さやかと初恋 Ⅲ



『さやかちゃん、はいりまーす』


 元気な声が響き、ガチャリとさやかが入ってきた。

 車の中とは違い、自然な笑顔で挨拶する。


「さやかちゃ〜ん、ここら辺でOK?」


「っと…もうちょっと上で…大丈夫ですか?」


「眩しくない〜?」


「はい!大丈夫です!」


 順調に撮影が進む。

 パシャッパシャッとシャッターが切られるたび、微妙にポーズを変えてゆく。


 3年。さやかがこの仕事に就いて3年がたった。


『撮られるのは好きかい?』


   当時のさやかは、友達の影響で、写真にハマっていた。自分の好きなものを自分の思い描いた構図で撮る。自分の思い通りにいかなくて、モヤモヤした時もあったけど、これだって思う1枚が撮れた時は本当に嬉しかった。


   その日も、カメラを手にちょっと冒険して、隣町まで来ていた。

     TVで見た猫がとても可愛くて、どこで撮ったんだろうと調べてみるとその町で、飛び出さずにはいられなかったのだ。


   猫を探して20分くらい経った頃。

 不意に声をかけられたのだ。


「撮られる…ですか?」


「そうだよ」


   一瞬、怪しいと思った。

 でも、その人の熱心な話に押され首を縦に振った。


   そこからはさやか自身でもびっくりするくらい順調に、《モデル》と云う階段を駆け上がっていった。


   来週には、世界でも3本の指に入る位のショーも控えてた。


   そんな成長したさやかを一番近くで見て欲しかった人が、もうここの世界にはいない。

   少し不安もあるけど、ワクワクもしている。そんな感情に自分でも驚いた。




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