20210605_影の中から

 暑くなるにつれて足下の陰影が濃くなる。誰もいない昼間の公園でしゃがみ込んで、自分の影をノックした。

 とんとん……もう一度、とん。

「はーい、呼んだかしら?」

 影から返ってくるのは女性の声。

「暑いね」

「影の中は涼しくてよ。こちらへいらっしゃいな」

 彼女はいつも、私を影の中へと引きずり込もうとする。

「まだ、することがあるから行かない」

「気のせいではなくて?」

「それでも、ね」

 私はまだ一人で頑張りたい。例え学校に行く勇気が無くても、家族に無視されていても、友達の一人もいないかもしれなくても、まだ。

「可哀想な子。自分の足が既に地に着いていないことすら認められないだなんて」

 彼女の声が哀れみにも冷笑にも聞こえた。

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