キラー×キラー

巴の庭

フェイズ 1  ファーストコンタクトと左腕

 ――………………―――

「アア…………」――………――「コノ体ジャアァ………駄目ダ………――」





PM 7:12


 つい時間が遅くなってしまった学校からの帰り道。すっかり日は沈み辺りは暗く、帰路を照らすのは街灯と稀に通る車のヘッドライトくらいのものだった。

 足下を見ながら歩いていた私は、街灯の光の下から抜け出たとき、ふと顔を上げた。

 すると一つ先の街灯の下に、私と同い年ほどの少女が一人――立っていた。

 暗闇のなか半身が照らされた少女の姿は、まるで絵画かなにかから出てきたかのように、美しかった。

金色の長髪を二つに結び、白を基調とした洋風のドレスに身を包んでいた。しかし長いスカートの裾から覗く、重厚感のあるブーツだけがその完璧な調和を乱していた。

 金髪の美少女はじっとこちらを見ていた。少女の大きな瞳と目が合い、私は思わず足を止めた。


「――――こんばんは」


 そうつぶやいた少女の顔が、闇のなかで微笑んだように見えた、次の瞬間――。

 ギャリリリリリリリリリリリリリィィィィッッッッ!!! という鼓膜を引き裂くような甲高い金属音とともに、少女の半身を包んでいた闇のなかから何かが高速で私の方へ迫って来た。

「ぅおっ!!?」

 私は反射的に右方向へ跳び込んだ。公園の並木に沿って設置されているベンチの裏に回り込み、身を守るようにしてしゃがみ込んだ。

 少女から放たれた何かは、アスファルトを削りながら私の立っていた場所を通過していった。

 一体なんだ――?

 私はベンチの陰から街灯の下の少女を覗き見た。少女は不敵な笑みを浮かべたまま、私のことを見据え、右手に何かを握っていた。

「なんなの一体………っ………?……」

 左手に違和感があった。どれだけ肩を下げても、地面のアスファルトを触ることができない。それに不思議と指先の感覚も感じなかった。まるで感覚が感じることを忘れてしまったかのように。

 そういえばベンチの裏に跳び込んだとき、何かが左腕に当たったような感触があったなぁ―――……。

 私は自分の左腕に目をやった。すると。


 肘の少し先、前腕の半分ほどから先が―――切り落とされていた。


「いっ……」

 切り口はギザギザで砕けた骨が突き出て、筋肉も皮も滅茶苦茶になっていた。破られた制服の袖が僅かに痛々しい傷口を隠していたが、間違いなく私の左腕はその約半分が消え去っていた。

「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! …………ッッ………ッ――――痛ってええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっッッッ!!!!! ~~~、クッソオオォォォォォォッッッ!!! ッ、やりやがったなぁぁぁぁぁぁぁぁっっッッッ!! ッッ……クッソがあああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 途端に激痛が走りだした左腕を抑えることもできず、私は膝を突いて絶叫した。本当に頭のなかが滅茶苦茶になるくらい痛かった。思考が乱れ、一瞬いま自分がどこにいるのかもわからなくなった。

 激痛に悶える私をよそに、今しがた私の傍らを通過していったなにかが再びあの金属音を響かせて同じ場所を走り抜け、少女のもとに戻っていった。私は頬に汗を垂らし流しながら、朦朧とする視界で少女のもとに飛び込んでいった巨大な塊を睨んだ。

 それは無数のスパイクがついた車輪のようで、直径は1~1.5メートル程あり、何周にも鎖が巻かれていた。少女はその鎖の端をつかみ、鎖をほどくことでまるでヨーヨーのように巨大な車輪をこちらへ飛ばしているのだった。

 そしてまた見事にヨーヨーのように、鋼の車輪は回転しながら少女の手元に戻っていったのだ。

 少女は高速回転する車輪をいともたやすく片手で掴み取った。

 車輪のスパイクの一部には真っ赤な血が付着しており、少女の足下に滴っていた。私の血だ。

 切断された私の腕は暗闇に紛れてどこかへふき飛んでしまっていた。とにかくあの車輪のスパイクが、私に接触した僅かな数回転で左腕を切り落としていったのは確かだった。

「クッソがぁぁぁ………許さねえぞてめぇっッ…………」

 痛みに項垂れてから、もう一度顔を上げた。すると一瞬の間に、鋼の車輪を肩に担いだ少女がすぐ目の前に迫ってきていた。

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