第112話 影猫作戦
「す、すまん……」
「……、……」
コール将軍は、ハッとした表情で一同を見回した。
そうだね……。
まずは、その隙だらけの顔を何とかしないとね。
「じ、ジーン、何がおかしい?」
「あ、いえ……。将軍のお気持ちは分かります。私も知ったときは大声を上げそうになりましたし」
「い、いや……。ちょっと動揺しただけだ。こ、コホン」
「……、……」
悪いよ、ジーン。
そんなに笑っちゃ。
ほら、ヘレンなんか看てごらんよ。
全然何事もなかったような顔でいるじゃないか。
だけど、内心では笑ってるんだろうなあ。
まあ、コール将軍には悪いけど、俺も笑わせてもらったよ。
「あの……、コール将軍」
「な、何だ、ヘレン?」
「これで驚いていると更に驚かないといけないのですが……」
「な、何っ! まだ何かあるのか?」
「はい……。実は、コロは人間の言葉が分かるのです」
「……っ! まさか……」
「間違いございません。緊縛呪を撃ってとお願いすればちゃんと撃ちますし、魔術を封じる小手を出して欲しいと言えば、すぐにアイラに小手を装着させます」
「ま、待てっ! 魔術を封じる小手だと? そんな情報は聞いておらんぞっ!」
「はい……。これも極秘となっておりますので。親衛隊一番隊の方々はコロが魔術を封じているのを目撃したはずなのですが、多分、事情を理解出来なかったことでしょう」
「親衛隊一番隊が目撃しただと? では、アリストスが魔術を使ったのか?」
「はい……」
「まさか、アリストスが……」
コール将軍はまたも絶句した。
「そ、そうか……、そう言うことだったのか。つまり、アリストスは魔術を使って何らかの謀反を起こそうとしたのだな? それでゴードン警備総長とおまえ達に捕らえられた」
「はい……」
「し、信じられん……、あのアリストスが……」
「アリストスは裏切りのオーブの使い手でございました」
「う、裏切りのオーブ?」
「人を操る魔術を発動するオーブです」
「……、……」
「私達は明白な証拠のもと、コロとアイラの活躍によって彼を捕らえました」
ヘレンは動揺するコール将軍を真っ直ぐ見つめ、とつとつと語り続ける。
「コール将軍。ここまでお話ししたのにはわけがあります」
「わけ?」
「はい、ギュール共和国のダーマー公は、今、その裏切りのオーブに操られている可能性があるからです」
「な、何だとっ!」
「あくまでも可能性です。ただ、マリーさんによりますと、今度の兵器の企てをダーマー公が自力で考えたとは思えないのだと……」
「な、何故だ? ダーマー公は緻密な采配を振る智将ではないのか?」
「それが……。マリーさんに言わせると、直情的で短絡的なタチだとか」
「……、……」
「だとすると、ダーマー公は何者かに操られているとしか思えないのでございます」
「……、……」
「しかし、裏切りのオーブは現在、王宮で厳重に保管されています。ですので、裏切りのオーブではないのかも知れません。ご存知の通り、オーブがあってはじめて魔術は発動いたしますので」
「……、……」
「ですが、未知のオーブがまだある以上、ダーマー公が操られている可能性については否定しきれないのでございます。ですから、暗黒オーブの秘密を打ち明けたからには、この事実も知っておいていただきたかったのです」
「そうか……。コロがそのダーマー公を操っている者に狙われる恐れがあるからか」
「はい……」
「暗黒オーブが大っぴらにその力を発揮したら、確かに使い手の情報も公になる。つまり、そのときの備えとして猫を用意しろと言うのか」
「ご明察でございます」
「むう……」
やはりそうか。
そう言えばヘレンは情報屋に言っていたものな。
近い内に俺が暗黒オーブの使い手だと言うことを公表すると……。
だけど、公表すれば当然俺が狙われる可能性はある。
それを封じるために虎猫を集めるのか。
どれが俺だか分からなくするために……。
「影武者か……。いや、影猫とでも言うかな?」
「そうでございますね。ただ、影猫を一匹や二匹用意するのでは、その猫達が可哀想でございます。コロと違って事情が分からないのですから、狙われたらすぐに殺されてしまうでしょう」
「うむ……」
「ですので、沢山の猫を用意し、どれがコロか特定出来なくするのです。これなら闇雲に猫を襲うようなこともしないでしょう。刺客が放たれるにしても、刺客もそれ相応のリスクを負っていますので、特定出来ない内はある程度安全が確保されると思われます」
「なるほど……。偽物の猫と命を引き替えにするのは、刺客も命が惜しいと言うことか」
「その通りでございます」
「分かった……。虎猫の件、至急、手配しよう。何匹くらい必要だ?」
「そうでございますね、ひとまず20匹ほどお願いします」
「だが、急に虎猫を集め出したら怪しまれないか? 逆に……」
「うふふ……。コール将軍はすでに知ってらっしゃいますからそうお思いになられるのです」
「む、むう……」
「ですが、もしご心配なら、ローラや水の魔女達が慰めとして猫を欲していると説明なさったらいかがでしょうか? 実際にローラはコロを気に入っているようですから、まったくの偽りではございませんし」
「うむ……。委細承知した、任せておけ」
「ありがとうございます。お力添え、頼もしく思っております」
コール将軍は、また俺をしげしげと見つめた。
そして、低く一言、
「そうか……。兵器に対応するためか……」
と呟いた。
「ヘレンさん、良かったんですか? コール将軍に言ってしまって……」
「ええ……、大丈夫です。アイラが言った通り、コール将軍は信用できるお方ですから」
「それは私も存じてますが、王命でございますからね」
「うふふ……。もうすぐ公になることです。この情報でコール将軍のような頼もしい方が融通を利かせてくれるのなら、こちらとしては願ったり適ったりですわ、ジーンさん」
そう言ってヘレンはジーンに笑いかける。
おい、ジーン……。
コール将軍が行っちゃったからって、すかさずそれを聞くのかい?
「あたしが焚きつけたみたいになっちまったからちょっとどうかと思っていたんだけど、ヘレンがそう言うなら大丈夫だな」
「あ……、アイラが言わなくても、へ……、ヘレンは最初から、こ……、コール将軍には話すつもりだったのではない?」
「そうなのか? エイミア……、何でそんなことが分かるんだ?」
「へ……、ヘレンがローレン将軍を呼び止めたときに、な……、何か考えがあるような気がしていたの」
エイミアはそう言うとヘレンの方を向いて、確認するように小首を傾げた。
「それは二人のご想像にお任せするわ。私がどういうつもりでも、コール将軍がご助力下さることに変わりはないから」
「……、……」
エイミアとアイラは、それを聞いて顔を見合わせた。
そして、ぷっと吹き出すと、二人して笑い合うのであった。
まあ、間違いなく、ヘレンはここまで計算尽くだったはずだよ。
それを、とぼけちゃってさ。
もう、俺だってそのくらいのことは分かるんだよ、ヘレン。
だけど、猫が増えれば、少しは俺を解放してくれるかな、ローラは?
ちょっと、四六時中ローラと一緒にいると、窮屈で仕方がないんだよなあ……。
エサもローラと同じパン粥しかもらえないし。
そろそろまた肉が食べたいよ。
生ハムとまでは言わないけど、美味しい肉がさ……。
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