第二回 昔の女

 糸島市にある田舎のパン屋で、昔の彼女に会った。


 高校時代の彼女だ。

 陽に焼けたショートカットが似合っていて、毎日テニスを頑張っていた。


 彼女が農家に嫁いだ事は知っていたので、何気なく「どう?」と訊いてみたのだが、彼女は僕に「別れたの」と、返した。


「そうか」

 と、しか言えない僕。

 

 彼女は離婚し、今は小学五年生の娘と二人暮しだという。

 前回会ったのは十五年前だったか。高校の同窓会で、バーベキューだった。その時、彼女は人妻で僕は独り身だった。そして今回はその逆というわけだ。


 彼女は僕に「女の子が産まれたんだよね、おめでとう」と言い、それから「人生って中々上手く行かないね」という言葉を残して、パン屋を去っていった。


 残された僕は肩を竦め、妻に頼まれたバゲットを一つトレーに乗せた。


 男が生きていると、色々とあるものだ。

 女も生きていると、色々とあるものだ。

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