第六章 “S”OUDAN
女と男肩寄せ合い、途方に暮れた橋の下、わが身に起きた転変恥異は受け入れがたくもすべて現実、寂れた街なれど都会の片隅、身の回りには鉄製の物溢れ、メッキやらなんやら区別もつかず、銀色を見ると悲鳴上げて飛び下がる始末。身の置き所求めてふらふらよろよろ、どうにか辿りついた橋はコンクリート製、橋げたの中は鉄筋がびっしり並び、体内磁力うなりを上げたが最後崩壊の運命に違いないが、幸か不幸か未だうずくまる二人その事実を知らぬ。どうやら鉄引き寄せるこの体質、一定の間隔で発動するようで、小康状態の今現在。男の巻き添えの形となった女怒りのあまり胸倉掴んで張り倒すが、公園で服奪われたままの男、全裸晒してはらはらと涙零すその姿あまりにみすぼらしく、大きく溜息のち再び座り込む。
「これからどうする」
「あたしに聞くんじゃないよ、考えるんだよ!」
単なる遊び相手の柵超えて、もはや二人は一蓮托生、嘆いていても事態は変わらず、時間が経つほど危険も増し、次はどんな目に合うか考えもつかぬ。病院か警察か呼ぼうにも携帯はとっくに壊れ、更には車とて鉄の塊、乗っているうち暴走すればそれこそ悲惨の一言。未来想像するのも恐ろしく、とかく心細さは深まるばかり。そもそもこの二人ろくに勉学も修めておらず、磁力だのなんだの気づいたところでそれまでのこと。詳しい性質も何もわからず、もう少し真面目に授業訊いておればと今更後悔に頭抱える。今や我が身そのものが取り扱い危険物にほかならず、抱きしめる手も躊躇し空を彷徨い、結局互いにおててつないで黙り込む姿、傍から見れば仲睦まじい間柄。うんうん唸って捻りだす無い知恵、無から有を絞り出すがごとき無理難題、しかし不出来な生徒の珍回答ほど教師唸らせるのも世の常、極限まで研ぎ澄まされた脳内、ついに女閃くは耳を疑う狂気の解決策!
「そうだ、要はこの磁力をなんとかできればいいんだろ!」
「ああ、ああそうだ!」
「そうだ、それなら電気だ!」
「何?」
「世の中には電磁石ってもんがあるんだよ。それは電気を帯びた磁石、そりゃもうすんごい磁石だ! 何がすごいってパワーもすごく、さらにすごいことにはそのパワーは操作することができる代物!」
「つまりどういうことだ!」
「あたしたちの体に電気を流すんだよ! そしたらあたしたち普通の磁石から電磁石になって、この磁力をコントロールできるようになる……磁力人間から!」
「電磁力人間へ! そうか!!」
そういうことか! 男は目の前に現れた救いの糸に狂喜乱舞する勢い。そう、電気だ! この星が生まれてのち地球上あらゆる場所を支配してきた磁力、誰もが逃れることのできない大いなる力、それを覆す人類の英知! 男勇んで立ち上がり、女の手を取り熱く抱擁。一人では到底辿りつくことのできなかった解答、女の存在は天が与えた慈悲のごとく、地面に額擦り付けてもまだ足りぬ感謝感激雨あられ! 突如現れた策はしかし穴だらけ隙だらけ、計画ともいえぬ計画、けれども二人にとっては唯一の希望。ここで迷わず行動に移せる無謀さを勇気とみるか蛮勇とみるか。ただ一つだけ言えるのは、運命に抗う人間の行動、時に天地を覆す勢いと化すということ!
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