかも、容量がいっぱいになったらそれ以上撮れない使い捨て仕様なのに……。
「さ、出かけるわよ。三人とも、戻ってらっしゃい。でないと――アレンと馬車に乗るのは私に」
「か、母様! そ、それはズルいです!」
「そ、そうです! 幾ら、リサ様でも――ゆ、譲れません!」
「ア、アレン先生のお気持ちを優先された方が良いと思います!」
「だ、そうよ? 相変わらずモテるわね。アレン、貴方が決めなさい」
リサさんが片目をつぶりながら笑み。
――4年前に出会った時からそうだけど、この人に勝てる気が全くしない。
小さくため息が出る。
いずれ、リディヤもこうなっていくのだろうか……そうなったら、ちょっと困るなぁ……。
現実逃避をしつつ、答えを告げた。
「――今日だけは三人の執事に。それでよろしいですか? お嬢様方?」
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