第9話 最後の訓練2
レオン・クラッセルはクラッセル男爵家の長男として生まれ、父親のような立派な騎士を目指すべく、日々努力していた。レオンには2つ上の姉がおり、姉弟そろってこの周辺では負け知らずの姉弟として名を挙げてた。
だが、そんな二人の前に突如ライバルが出現することとなる。
ルティアス・クラッセル
レオンとは4つ離れているルティアスはかなり頭がよく、領内でも天童としてもてはやされていた。そんな彼ではあったが、唯一欠点があった。黒髪黒目の少年だったのだ。この世界において魔法という存在は最早必要不可欠であるといっても過言ではない。所の使えない者たちはつ年迫害の対象となるのだ。迫害を受ける彼らのことを皆『ディフェクター』と言って蔑みの対象とした。
彼らの父と母は優秀な魔法騎士の血があり、当然その血は子供たちにも遺伝する。レオンとカミラはしっかりとその血が受け継がれ、エレメントに愛された髪の色で適性もバッチリだった。本来ならば純血からディフェクターが生まれるのはあってはならないことだし、確率もかなり低い。だからルティアスが生まれた時、家中が大騒ぎになった。
しかし、それでも父や母は別に公表してもかまわないと言っていた。
「俺たちの息子がその程度の戯言を気にするわけがあるまい。文句がある者は前に出て意見せよ」
そういった父の目は真剣そのものだった。レオンがはっきりと父のようになりたいと思うようになったのはこの時だったのかもしれない。
父のこの言い方に、中には「横暴だ」だの「いずれ後悔することになる」だのと言っている連中はいたが、レオンもカミラもまだディフェクターという認識も少なかったがために、父が言っているのだから安心だとなんの疑いもなかった。
そんな騒ぎが過去にあったなんてことも知らずに、ルティアスは物心がついたころには図書館に籠っていた。一時期籠りすぎていると心配したこともあったが、早朝にランニングをしている姿を見かけた時には安心した。
そこから月日が流れ、ルティアスが一緒に剣術の訓練を受けることになり、図書館んカミラ姉と向かったと時に、彼自信がディフェクターであることに気づき、それをどうにかして魔法を使えるようにならないかと日々努力しているということを知り、なんだかやるせない気持ちになった。
だがこの数刻後には、それが杞憂であったこと知る。父によって魔法がかなり使えることが分かったからだ。これを聞いた時、俺は祝福すると同時に焦ってもいた。
(このままじゃ弟に負ける……)
魔法が全く使えないという常識を弟は簡単に覆してしまった。いや、簡単はなかったであろう。何たいていの努力ではここまではできない。だがこの時俺は思った。
(こいつはいつか、俺を超えていくんだろうか)
こう思ったときには、流石に悔しかった。自分が無意識に負けを認めたようなものだ。ルティアスはかなりの努力をしたはずだ。だが果たして自分が努力していなかったかと言われればそれは違う。
だからこそ、ルティアスに負けないように嫌いな魔法もしっかりやった。でも一歩成長したと思えば、向こうは2歩も3歩も成長している。
だからこそ、俺は無意識に父の書斎の前に立っていた。ノックをし、中に入る。
「レオンか、どうした?」
「強くなりたいんだ……」
「……」
父は黙ったままだ。それでも、わかってほしくて話し続ける。
「俺は、父さんみたいに強くなりたくて、訓練を頑張ってきたつもりだった……でも、怖いんだ。一度も父さんには勝ててないし、カミラ姉にも5分だ。ルティアス二だって今は勝ってるけど、あの成長速度は脅威だし……」
「……」
なおも父は黙ったまま、こちらを見ている。
「俺、怖いんだよ。 領主になったときそんなんで守れるのかどうか……」
「皆を守るために、誰にも負けない強さが欲しい、か」
レオンの言い分に、ガルドはまるで幼い自分を見ているかのようで、懐かしく感じていた。だからこそ自分の経験を彼に教えてあげる必要がある。
「お前が力を欲しいと真に望んだとき、お前のその紅の髪が答えてくれるだろうよ。」
「え?」
「精霊は皆平等に、だ」
最後の言葉に、どこか絵本かなんかで聞いたことがある気がして、図書館でそれを探した。
「あった!」
それは古いおとぎ話だ。『レアンドの英雄』というおとぎ話にその言葉が出てくる。
内容はこうだ。
昔々レアンドという大きな国がありました。
その国は負け知らず、周りの国からも恐れられるほどの力をもっていました。
しかし、ある日突然魔王と名乗る者たちが、レアンドへ攻撃をしてきました。
そのあまりにも強すぎる力を前に、強かったレアンドの兵士たちはたちまち逃げてしまいます。
誰にも止められなかった魔王たちは、あちこちの町や村を襲っていきました。そして、こう言ったのです。
「私に従うものは、みんな等しく助けよう」
そうすると、続々と彼らの仲間に加わっていきます。
みんながもうあきらめようとしたとき、一人の少年がレアンドの王宮へとやってきました。
「私がこの国を救って見せましょう。」
藁にも縋る思いだった王様は、彼に賭けました。
すると彼は不思議なことに、精霊を自分の身に宿し、次々と魔王の部下を倒していきます。
ついに追い詰められた魔王は彼に問いました。
「何故そんなありえない魔法が使えるんだ?」
すると彼は笑顔でこう答えました。
「精霊は皆平等にあるのです」
こうして魔王は倒され、レアンドに平和が訪れたのです。
これが父が言ったことであるとすれば、この英雄の少年が使った魔法は実際に存在するということになる。
そしてそれを使えるようになったレオンは、今初めて父以外の人の前で使った。
―我、汝ら全てを燃やす紅き気高き獣なり―
視界が真っ赤に染まり、自信の内側からまるで何かに焚きつけられたかのごとく炎が噴き出してくる。それに伴ってルティアスの魔法を打ち消した。
正直これを使わずに勝てると踏んでいたレオンだったが、最後の魔法は相当なレベルのものだった。
「俺の勝ちだ、ルティアス」
いまだに理解が追いついていない様子のルティアスの首に剣を押し当てた。
こうして、二人の真剣の戦いはレオンの勝利に終わった。
「忘れ物はないか?」
「はい、大丈夫ですレオン兄さん」
「そうか」
その日は軽い治療を施してもらい、そのまま王都へと向かうことになっていた。昨日の時点ですべての身支度は済ませていたし、もう忘れるようなものはないはずである。
「それで、それは必要なのか?」
何やら苦笑しながら聞いてくるレオンの視線をたどれば、そこには山のように積み重なっている本があった。
「ん、これですか?当然ですが」
この世界においての知識はとても貴重であるし、何より魔法に関しての文献はまだ熟読し終わっていない。故にここにある本のほとんどが魔法に関するものだ。
もちろん、この世界の成り立ちなども深く知る必要があるだろうが、そんなことは王都の学校でいくらでも学ぶ機会はあるだろう。
「父上に許可は頂いているのですが、ダメですかね?」
「いや、いいんだ。」
レオンは、今にも崩れそうになっている本の山を乗せた荷馬車を見て呆れながあらも、目の前の少年はいずれすごいことを成し遂げるのだろうなとひそかに思った。
「では皆さん、行ってきます。」
「ルティアス!」
「……」
だからこそ、彼は首を傾げながらこちらを振り向いた優秀な弟に最後にエールを送った。
「精霊は皆に平等だ」
「?」
頭に疑問符を浮かべているルティアスは、全くわかっていなさそうではあったが、彼なら俺よりも早くこの秘密にたどり着けるだろう。
「成長したな」
「はい、あいつはこれからも強くなりますよ」
「違う、お前だよレオン」
「あ、ありがとうございます!」
父の不意な褒め言葉に、頬のにやけは抑えられなかった。
ルティアスが帰ってくるころにはさらに強くなっていることを誓ったレオンだった。
結局、レオン兄さんは最後まであの魔法がなんだったのかを教えてくれることはなかった。
(しかし、最後のレオン兄さんが発した言葉はどこかで聞いたことがあったような……)
それが何だったのかを思い出すために、王都に着くまで本の山を手当たり次第読み漁っていった。
* * *
王立エルメス学園校長室
「校長、今回の受験者は例年よりも少し多いようです」
そう言って校長に受験者のプロフィールが書かれた束を渡す。
「今年も受験は荒れそうです」
「それは、受験者諸君次第ではないかね?」
校長は一枚一枚丁寧に読み進め、やがて一人の人物のプロフィールで止まる。
「ほほう、これはこれは……」
「どうかなさいましたか?」
「カルドのとこの三男がおるわい」
「え!そしたら、カミラ・クラッセルの弟ですか!?」
「今年は姫様も来られるのだ。これは荒れるのう」
「荒れますね……」
方や愉快そうに長い髭を撫で、方や目頭を掴んで険しい表情をしていた。
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