第6話 森へ 前編

あの最初の剣術訓練から1年から経とうとしていた。これまでのやって来たことを継続しつつも、剣術に付与魔法や防御魔法を取り入れた訓練をより一層強化していった。


この1年で何か変わった事があったかと言うと、特に何かあるわけでもなく、強いて言うならば長女のカミラが家を出て冒険者学校に入学したことだろうか。


彼女は剣の腕は確かだが、それでも恋する10代なのである。縁談でいい相手を見つけるまでギリギリまで粘っていたのだが、遂にその日が訪れることはなかった。


ただ冒険者学校ではかなりの有名人になったらしく、カミラはかなり美形でモテるし、おまけに剣術も負け無しだと言う。やはり父カルドから教わった剣術はかなり役に立っているようだった。


才色兼備なんだからそりゃモテるだろうなとも思ったが、特にお付き合いしている人もいないという。その話を聞いた時、かなり本気で滅びてしまえと思ったものである。


レオンとカルドはそんなルティアスを見て、


「父さん、ル、ルティアスが……」

「新種の魔法か………?」


と怯えていた。


ただカミラ姉なら直ぐにそのへんの人と電撃婚するんじゃないかなと心配していない。父と母もそれほど心配はしていないようだった。


レオンはカルドの後継のために最近では仕事量も増えてきていて、剣術訓練以外では全て執務室にこもりきりだったりする。それが嫌で何度も抜け出してはいるが一刻も経たずに父によって引きずられて帰ってくる。


もうすぐ8歳になる俺は、既に図書館にある本は読み終えていて、新たに本の注文を父にするような状態である。魔法もいくつか覚え、現在では回復魔法以外なら中級魔法までは全てマスターしていた。


だが魔素量の伸びは芳しくなく、適正値はだいたい25くらいで頭打ちになった感じが出てきたしで、上級魔法を習得するまでには至っていない。


魔法をある程度使えるようになると訓練の幅も増えてきた。


具体的には、魔法を撃って魔素を限界まで使い切って回復したらまた撃ってと繰り返しをするというものだ。


これをすることで魔素の量が上がることの他にも、魔法を発動するプロセスの最適化をすることで余分な魔素の流出を防ぐ練習にもなっている。当然、適正値にも少ないながらも反映はされている。


ただ器の限界というものもあるらしく、どんなに魔素の量を上げようと必死になっても必ずどこかで限界が訪れると本には書いてあった。器の大きさは個人差があるため、限界が来るまでは分からないらしい。


魔法使いの場合に限らず、大抵は成人を迎えたあたりで限界を迎えるらしい。なんでも、魔素を使わなくなればそれだけ器も縮小していくのだそうだ。


魔法使いより剣士の方が適正値が高くても、魔法使いの方が魔素の量が多いケースがほとんどなのはそれが原因だと言われている。


とりあえず、今はまだ限界には来ていないので引き続き魔法の練習と並行して行っているのが現状だ。


「ルティアス、いるか?」


そんなある日、父が図書館を訪ねてきた。俺の部屋は寝たり着替えたりするためだけの部屋と化しており、図書館が第2の故郷になりつつあった。恐らくカルドも真っ直ぐこちらに来ただろう。


「何でしょう、父上」


実は父カルドが図書館を訪れるのはかなり珍しい。最近では剣術の訓練でも魔法を使えばある程度戦えるようになり、ストレス発散としてたまに模擬戦を誘いに来るのだ。因みにレオンもあれから魔法を少しずつ習い始め、大幅な実力アップを果たしている。


しかしレオンは剣術訓練以外は執務室に篭ったきりになっているので、暇を持て余している俺の元へ来るのだ。


だからまた模擬戦の誘いかとも思ったのだが、さて。


「お前も8歳になるからな、森の出入りを自由にしようと思ってな。」

「森ですか?それって、家の裏の?」

「そうだ。」


クラッセル男爵領は山を背後に構えるような造りになっていて、家の正面は街が広がり、左右は家畜や農業となっている。言ってしまえば田舎である。


但し、このクラッセル男爵家家臣団はかなり優秀らしく、騎士団も王都の近衛騎士団には劣るものの、それなりに強いらしい。らしいと言うのは俺は1度も会ったことがないからだ。


では何故そこまで田舎の領地にそれほどの人材が集まっているかと言うと、領地の背後に構える形をとる山とその更にもう一つ山を超えた先はステオラ興国があるのだ。


ステオラ興国とは長い間戦争状態で、現在は長期休戦中となっている。だが油断できない相手であるので、こうして警戒を強めているのである。


山一つ超えたところ、丁度国境付近にはダグズ砦という砦があり、家臣団は基本的に最低限の街の警備以外はそこにいるらしい。そこにも仮の街みたいなのがあり、生活ができるようにはなっていた。


年に一度の報告のために戻ってくるが、俺はその姿を遠くからしか見たことがない。レオンは後継だから、会議にも出席しているようだ。さらに言えば図書館に篭もりきりなので、会うタイミングがなかった。


「なぜ、自由にしていいと?」


因みに俺は家の領地から1度も出たことがない。トレーニングや剣術の訓練は家の周りで全て出来るし、他は図書館だけだ。正直あまり乗り気じゃなかった。


「お前があの森で、外で生きるための術を学ぶべきだからだ。」


父が言うには、あの森には魔物がそれなりに出るらしい。そのため、冒険者としての生きる術を学ぶにはうってつけの森なのだそうだ。


「冒険者学校でそういうのは学べないんですか?」


しかし、それを聞いてもやはり乗り気はしない。


「利点はあるぞ。魔物からは魔石が手に入るんだがな、それを街で売ればお前の金になるしな。それに、冒険者学校では実技が始まるのは2年目だ。ただ学校外の時間は基本的には自由だから、森にです事も出来る。いきなり向こうで初実践よりも、こちらで予習して置いた方が向こうで自由に出来るぞ。」


相手が魔物であるとはいえ、仮にも殺しを行うのだ。確かに12歳になってから慣れを始めるより、8歳の今から慣れさせた方がいい。冒険者学校では死んでも特に違約金みたいなのが発生するわけでもない。実際年に一人二人は出るそうだ。なら父の監督の元、安全に訓練を積むのは悪くない。


それにお金が出るのであれば、多少の自由も手に入る。


「では、行きます。」


俺は少し迷った末に行くことを選択する。


「そうか!では私も案内のために一緒に行くとしよう。さあ行くぞ!」

「え、今からですか?」

「私もそこまで暇ではないからなっ」


いやいや、最近ではほとんどレオンに任せて暇しているとこをよく見かけるんだが。暇だから今すぐ行きたいんだろうなと、今やっていた作業を中断して父と共に森へと向かう準備を始める。


「必要なのは腰カバンと水と武器だけだ!」

「それだけですか?」

「身軽でないと魔物に襲われた時の対処が遅れるからな。後は全て森で揃う。」


準備もそこそこに俺と父は森へと向かった。




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