第84話 聖剣の行方
「凄え報酬を受けとっちまったよ……」
「うふふ……」
情報屋は、呆然と呟く。
ただ、この情報屋が、単に驚いているだけではないのは、その目を見れば分かる。
目が小刻みに動いているのは、頭をフル回転して何事か考えているのだろう。
「そっか……。おいらにも、ようやくヘレンさんが何をしたいのか分かってきたよ」
「……、……」
「あんた、戦争を止めようとしてるんだね? だから、コロさんのことも公表するんだ」
「……、……」
「なるほど……、そう考えると、全部筋道に乗っているね。パルス自治領に行って炎帝と勝負する形に持ち込んだのも、これから水の魔女を捕まえようとするのも……」
「……、……」
「それにしても、あんた達、凄過ぎるよっ! オーブの所有者なんて、普通、一人だって倒せやしないのに、バロールに始まって、炎帝、水の魔女と、今度で三件目じゃないか」
「うふふ……。情報屋さん、そのことが水の魔女の件の報酬になりますので、話しはその辺でお止めになっていただけます?」
「えっ? 報酬って、それですかい? もしかして、またおいらが知らないことだったりするんですか?」
「そうじゃなかったら、報酬にならないのではなくて……?」
ヘレンは、情報屋がまた驚いているのを、楽しそうに眺めている。
「じゃ、じゃあ……、あとで教えてもらえるんですね? おっ、そうだっ! おいら、うっかりしていたね。まだ、報酬だけもらって情報を言うのを忘れていた」
「アイラが早く聞きたいって顔をしていますので、そろそろ、情報の方をお願いいたしますね」
「了解しやした。アイラさん……、しっかり聞いて下さいよ。多分、あんたの聞きたいこと、知りたいことは全部網羅されているはずですから」
「そんなに風呂敷を拡げて大丈夫ですの?」
「全然、大丈夫ですっ! 何せ、おいら、今もらった報酬で、聖剣を取り戻す方法まで分かっちゃったんですから」
「えっ? そ、それ、本当なんですか?」
「ええ……、間違いないです。だから、ジェラルドさんは近い内にあんた達に会いに来ますぜ……、こちらから会いに行かなくてもね」
「……、……」
おっ、おい……。
何か、ようやく凄腕の情報屋っぽくなってきたな。
だって、聖剣のことって、もう、何十年も解決出来なかったことなんだろう?
そりゃあ、ジェラルドが一生懸命探ったから情報が発覚したんだろうけど、それをいち早く知っているって、やっぱそれはそれなりに凄いよな。
電話もスマホもない世界でこれなんだから、よほど広い人脈を持っているんだろうな。
「結論から言いますね。ジェラルドさんは、今、マルタ港に向かっています」
「えっ? 父さんがマルタ港に?」
「ええ……。先ほども言った通り、アイラさん達に会いにです」
「……、……」
「もっと正確に言うと、コロさんに会いに来るんですよ」
「ど、どうしてコロに?」
「ま、まあ、お待ち下さい。今、事情を説明しますから……」
「……、……」
アイラは、興奮のあまり、情報屋に掴みかかった。
ただ、情報屋が落ち着いて諭すと、ハッとしたのか、元の位置に座り直した。
「さすがでやんすね。舟の上で突然立ち上がったのに、湖上には波一つ立ってない……」
「そんなことはどうでも良い……。早く、事情とやらを話せよ」
「そ、そんなに睨まないで下さいよ。アイラさんは、ただでさえ恐ろしい武闘家なんですから……」
「……、……」
情報屋は、これ以上話しを引き延ばすと、本当に身に危険が及ぶと思ったのだろう。
一つ、咳払いをすると、おもむろに話し始めた。
「アイラさん……、スノウランドって知ってますか?」
「スノウランドって、あの遥か北にある国のことか?」
「そうです、一年中、雪に閉ざされた、山間の国のことです」
「……、……」
「そのスノウランドに、封印の塔ってのがあるんですよ」
「……、……」
「現地の人も、その封印の塔が何のためにあるのか分からないですし、誰が管理しているわけでもないんですが、とにかく、山間にポコッと建ってるんです」
「……、……」
「数十年前に、その封印の塔を訪れた男がいたんだそうです。そいつは、柄の部分に石の球が付いた剣を持っていたそうで……」
「な、何だって! そ、それっ、本当なのか?」
「はい……。この事実を突き止めるのに、ジェラルドさんはここ五年の間、ずっとスノウランドとこっちを行き来していたんですよ」
「と、父さんが……」
情報屋は、ようやくいつものペースに戻ってきたのか、アイラが驚くのを見て満足そうにうなずいた。
……って言うか、この情報屋って、もしかして人が驚いているのを見るのが楽しくてやってたりしないか?
「だけど、父さんがそんな話しを聞いたのなら、どうして封印の塔に行って聖剣を取り戻して来ないんだ?」
「ご本人も、そうするつもりだったようです。だから、必死にその塔を捜したとか……」
「……、……」
「だけど、出来なかったんですよ、有り体に言えば」
「出来なかった?」
「そうなんです。聖剣は封印されちまっていて、誰も持ち出せなかったらしいんです」
「ふ、封印……?」
「ええ……。その塔は、その名の通り、オーブを封印するための塔だったんです」
「……、……」
一瞬、高揚したアイラの表情が、すぐにがっくりとした落胆の色に変わった。
だが、情報屋は、それを見ても自信の表情を崩してはいない。
「アイラさん……。この情報だけだったら、おいら、報酬をもらいすぎちまってる。だから、これには続きがあるんですが、聞きますかね?」
「続き……? 封印されてるのなら、父さんは帰ってくるだろうけど、聖剣は失われたままなんだろう? まあ、父さんが帰ってくるのは嬉しいけど、あたしは父さんがどれだけ聖剣に拘っていたかを知っているからさ。無理でした……、では納まらないんだよ」
「いや……、それが……。封印を解除する方法があると言ったらどうします?」
「何、言ってやがる。そんな方法があるなら、父さんがとっくにやっているに決まってるよ」
「へへっ……。それが、さっきもらった報酬で、封印の解除が可能だと言うことが分かったんですがね?」
「ど、どういうことだよっ! じゃ、じゃあ……、聖剣の封印が解けるってことなのかっ?」
「ええ……。おいらはそう言っています。……って、そ、その手を放して下さいよ。すげー力だな……」
「す、すまん……。つい、興奮しちまって……」
アイラはそう言うと、再度掴みかかった情報屋の襟元を放し、すぐに謝った。
「テイカー閣下も敵わなかったバカ力なんだから、気をつけなさいよ……、アイラ」
ヘレンは、面白そうにアイラを揶揄する。
「へへっ……。ヘレンさん、そのご様子だと、どうも話しの筋に見当が付いたようですね」
「ええ……、分かったわ。でも、せっかくですから、情報屋さんから話してあげて下さい。その方がアイラもスッキリすると思うので……」
情報屋とヘレンは、目を合わせてうなずき合った。
もしかして、この二人って似たもの同士なのかな?
鋭い洞察力と幅広い知識……。
立場は違うけどさ。
「わ、悪かった……。もう、落ち着いて聞くから、話しを続けてくれ」
「へへっ……。アイラさん、良いってことです。そんなに興奮して聞いてくれるのって、情報屋冥利に尽きるってもんですよ」
「……、……」
「ヘレンさんみたいに、こっちの上手を行く人は苦手でしてね……。まあ、そんな人、滅多にいやしないんですが……」
「情報屋……。続けろと言ったんだぞ……、あたしは」
「す、すいませんっ! だから、そんなに睨まないで下さいよ……」
情報屋は、ブルブルっと身震いすると、下をペロッと出した。
アイラじゃないけど、勿体ぶるなよな……。
俺も、早く聞きたくて仕方がないんだからさ。
確かに凄腕に値する情報だけど、この脱線癖はどうにからないのかな、ヘレン?
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