第三十二回 書かねばならぬ、と思った

 書かねばならぬ、と思って書きだした物語である。

 書かずには前に進めない、と思って書き上げた物語である。


 昨年、「それは、欲望という名の海」という長編を書き上げた僕は、ふと胸に去来するものがあった。


「天暗の星」にリベンジしたい――。


 この「天暗の星」は第3回歴史・時代小説大賞の最終候補に残った作品であり、同じく第1回歴史・時代小説大賞で特別賞を受賞した「狼の裔」の前日譚である。

「狼の裔」は平山雷蔵という青年が主人公として描いたのに対し、「天暗の星」はその父親である平山清記が主人公。雌雄一対の作品である「狼の裔」と「天暗の星」に、僕は大きなギミックを施した。

 それは、どちらを先に読むかで、主人公が変わるというギミックである。

「狼の裔」から読めば、「天暗の星」はサイドストーリー的な立ち位置になる。しかし、「天暗の星」から読むと、平山清記という男の生き様を描いたものになるのだ。

 嬉しい限りだが、この「天暗の星」は僕の読者の中で、非常に評判がいい。「狼の裔」に上回るものすら感じる。僕としても、「天暗の星」は後から書いたのにも関わらず、この物語がオリジンのように感じてしまうところがある。


 しかし、この作品は一度敗れている。

 アルファポリス様の講評ではこうある。


「平易ながら巧みな文章と独自の舞台設定にセンスを感じたが、物語の主題が見えづらかったのが残念だった」


 この指摘に、僕は異論がない。一言一句その通りだ。流石はアルファポリス様と言ってもいい。

 指摘の通り、物語の軸がぶれぶれだったのだ。

 せっかくの人気作。このままにしていていいものか。などと思いながらも怠惰な僕は、そのままにしておいた。

 しかし、「それは、欲望という名の海」を書き終えた後、確かな手応えを感じた僕は、「いまこそ!」と言わんばかりに、改稿の筆を執っていた。


 いや、違う。改稿というには、改めすぎる変更を僕は加えたのだ。

 変更点は以下の通りである。


①大きな主題を定め、それに沿うようにサイドストーリーを展開。

②長編から、筑前お得意の連作短編に変更。

③世界観を独自の江戸時代から、史実の江戸時代へ変更(ただし夜須藩は除く)

④登場人物の深化

⑤タイトルの変更


 このような変更とありったけのセンスを加えたら、9万文字が25万文字になってしまった。


  25万文字の執筆。その間、読者の反応も感想も無い。それはWEBに公開せずに、ずっと書き溜めていたからだ。

 孤独な作業だった。読者はおらず、誰も正解を示さない、25万文字に及ぶ長い旅だった。

 そうして生まれたのが、「狼の贄~念真流寂滅抄~」である。


 主人公は、刺客の子として産まれた男。孤高の狼のように、心のままに生きようと願えども、家族や仲間の為に権力の走狗いぬにならざるえなかった男の物語。

 大変申し訳ないが、今現在はアルファポリス限定で連載中。


 筑前筑後が、真正面から描いた混じり気なしの時代小説。

 是非読んで下さい。

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