第85話 封印を解く鍵
「ジェラルドさんは、色々試してみたらしいのです」
「……、……」
「ですが、聖剣が封印されている塔の最上階で、もう、目の前に聖剣が見えるところまでは行けるのですが、それ以上進もうとすると、身体が動かなくなっちまう……」
「父さんでもか?」
「誰が行ってもダメらしいんですね」
「……、……」
「それで、ジェラルドさんは色々と文献を読みあさって研究したんです」
「……、……」
「そうしたら、封印を解くには、オーブを使う者がいないとダメだと言うことが分かって……」
「だったら、いくらだっているだろう? 炎帝でも、ジンでも、無理矢理連れて行けば良いだけじゃないか。バロールなんてどうだい? 今、牢に入っているから、特別に出してやってさ」
「それがダメなんです。ただ単に使えるだけの人だと、封印の塔にさえ入れない。特殊な結界がなされていて、オーブを使う人の気が違ってしまうんです」
「じゃ、じゃあ、お手上げじゃないかっ!」
「いえ……。そこで、必要なのが、オーブが光るほどの使い手ってことなんですよ」
「つ、つまり、コロか? コロなら、聖剣を取ってこれるってことなのか?」
「そういうことですね。へへっ……、どうです? おいら、ちゃんと報酬に見合った情報を出したでしょ?」
「……、……」
あ、アイラ……、怖いからそんなに見つめないでくれよ。
今、俺を取って喰ったら、聖剣の封印が解けないらしいぞ。
だけど、もし、それが本当なら、良かったな。
親子三代、ずっと聖剣のために人生を狂わせられっぱなしだったんだからさ。
うん、俺も協力するよ。
アイラには、何度も助けてもらった。
たまには、アイラが助けてもらったって、バチは当らない。
「そうか……。それで、父さんは何度かオーブの所有者のところに行って、オーブが光らないか確認していたんだな」
「その通りです。ですが、オーブが光るなんてことは、滅多にないんですよ。そこへ、ヘレンさんが暗黒オーブを使うと言う情報が入った……」
「暗黒オーブが光るかどうか確かめるために、あたし達に会いに来ると言うことか……」
「コロさんが持てば暗黒オーブは、ほれ、この通り……。じゃあ、封印だって解けるって話しじゃないですか?」
情報屋は、得意そうに鼻を鳴らした。
アイラは、俺の方に手を伸ばして、暗黒オーブに触っている。
「あ……、アイラ、よ……、良かったわね」
「う、うん……」
「す……、スノウランドは遠いけど、あ……、アイラとコロならきっと大丈夫よ」
「……、……」
「わ……、私、こ……、コロが風邪をひかないように、い……、いっぱいコロ用の防寒着を作るわ」
「……、……」
エイミアが、そう言いながらアイラの肩をさする。
珍しく言葉に詰まったアイラが、エイミアの言葉に、一つ一つ深くうなずく。
……って、エイミアは来てくれないのかな?
俺、アイラと二人だけで旅をするとか、超不安なんだけど……。
大体、エサだって、決まった時間にもらえるかどうか分からないし。
それに、俺、やっぱ、エイミアに頬ずりしてもらえないと、寂しいよ。
アイラのゴツゴツした手で抱かれのも、たまには良いけど、しょっちゅうはどうもなあ……。
「さて……、アイラ、これであなたの用は済んだわね」
「ああ……。何か、あたしの用のために来たみたいになっちまってすまん」
「うふふ……。こうなることは分かっていたわ。言ったでしょう、凄腕の情報屋さんだ……、って」
「……、……」
そう言うと、ヘレンは、アイラにニッコリ笑いかけた。
そして、情報屋に向き直ると、
「では、本題に入りましょう。まずは、報酬を渡すわね」
と、表情を引き締めた。
「う、裏切りのオーブですか?」
「そう……。知ってらっしゃいます?」
「いや、そんなの文献にも載ってないと思うんですが……」
「でも、オーブの研究家、ニックさんは知っておられたわ」
「おいら、オーブが専門じゃないし……。当代一のオーブ研究家と較べられてもなあ」
「……、……」
先ほどまでの得意顔は何処へやら……。
情報屋は、またも驚きの表情になっている。
「では、その未知のオーブが存在したと言うことで、報酬とさせてもらって良いかしら?」
「うっ……。そりゃあないよ、ヘレンさん。確かに、水の魔女のネタはしょぼいかもしれないけど、それじゃあおいら生殺しだよ」
「うふふ……、では、もう一つだけ……。コロとアイラは、雷光レオナルド将軍と、その裏切りのオーブを使う者と戦って勝っているわ」
「な、何だってっ?」
「どう、これでご満足かしら……?」
「うっ……。おいら、全然裏切りのオーブに関して情報を持ってないから、凄いネタなのは分かるんだけど、それがどういう位置付けか分からないんだよなあ……」
「では、この先は、また近い内にと言うことでどうでしょう? 私、もう一つ知りたいことがあるんですが、それについてはまだ推論の域を出ていないので……」
「仕方ないですね。ヘレンさんの気が向くのを待ちますよ。だけど、おいらもその情報の全容が知りたいんです。だから、しばらくはマルタ港周辺にいますので、用が出来たらすぐに声をかけてもらえますか?」
「こちらこそ、そうしていただけると助かるわ」
情報屋は、まだ未練たらたらであったが、引き下がった。
なるほど、いくら報酬が欲しくても、情報に見合わないと受け取らないのか。
ヘレンが信用するわけだ。
この情報屋、ふざけた奴に見えるけど、意外と真面目なタチらしい。
「それにしても、バロール、雷光、裏切りのオーブ、炎帝、水の魔女……。あんた達、一体、何人オーブの所有者を倒せば気が済むんだ?」
「……、……」
「まあ、暗黒オーブと伝説の使い手、当代きっての武闘家、国の浮沈を左右する薬師、天才的な策士ぶりを誇る占い師……、これだけ揃えば当たり前か」
「……、……」
「こんなパーティ、作ろうと思ったって出来るわけがないよ。本当に、天の配剤って、こういうのを言うんだろうな」
「情報屋さん……。また、脱線なさってますわよ」
「あっ、いけね。おいらの悪いクセが出ちまいましたか。分かりました、情報の方ですね」
「うふふ……」
そうそう……。
本題は、水の魔女の正体と、何処にいるかなんだからさ。
早く、教えておくれよ。
「水の魔女は、ヘレンさんの推察通り、マリー以外に十人います」
「皆さん、女性だそうですね」
「えっ? どうしてそれを……。おいら、自信なくなってきたよ。だって、ヘレンさん、何でも知ってるんだもの……」
「うふふ……。マリーさんの故郷に寄ってきたの。そこに、マリーさんから手紙が届いていたってだけよ」
「じゃあ、あとは何が知りたいんで……? 居場所だけですか?」
「そう……、マルタ港の何処にいるかが知りたいの。近くだと言うことは分かっているのだけれど……」
情報屋は、落胆しきった顔をどうにか引き締め、顔を上げた。
そして、
「そんなの、現地に行けば誰でも調べられるんだよな……」
と呟くのであった。
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