20201003_選_どっちっち

「どっちっち!」

 幼い娘が小さな握りこぶしを二つこちらに差し出してきた。片方の手からはぬいぐるみの手足がはみ出している。

「こっちかな?」

 はみ出しているほうを指すとパッと笑顔になってあたり! と手を開きぬいぐるみを見せてくれた。

「かあしゃん、ててにぎって?」

 そう言って娘はなにも持っていない私の両手を握らせる。

「どっちっち?」

 空の二つの握りこぶしを前に彼女は悩んでいる。娘にはどんな素敵なものが隠されているように見えるのか。

「こっち!」

 娘が指したほうを開けるとなにも入っていないけど、娘は目を輝かせて

「たっち!」

 と手を合わせた。それから反対の手も開かせてタッチする。その笑顔に胸が暖かくなる。

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