第五回 戦闘描写について
戦闘描写。
中々、書くのは難しい。
チャンバラを書いている僕も、毎回頭を悩ませている。
そんな僕が、短い執筆経験の中で身に付けたコツを、今回ご紹介。
戦闘描写について一番のポイントは、描写そのものより、それに至る道筋と緩急だと思っている。
道筋については、対決する動機であり、対戦者同士の関わり。その戦いに至るまでのストーリーを重厚なものにすれば、9割の確率で戦いは盛り上がる。つまり戦う前に勝負が決まっていると言っても過言ではない。
次に緩急ですが、毎回濃密な戦闘では読者が胃もたれしてしまう。戦闘描写は素晴らしいかもしれないが、かえって作品全体の質を落としかねない。
なので、緩急をつける事求められるわけですが、具体的に言うと、以下の三点。
・濃密な戦闘
・サラッと終わらせる戦闘
・敢えて描かない
描かないとはその意味のごとく、戦闘を描かず結果を後日に語らせる(匂わせる)という手法だ。
僕の作品では、刀を抜くシーンや、一刀の重みを意識する所で終わらせ、次の回で回想させたり傷を負って養生する描写を入れているし、また死んでいる事もある。敢えて描かないという手法は、読者の想像を刺激する効果があり、物語に無限の広がりを与えてくれる。これは戦闘以外にも使える手法で、物語のラストにも活用出来る。
最後に、もう一つ。
「小説は小説であり、漫画や映画とは違う」
これを意識すると、いいかもしれない。
追伸、自作から好きな戦闘描写を紹介します。
「天暗の星 第九回 男と見込んで(後編)」より
そこで、遠野は東馬と対峙していた。
互いに、正眼。遠野の切っ先がやや下がっているぐらいの違いしかない。
「どうやら、俺が当たりを引いたようだ」
清記に気付いた東馬が、横目にして言った。
二人の氣。その圧力は、半端なものではなかった。見ているだけでも、膝が竦む。故に、誰もこの立ち合いを邪魔しようとはしないのだろう。
清記は、ただ勝負の行方を見守った。二人で仕掛ける手もあるが、もしそんな事をすれば、東馬に失望されるだろう。
(勝負を見守る他に術はない)
不意に動いた。潮合いはまだ、と思っていたので、清記も虚を突かれた格好になった。
仕掛けたのは東馬だった。初太刀。それが空を斬った。そして、遠野の返し。
東馬が跳び退く。と、同時に前に出た。
交錯。
風が止み、時が止まった。
先に倒れたのは、東馬だった。膝から崩れ落ちる。それに続くように、遠野が左の肩口から脇腹にかけて、その身体が二つになった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「東馬殿」
清記は、慌てて駆け寄った。
東馬が息を止めていたかのように、吹き返した。着物の前が切り裂かれ、傷は薄皮一枚だった。
紙一重の勝負。息をするのも忘れていたのだろう。今は肩で息をしている。
「強い。強い男だったよ」
「肌に粟が立つような勝負でした」
「ああ。世の中にはまだまだ強い奴がいるなぁ、清記よ」
これ、何で好きかというと、大きなチャレンジをしたのです。
主人公が戦うであろうボスと、応援に来た助っ人を戦わせるというチャレンジ。そして、助っ人が勝ってしまうわけ。つまり主人公に出番がない。これは、もう一つの布石なのですが、それは「天暗の星」を最後まで読んでのお楽しみという事で。
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