3-dream?
「なんだこれ」
拾い上げたそれは、空洞になった木製の物体に金属の線が張られたものだった。
「ああそれ、ギターってやつだな、その弦を弾いて音を鳴らす楽器だ」
クダの説明を聞き、俺はふぅんと頷きながらその「ギター」とやらの音を鳴らしてみた。
「へぇ、綺麗な音だな」
「珍しいな、ここに集まるようなギターなのにしっかり調律されてるなんて」
クダが興味深そうに俺の手元の楽器を眺める。
そんな状態の良いものなのかと俺は感心しつつ辺りを見回した。
以前に見た「ドラム」という楽器のパーツもいくつか転がっている、まるで楽器の墓場のよう……いや、墓場というには綺麗なものばかり落ちているな……
「楽器そのものじゃなくて、誰かが忘れた「夢」がこの楽器たちなのかもな」
クダが珍しく詩的な言い回しをした。
まぁ、言われてみればそうなのかもしれないと思い、俺はそっとギターを元の場所に置いた。
「なんだよ、どうせ思い出したらこの谷のどこにあろうと消えるんだからいいだろ」
「そういう問題じゃない、こういうモノは他人が触れちゃいけない気がするだけだ」
「何もかも忘れてるくせに、そういう拘りだけは持ってるんだな」
そういう身だからこそだろと心の中で返しつつ、俺はあのソファへと戻ることにした。
クダは「もう少し散歩する」とだけ言い、どこかへ行ってしまった。
谷を風が吹き抜け、不気味な音を鳴らす、低く呻くような風の音が響く谷を、俺は1人歩いた。
* * * * *
いくつもの杭で貫かれ崖に縫い付けられた怪物を見て、オレは鼻を鳴らした。
「力の弱まった谷からこんな罰を受けるなんて、何をしたんだお前」
怪物は既に事切れていて、答えを返さない。
近頃、命あるものが中々訪れないこの谷に、こうした怪物や人間や動物、果ては神様と呼ばれるような存在までもがしばしば迷い込むようになっている。
その多くは向こうの世界で「思い出されて」帰っていったり、この谷の
怪物の周囲を見渡すと、原稿用紙らしきものが食い散らかされているのを見つけた。
「なるほど、忘れられた夢を食ったのか、そりゃこうなるよな」
怪物は光の粒子となって谷の上空へと舞い上がる、もう二度と誰かに思い出される事もなく、死という終わりを迎える事もなく、永遠に忘却の世界を彷徨うことになるのだろう。
オレは目を閉じてこの谷の規則の1つを暗唱した。
「この谷に訪れる失せ物を、正当な理由無くして傷つけてはならない」
失せ物の谷 ナトリカシオ @sugar_and_salt
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