第四六話:近付くその時
4人は住民達の潜んでいた建物を後にして、暗い道を素早く駆け抜けた。
周囲を慎重に伺いながら、4人は出来る限りのスピードで走った。
しばらく行くと人の気配が感じられるようになった。
ビルの隙間から前方を除くと、男達が店から姿を現した。全部で3人、グラハムのメンバーのようだ。
凱達はその場所を避け、右に迂回して建物の間を進んだ。なるべく接触は避けたい。しかしその場所を境に、次々とグラハムの人間たちの姿が散見されるようになった。
いよいよ本格的に奴らの居住エリアに入ったようだ。
4人は慎重に歩を進めた。
息を殺し、建物と建物の間を縫うように進む。
「はっ」
街中をかなり進んだ頃、先頭にいた兵馬は角を曲がった先にグラハムの男がいることに気付かず、鉢合わせてしまった。
すぐさまその男は臨戦態勢を取ろうとしたが、凱が風のようなスピードで動き相手の後頭部に手刀を静かに早く見舞った。
男は声もなく倒れ込んだ。
「すみません、ヘッド……」
「しょうがないさ。恐らくこいつは警備兵だ。気配を消しながら移動していたな」
凱は予期せぬ事態にも至って冷静に対処していた。
「中心部が近いという印だ。宮殿は近い。急ぐぞ」
4人は再び走り始めた。
しばらく進んだ先で凱が足を止めた。凱の前には古びた建物があった。
「ここだ」
凱はその建物の入り口の扉を開け、中へと入っていった。英二らもその後に続く。
中はガランとしており人の姿はなかった。
凱は部屋の奥にある本棚の前に進むと、1冊の本を手に取った。その本の下には銀色に光るスイッチがあった。
凱がそのスイッチを押すと、本棚が左右に開き地下への階段が現れた。
階段を降りると、いくつか机と椅子が並んだダイニングバーのような部屋があった。
その部屋には既に先客がいた。
「英二!」
椅子に座って待っていた結有が、英二の姿を見つけるやいなやこちらに駆け寄ってきた。
「結有、無事だったんだね」
「うん。英二も無事に来れたみたいで良かった」
2人は無事を確認し合い安堵の息をついた。
地下には結有に加えて慎と斉人の姿があった。
「ご苦労だったな慎」
凱が慎に声を掛けた。
「幸運にも、大きなトラブルなくここまで来ることが出来ました。ヘッドも無事のようで何よりです」
「しかしこの街の状態も酷いもんだ。ほんの数日間で死の街と化してしまった」
「はい……多くの犠牲者の姿もありました。早く奴らをとめないと」
「ああ……早急に最後の詰めを確認しよう」
各々が席に座ると、凱が切り出した。
「宮殿はここから目と鼻の先だ。そして後1時間後にはその宮殿で演説が行われる予定だ。街にいるグラハムのメンバーが宮殿に集まる。多少なりとも現場は浮足立つだろう。俺達が潜り込むには打ってつけのタイミングだ」
「しかし、それだけの人数が集まるというのは厄介ですね」
「ああ、そいつらを相手にしていたら切りがない。俺達のターゲットはただ1人、厄災・ラッセルだ。奴が演説会場にたどり着く前に仕掛けてケリをつける」
凱は英二と結有の2人に視線を向けた。
「お前たち……頼んだぞ……」
「はい、もちろんです」
「ああ」
宮殿には先陣と後陣の二手に分かれて潜入することとなっていた。
先頭は慎を筆頭に、哲郎・兵馬・斉人がその役目を任された。いずれもファミリア内で屈指の実戦力を備えた精鋭たちだ。
彼らのミッションは宮殿の護衛を秘密裏に突破し、後陣の凱・英二・結有に厄災まで通ずる道を切り開くことだ。
「では行ってまいります」
慎を先頭に、先陣チームが建物を出て宮殿へと向かって行った。
彼らのことだ、きっと上手く任務をこなしてくれるはずだと英二は信じていた。
英二ら3人は建物内にとどまり、先陣チームからの一報を待った。
英二はちらりと結有の様子を伺ったが、その瞳に心配や不安の色は浮かんでいないようだった。
先陣が出発して30分が経とうかという所で、慎からのテレパシーが届いた。
『こちら慎』
『どうだ、状況は?』
『宮殿内の目標地点まで辿り着きました。ここから先は幹部陣の住む上階フロアに通じる階段と、演説会場となるホールへ続く分岐点です。斉人と哲郎を途中の中継地点に配置していますので、コンタクトを取ってここまで来ていただければと思います』
『分かった。ではすぐに俺たちも出発する』
『お待ちしています。くれぐれもお気をつけて』
通信を終えた凱が2人に振り向く。
「行くぞ。出発だ」
凱の後ろにつく形で英二と結有は建物を出て、宮殿へと歩を進めた。
予め侵入口としていた裏門の一つに向かうと、奇麗に門番は意識を失いダミーの人影が設置されていた。
裏門の扉を開けて慎重に中へ入ると、3人はシャドー状態で先を急いだ。
先陣舞台の働きもあり、道中にはさしたる障害もなくスムーズに進むことが出来た。
予定通り第一の中継地点で哲郎に、第二の中継地点で斉人と落ち合った。
しかし、落ち合った際の斉人は座りながら何故か苦悶の表情を浮かべていた。
「斉人、どうした……?」
そう問いかけた英二はすぐにその理由に気付き、「うわっ」と声を上げた。
座り込んだ斉人の左足は大きく抉れており、傷口からは赤い血がどくどくと流れていた。
結有も「きゃあっ」と悲鳴を上げた。
「大丈夫かよ、斉人……?」
「僕としたことが不意をつかれてしまったよ……でも大丈夫だ、大した問題じゃない。君は先に進むんだ」
「でも……」
「良いから行くんだ! このミッションの目的は何だ? それを見失うんじゃない。僕のことは大丈夫だ、後から哲郎が来てくれる」
「斉人の言う通りだ。ここは哲郎に任せて、先へ進むぞ」
「分かったよ。悪いな、斉人……絶対にミッションやり遂げてくるよ」
「当然だ。頼んだよ」
3人は再び宮殿の中枢を目指して走り始めた。
幾つかの回廊を階段を進んだ先に、慎たちとの合流地点の個室があった。
凱が扉に手を触れ、何かを念じると扉の鍵がカチャリと外れた。
「お待ちしていました」
中に入ると慎と兵馬が3人を出迎えた。
「ご苦労だったな。お陰様でこれといったトラブルもなくここまで来れたよ」
「演説時間が迫り、宮殿内が浮足立っていたのが幸いしました。さあ、我々はいよいよ中枢に近付いて来ました。この部屋の前の通路を進めば、先のフロアに上下に別れた大階段が控えています。上へ行けばルシファーやラッセルの居住階に、下へ行けば今回の演説会場となる大ホールへと辿り着きます」
「いよいよだな。慎と兵馬、お前たち2人は下の階段を進んでホールへ忍び込み、集まるグラハムの奴らを監視してくれ。何かあればすぐに連絡を来れ」
「分かりました」
「頼んだぞ。そして……」
凱が部屋の入り口に近い所に立っている英二と結有を振り返り、ひたと見据えた。
「俺たちは上の階段だ。奴らの元に、乗り込むぞ」
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