弐駅目 約束の時間
次の駅に向かっている最中に、少し休むとのことだったのでマユは奥の車両に行った。しばらく事の経緯を考える、なぜユメは今になって僕に思い起こさせようとするのか?なにが目的なのかが全く見えない。そんな見えない答えを仮説立てて考えてると、反対の車両から若い女性が、息切れしながら入ってくる。しばらく息を整えるため僕の向かい側の席に腰を下ろし、切れた息を整える。見た目はスーツ姿の20代前半のOLって感じだった。ようやく落ち着いて向かいに僕がいることがわかると、恐る恐る訪ねて来た。「あの、すいません。」
「はい。なんでしょう。」
「弟を見ませんでしたか?小学生ぐらいの、赤いベレー帽をかぶって紫色のランドセルを背負っていると思うんですが。」
すぐにピンと来た。さっきまで僕と話していたのだから。「すいません。失礼ですが、白石さんですか?」
「はい。白石です。」
「今休むとかなんとかで向こうの車両に行きましたよ。」良かった。いくら力が強いとはいえまだ子供だ、保護者がいて助かった。
一緒に隣のマユが入って行った車両へ向かう。扉を開けると左の座席で横になって眠っていた。「うぅ...あっ!入ってこないでよ!」「うるさい!お前の姉さんが探してたぞ!」その言葉を聞くと悲しそうに姉を見つめる、すると「あの、」
どうしたのだろう、まるでヤバい人を見るような目つきで僕を見る。
「誰と話してるんですか?」一瞬冗談かと思った。なぜなら今目の前に探していた弟が、悲しそうな目つきでここにいるからだ。それが彼女には見えないようである。
「すいません。少し一人にさせていただけますか?」
僕は姉を置いてマユと別の車両に移る。
「まず言わせてくれ。僕を姉ちゃんに会わせないで。」
「なんでお姉さんにはお前が見えないんだ?」
不機嫌そうにそっぽ向きながら「今度教えるよ、とにかくお姉ちゃんの前に出れないから、」っとその時電車が駅に到着した。駅名は”時間”
ー13年前の7月8日ー
この日、ユメと海に行く約束をしていた。しかし前日の夜に映画を3本続けて観たので、1時間も寝坊してしまった。連絡するのも忘れて、
夕方の午後17時42分辺りは夕日に照らされて海の水面が赤く光る頃、約束の場所に着くと手すりに座って彼女は眠りこけていた。僕が起こすと不機嫌そうに
「いつまで待たせるつもりだったの?」
「ごめん!クマと格闘してた。」
「ウソつき」
しばらく冷めた空気が続いたが、共に晩御飯を食べると機嫌が良くなったのかいつものユメに戻った。
日の入りしきる直後の海、辺りはほぼ透き通った青と黒が入り交じる空に地平線からまだ微かに夕日が見える。
「今度は早めに行こうね。」
「そうだね。」
ユメとの最初の海だった。
マユの元から離れて隣の車両にいる姉の方に行った。姉の隣に腰を下ろすと
「麗奈です。」
「へ?」
「私の名前まだ言ってませんでしたよね。白石麗奈と申します。」
「あぁ、どうも。」
しばらく沈黙が続いたが、麗奈さんが詳しくことの経緯を教えてくれた。どうやら弟のマユは4年前から行方が分からなくなったらしく近所の聞き込みで近くの線路脇にいた所までは目撃されていたが、足取りが掴めず、諦めかけていたらしい。しかし僕と同じく会社帰りにこの電車に乗ると、弟とそれに引っ張られている僕を見つけたそうだ。
「さっきは変なの見せてごめんね。」
「変なの?」
「ほら、あの誰も居ないのに独り言みたいなの言って、」
「あぁ、大丈夫ですよ。少なくとも弟がいるのは事実みたいですしそれに...」と言いかけてる所で駅に着いた。これは...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます