始発駅 出会い
10月21日午後23時10分、終電の1本前の電車が来るのを待つ、
あの脱線事故でユメがいなくなってから早10年、この駅のすぐ近くで彼女は亡くなったにもかかわらず、僕はこの駅から離れることができなかった。職場を変えたのも、
もちろん最寄駅が事故現場のすぐ近くだからだ。周囲の人間に散々止められた。
過去をいつまでも引きずるなとか、もっと前を向いて歩むべきとか、だけどなぜか僕はここを離れることが出来なかった。なんとなくここに通えばもう一度彼女に会えるような気がした。もちろん会えるわけがない、なぜなら彼女はもういないからだ。そのことを考え我に帰ると時刻は午前に変わって日にちも跨いでいた。「しくった。終電はもう行っちゃったかなぁ。」ベンチから腰を上げて線路の奥の方を覗き込むと、二つの光が線路を走る車輪の音と共にこちらに向かって来る。アナウンスがないけど、多分行き先は同じだろうと僕は行き先の表示されたモニターを見ずに電車に飛び乗る。入ったと同時に扉が蒸気音を上げて閉まった。入った扉から見て左側の座席に腰を下ろす、電車はすでに発車してしばらく続くトンネルの中へと入った。すると隣の車両から一人の少年がこちらに向かって歩いて来る。小学4年生くらいの小柄な男の子で赤いベレー帽をかぶり、青と白のシマシマ模様のシャツを着て、紫色のランドセルを背負っていた。ランドセルの横には沢山のコンパスがくくりつけられている。こんな時間に一人でいるのは明らかに不自然だ。きっと両親が隣の最初に少年が入ってきた方の車両にいるのだろうと思い「一人じゃ危ないよ。お父さんかお母さんのところに戻りな。」と言うと少年はクスクスっと笑いながら小声で「ユメさんが亡くなってからもなお、この駅に閉じ込められてるとは哀れですねぇ。」
なぜこの子がユメのことを知っているのかという驚きがあったが、最後の’哀れ’の一言で興奮し我を忘れて怒鳴った。「君に何が分かると言うんだ!」右手の拳を上げてまさに振り下ろす瞬間、少年は傍に入り込んでみぞおちに一発殴った。
普通本気で戦って大人が小学生に負けるはずがない。普通はそうだ。しかしこの瞬間我を忘れてどんな暴力に出るかもわからないこの瞬間に、僕は少年の小さな一発のパンチで尻餅をついてしまったのだ。少年が僕を見下ろしながら右手を差し伸べて「いきなり殴りかかるとはまいったね、さぁ、あの日に案内するよ。」少年の手を借りて起き上がると電車が長いトンネルを抜け出る。「そういえば自己紹介がまだだったね。僕の名前は白石 真結、マユって呼んで」そんなマユの右手に引っ張られて隣の車両に移動する。進行方向から見て右手側の方の席に腰を下ろすとマユも隣に座る。すると電車が急に停まった、駅に着いたのだ。とりあえずこのマユから離れたくて電車を降りようとしたがいっこうに扉が開かない。駅の看板を見るとそこは"出会い"っと書かれていた....
-14年前の4月2日-
僕は会社に入社したばかりだった頃、
同じ部署だったユメとはそこで出会った。話始めたきっかけは、確か弁当は手作りかコンビニで買うかのくだらない話だったと思う。「へぇ、ゲンさんの弁当手作りなんですね。」
「多めに作って、残りを晩ご飯の足しにした方が楽だからね」興味深そうに彼女は僕の弁当箱を覗き込む。純粋無垢な彼女の素顔に今思えばこの頃から既に惚れていたのだろう。「今度作り方教えてください。私昔から料理下手で、もうお米もカピカピだし」
「お米は普通に入れた合のお米に対して同じ合分の数字の目盛りまで水を入れれば良いだけだよ。まぁ時々ゴミが混じってたりもするからたまにといであげるといいかもね。」そんな他愛もない話だった。それから何度か彼女と休日にも会うようになった。
窓越しに14年前が再現されて、出会った記憶に触れた、「なんで、ここにユメが居るのか!?」すると横からマユが「だからー、記憶が体現されてるんだよー、ユメさんはもう死んでるよ。知ってるでしょ?」相変わらず腹の立つやつだ。「僕は何処まで僕の記憶を見なきゃいけないんだ?」
少し疑問そうにしながら言った。
「うーん、僕もよく分かんないんだけど、最後まで見て欲しいみたいだよ。」
「見て欲しいって、誰がこんなの見せたがるんだよ。」
「ユメさんだよ。」
「....!」
驚いた、ユメがこのことを仕組んだのだとしたら。この線路のどこかにユメがいる。ゆっくりと"出会い"の駅から電車が走り出す。
「次は一体何を僕に見せたいというんだ?ユメ...」
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