第三四話:突入
「よし、じゃあ出発だ」
両ギルドはミッション前最後の打ち合わせを入念に終えると、慎の掛け声とともに動き出した。
いよいよ現場へ突入だ。
カフェから出ると英二達は今回の目的のビルへと向かって街中を進んだ。ビルは程なく一同の視界の中に捉えられた。全体的に白を基調とし、あまり窓が備え付けられていないその建物はどこか閉塞感を感じさせた。
3組に分かれてエントランスフロアへ入る。
英二は兵馬と行動を共にすることになっていた。
偽造されたカードをかざしセキュリティを突破する。
建物内に入るとすぐにエレベーターホールに向かい、ボタンを押して到着を待った。昼下がりの時間帯、辺りに人は少ない。
到着したエレベーターに乗り込み5階ボタンを押した。
音もなく高度を上げるエレベーター。
チン、という音と共に5階に到着し、扉が開いた。
バンバン!!
唐突にエレベーターの中に2発のバレットが打ち込まれた。
しかしその弾は機内の空気を切り裂き、壁に直撃した。
即座に機内の上壁から2人の発砲者それぞれに向けて飛び蹴りが食らわされた。
強烈な一撃に2人はもろとも床に倒れ込む。
追い討ちを掛けるように上からバレットが打ち込まれ、2人は完全に意識を失ったようだった。
「へっ、やっぱりばれてたか」
「みたいだね」
兵馬と英二はため息をつきながら銃剣を腰のベルトに戻した。
「どうりでやけに静かなわけだ。急がねえとやべえな。行くぞ」
2人は廊下を音もなく走り出した。
ウウウウウウ!
すぐにビルの中に警報音が鳴り響いた。
「侵入者あり。侵入者あり。皆さん所定のルートを使って避難してください」
社員に避難を促す音声が繰り返し流れる。
「けっ、対応が早えこった」
2人は廊下を右に曲がり、突き当りまで一気に駆け抜けようとする。
すると突然、目の前に黒いボディスーツ姿の男が姿を現した。
筋骨隆々の肉体で、目にはサングラスをかけている。
2人はそこで足を止めた。
「来やがったな用心棒」
「兵馬、後ろにも!」
曲がったばかりの角、元来た道を覗いた英二が伝える。
「オーケイ、俺が前をやる。お前は後ろを頼む」
兵馬と英二は角を基点にそれぞれ前と後ろに進行方向を分け、シャドウ状態に入った。
挟み撃ちにした状態でガンからバレットを打ち込む2人。
しかしそれは英二と兵馬にあたることなく、2人の残像を通り抜けて壁に当たった。
バン!
英二が一瞬姿を現しバレットを打ち込む。
キン!
バレットは男の目前で透明な壁に当たり弾かれた。
シールド――
敵はどうやらなかなかの実力者のようだ。
英二はぐいと前に踏み込む。
接近戦だ。
バン!
バン!
男は続けざまにバレットを打ち込む。
が、当たらない。
一瞬とも言える間で男の前に英二が到達した。
フッ!
英二の右拳が男に向かって空気を切り裂いて鋭く飛ぶ。
男はすんでの所でそれをかわす。
間髪入れずに左拳が飛ぶ。
男は必死に右腕でそれをガードした。
「っ!」
手からガンがこぼれ落ち、男は一瞬よろめいた。
その隙を見逃さず、右脚から繰り出されたミドルキックが男の脇腹に食い込んだ。
「ぐはっ!」
男は苦しげな呻き声を上げてその場に倒れ込んだ。
あっという間に勝負は決した。
「あっけなかったな」
英二は男を見下ろしながら銃剣を構え、背中に向けてバレットを打ち込んだ。
バン!
男は床一面に伸びた。
すぐさま英二は道を引き返し、角を曲がった。
「そっちも終わったか」
通路の先で兵馬がポケットに手を突っ込みながら立っていた。
足元にはこれまた気を失っているであろう男が倒れていた。
英二と兵馬は階段を駆け上がり最上階の13階を目指した。
7階からは直通のエレベーターがあり、8階以上に上がる場合は通常はそれに乗って移動する。しかしビル内では既にエレベーターは停止されていた。標的を逃さないためにこちら側がシステムをジャックしたためだ。
途中何人かのガーディアンが2人の行く手を阻もうと立ち塞がったが、力の差は歴然だった。2人は難なくその障壁を蹴散らして飛ぶように階段を駆け上がり、あっという間に最上階に到達した。
ドアを開けて中へ入ると、通路の中央に既に結有と朱音が待っていた。
「お待たせしましたっと」
兵馬が朱音に声を掛ける。
「おほほ、とんでもないですわ。予定よりも大分早かったじゃない」
「そりゃどうも」
兵馬はすぐに通信モードに入った。
「ボス、最上階に着きました」
すぐに慎の声が一同の脳内に響き始めた。
『ご苦労。ターゲットは哲郎達の完璧な仕事のお陰でがっちりその先の部屋の中に閉じ込めている。いよいよミッションも大詰めだ。集中力を一層研ぎ澄ませてくれよ』
「もちろんさ、ボス。きっちり仕留めて帰りますよ」
『頼んだぞ』
通信がぷつりと途絶える。
「さあ、いよいよ俺達のターゲットがその先の部屋でお待ちだ。英二と結有ちゃん、覚悟はいいか?」
「ああ」
「はい」
「オーケイ。念のための再確認だが、英二、お前は俺と一緒に奴を追い詰めるぞ。隙が出来れば黒炎で邪気を炙り出せ。結有ちゃんは邪気が現れたらすかさず浄化を頼む」
2人は兵馬に向かってこくりと首を縦に振る。
「塩谷さんはここで後方支援をお願いしますね。援軍とか、隠れてる奴とかいたら蹴散らしちゃってください」
「任せなさい。おほほほ」
「どもっす。よし、じゃあ行くぞ」
3人は通路を進み、『プレジデントルーム』と表札のついた部屋の扉の前に立った。
「いち、にの、さんで行くぞ」
兵馬が小声で囁く。
「いち、にの、さん!」
バン!と部屋の扉を蹴破り、兵馬を先頭に3人は部屋の中に押し入った。
「おら! お邪魔するぜ!」
部屋に入るなり兵馬が凄む。しかしそれに対する反応はもちろん、人の気配もない。
部屋の中はがらんとしていた。
「あれ、おかしいな」
「あそこだ!」
英二が部屋の奥の机と椅子の後方を指差した。そこにはぱっくりと壁が開き、さらに上階へと続く階段が姿を見せていた。
「なるほど、屋上ってわけか」
3人はその階段へと進み、一段一段踏みしめて屋上へと向かった。既に雨は止んでおり、鉛色の雲に覆われた空が視界に広がった。
「いた!」
屋上に出るや否や結有が前方を指差す。
出口から20メートルほど離れた所に、男が1人立っていた。上品なジャケットに身を包み、すらりとしたスタイルも合わさって見栄えはいかにも優秀なビジネスマンだ。
だがその顔は不気味なまでに無表情で、感情の篭っていない冷淡な目でこちらを見据えていた。
「やっとつかまえたぜ」
兵馬が前に進み出る。
「つかまえた……? 何をとぼけたことを言っているのかな」
男が地を這うような低い声を出した。
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