第4話 剣術訓練
パーティが終わり、父の部屋に呼ばれた俺はパーティの終わったその足取りで父の部屋へと向かっていた。
レオン兄とカミラ姉が何やら哀れみの視線を送ってきたが、何かやらかしてしまっただろうか?図書館をあれだけ散らかしたのしか記憶にない。
悩みながらも父の部屋の前に着く。
「父さん、ルティアスです。」
「入りなさい。」
扉を開け部屋に入ると、父が椅子に腰掛けていた。
「ルティアス、お前ももう7歳だ。」
少し真剣味を帯びた表情で話す父に、やはり説教かなと思うルティアス。
「はい」
「お前は図書館から引き篭もっていて、あまり外にも出たがらないだろう?まあ、最近は外で走っているのも見かけはするが。」
やはり図書館が散らかっていることに関して起こっているのだろうか。あの惨状は自分が親でも流石に怒ると思う。正直、父が怒った姿は見たことないから分からない。
「お前は12になれば外に出なければいけない。それに、お前はそのー……なんだ……黒髪だし…な?」
「ディフェクターのことですか?」
一般的に長男以外の、つまり後継以外の男子は12、女子は14で家を出なければいけないのが習わしである。
何故年齢に差があるのかといえば、これは女子の場合、縁談があることもあるからだ。もちろん嫁いだりすればの話で、例えば嫁ぎ先は一切いらず、自分は冒険者なり王都で仕事を貰うんだという確固たる意思があり、それに親が同意していれば12で出ることも出来る。
そして父の懸念もよく分かる。要するに、いくら頭のいい息子でも、ディフェクターである自分は蔑視の対象となる可能性もある。つまりは不安なのだろう。片付けも出来ない自分が今後やっていけるのかと。
カルドは少し驚いたように固まったが、咳払いをして話を戻す。
「なんだ、頭のいいお前のことだから分かっているとは思っていたが、私が思っている以上に肝が太かったようだ。」
「はぁ」
「そこでだ!お前に剣術を習わしておこうと思ってだな!」
「え……」
「やはりクラッセルの家に生まれたからには、腕っ節もどうにかせんといかんしなっ」
何故か止められる隙もなく、明日から剣術訓練を受けることになってしまった。
上二人の特訓を何度か見たこともあるが、あれは訓練ではなく、一方的な暴力にしか見えなかった。何度もあの二人がなす術なく叩き倒されていくのを見てきた俺にとって、あれは地獄以外のなにものでもない。
怒られた方が良かったと思うルティアスだったが、これだと自分がボコボコにされる未来しか見えないために急ぎ図書館で対策を練ることにする。
一応全ての魔法理論は完璧に覚えたし、後は実践あるのみである。魔法は出せるまでが難しく、それ以降の訓練はひたすら気絶するまで魔法を撃ち続けるという根性論になる。
父から剣術の話がなければファイアーボールでひたすら適正値上げと体内魔素の増幅に全てを注げていたんだが、剣術の訓練が入るとどうしても魔法に当てられる時間がかなり削られてしまう。
恐らく2日に1度は午前中が全て訓練、4日に1度は1日中訓練みたいな感じになるのではないだろうか。
そうなると魔法の伸びは大したことにはならないだろう。それでは困るのだ。俺は魔法使いとして有名になりたいのだから。
一応自体は考えてあるのだが、問題はこれからこの魔法を朝までに完成させ無ければならない。
そしてそこから鬼のような試行錯誤を繰り返していった。
「はっ今何時だ!?」
魔法を完成させたルティアスは、気づいたらその場で寝落ちしてしまっていた。慌てて自室に戻って着替えを済ませ、窓を覗いて時間を確かめる。日の傾きからしてだいぶ早く起きてしまったようだ。
「よ、良かった……」
練習が始まるのは朝食後になるため、朝食までの間瞑想をして目を覚ますことにする。
魔素が体内を流れているのがよく分かるようになった。以前とは比べるまでもなく増えている魔素の量に感激しながら、その魔素を右手や左腕全体、足、胸といった感じで全身に集約箇所を変えながら巡らせていく。
これを毎日することで、魔素の量に変動はないが、魔法コントロールが上手くなると書かれていた。どの程度できれば魔法コントロールが上手いと言えるのかは本によってバラバラで良く分からなかったが、とりあえず集約出来ない箇所はなくなっている。
あとはペースを上げていくだけである。咄嗟のことに対応出来なければ意味がない。焦ればそれだけ魔法も乱れるので、この練習は絶対毎日やった方がいいだろう。
「ルティアス様、朝食が出来上がっております。」
「今行くよ」
メイドの1人が知らせに来たので、先に行かせて部屋を出る前に完成した魔法を1度使ってみる。
「……よしっ」
完璧に発動した魔法に満足し、朝食に行く。
「今日からルティアスも訓練に加わるからな。二人とも」
「ええ……よろしくね、ルティアス」
「よろしくな……」
「はい、カミラ姉、レオン兄。よろしくお願いします」
物凄く哀れみの視線を上二人から受け、昨日の時点でこの二人は気づいていたのだろう。そういえば二人とも俺と同じくらいの時に剣術を始めたんだったか。なるほど、昨日の夜父が俺を呼んだ時に「ついに来てしまったか……」と思ったのだろう。
朝食を済ませ、動きやすい服装に着替えてから、庭へと向かう。既に三人は集まっていた。
「よし、では早速剣の素振りから始めよう!今から100回始めっ」
「まじか」
「どうしたルティアス、手が止まっているぞ。早く始めなさい」
突然素振り100回と言われて思わず素が出てしまった。横を見れば、二人は淡々とこなしている。
「………98、99っ………100!っハァっハァっ」
「最初にしてはよく頑張ったなルティアス。見込みがあるぞ!」
「褒められても全然嬉しくない…」
かなり体を鍛えてはいたが、流石に剣を振る筋肉は付けていなかったのでこれは間違いなく夜には筋肉痛に苛まれるだろう。それでも鍛えていたのが幸いして100回をどうにか振ることが出来た。鍛えてなかったら30回さえ出来たか怪しい。
「凄いわね」
「ああ、俺なんて初めて剣を降った時50いったか怪しかったのに」
カミラとレオンもこれには驚いていた。今でこそかなり強いであろう二人だが、やはり最初は全く出来なかったらしい。
俺が二人と違うのはやはり精神年齢が高いということと、既に半年も前から鍛えていた事だろう。
「よし、休憩は終わりだ。それでは受け身の練習に入ろう」
「「「………」」」
受け身とは、あの毎回ボコボコに飛ばされているやつのことだろうか。二人の表情を伺い、とんでもなく嫌な顔をしていたのでまあ当たりだろう。
恐らくアレを受けると明日は全く動けなくなってしまう。それでは瞑想をしようにも出来ない可能性まで出てくる。そのために昨日、夜遅くまで魔法の練習をしたのだ。恐らく多少はマシになるのではないかなと思う。
「では順番にかかってくるが良い!」
両手を広げて立つカルドだが、正直素人から見ても隙がないのが分かる。
どのタイミングで行けというのだろうと思い、とりあえずもう慣れているであろう二人を観察することから始める。
「「………」」
相手をじっくり観察し隙を窺う二人は、まるでハイエナが獲物を仕留めようとしている様に見えるほど空気が尖っていた。
(なるほど、二人が強いと言われるわけだ)
そして二人で一呼吸で一気にカルドへ詰め寄り、カミルは下から、レオンは上から横薙ぎの一線を食らわせる。
ガァンっという打撃音とともにその場で二人が凍りつく。
「ほう、なかなか腕が上がってきたな二人とも?」
そこにはカミラの一線を蹴りで抑え、レオンの一線を腕で抑えている巨漢がいた。
「カミラ姉!」
「っ!」
レオンが掛け声とともに顔面へ蹴りを食らわせるのと同時に、カミラはすかさず回転して後ずさる。
しかしレオンの蹴りはカルドの顔面を捉えることなく、その手前で掴まれて勢いよく明後日の方向へ投げ飛ばされてしまった。
それを見る暇もなく、カミラの目の前へとどうやったのか一瞬にして現れたカルドは自分の娘にやるとは思えない蹴りを腹へ入れ、そのまま飛んでいった。
「うわぁ……」
これは俺の知ってるDVの概念を遥かに超えた暴力の中の暴力だった。
「さて、」
カルドは次はお前の番だぞ?と言わんばかりの視線で俺を射抜いた。物凄く殺気の入り混じった視線に一瞬怯んでしまう。
「っそれが子供に向ける目かよ!」
そう言って、俺は早速完成した魔法を使用する。
「“ブーストエンチャント”!」
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