第170話「プロレスは文学であるという話」

 さて、ちょっと全開で熱くなったので、プロレスがいかに文学的で、そして物語なのかということを説明したい。


 これは勿論プロレスがショーであり、ファイティングを舞台にする劇であることを理解したうえで読んでいただきたい。


 リングの上でレスラーは一切技の説明などはしない。が、観客に対してはすべての技に必然性があるという説得力を与えなければいけない義務がある。

 アニメのように技に解説が入ったりもしなければ数値が出るわけでもない。


 自らのパフォーマンスにすべてが求められている。


 例えば、コーナーポスト(リングのコーナーにあるポールのこと)に上がって飛び上がる攻撃をする場合、まあよく言われるのが「よけられるじゃん」である。


 だからこそ、この技の必然性のために、その前までにダメージを与え続けて弱って動けなくなるというストーリーを用意しなければいけない。


 あるいは、脚に対する関節技を十分に利かせるためにずっと足を攻撃するというストーリーを作ったりする。


 格闘技をやった人間からすれば、馬鹿らしい。痛めようが痛めまいが、関節技なんて言うのは決まったら終わりである。

 このストーリーを楽しめない人はプロレスを見てはいけない。

 物語を見てもいけない。


 序盤から後半の技の応酬で観客を興奮させるために綿密に物語を作っていく、ただ戦ってるわけではないのだ。序破急があったり起承転結だったりする。

 

 このストーリーを鍛え上げられた肉体という説得力で、観客に納得させるのがプロレスという文学である。

 しかし何も説得力は肉体だけで持たせるものでもない。


 1.5の棚橋VSクリスジェリコは、見事だった。

 クリスジェリコはもう50を過ぎる老体だ。

 正直体に説得力もない。

 技に切れがあるわけではない。


 しかし単純な技で、観客を沸かせることができる。

 緩急が見事なのか。


 さて、この湧かせるという行為は、自分の用意したリングの上でのストーリーに観客を引き込んだということに他ならない。

 そのストーリーのつくり方が、さすがWWEのトップスターだった男。

 見事すぎた。


 リング上での説得力があれば観客を納得させられるという話を書いた漫画がある。

 井上武彦の「リアル」13巻である。

 あそこにプロレスのすべてが書いてあるといってもいい。

 バスケ漫画なのに。

 13巻だけ読んでも面白いのでぜひ手に取っていただきたい。


 さてこう考えるとプロレスとは「劇」であると思うわけだが、レスラー以上にアドリブのきく役者はいないだろう。

 彼らは観客の空気を感じてその場で試合展開をうまく変える。


 レッスルマニア18でロックVSホーガンでは、ロックが本来ベビーフェイス側(観客に応援される)だったはずだが、当日の観客のわき方でその場でロックがヒールターン(悪役に変わる)というのはわりとプロレス界では有名だと思う。


 昨日の1.5のメインイベント「オカダVS内藤」でも、オカダが見事にヒールターンした瞬間があった。あれを見た時にやっぱオカダは大物だなあと再認識した。

 予定調和だったかもしれないが、おそらく観客の反応を見たオカダカズチカのアドリブだったと思う。(後半で、急に内藤の足を徹底的に攻めだシーンのことです)

 と同時にあの瞬間、往年のプロレスファンはこりゃあ内藤が勝つわと思ったはずである。


 そんな結果が読める戦いを見ていて楽しいのかと思う方がいるのかもしれない。


 楽しいよ。

 面白い小説は結果を知っていたって面白い。


 プロレスは上質なストーリー。

 

 さあそんなあなたもどうですか?プロレスの世界へ



 って俺はこんな見方でプロレスを楽しんでるのですが、昨日明らかに俺よりは10歳くらい年上と思われる、ベテランのプロレスファンが、本当に一喜一憂して、ヒールレスラーのダーティワークに対してガチギレしてるのを見て、うらやましいなあと思いました。

 ダーティワークをみて、うわあ、うめぇわ仕事してるわぁと評価するのは何か違うのかもしれない。

 いろんな楽しみ方がある。

 それがプロレス。






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