37 these hard time
最近小沢によくなついている陽佳(あきよし)が、今日も2人で連れ立って購買へと向かった。なっちゃんも行く? と訊ねてきたが、俺は首を横に振った。欲しいものは、と続けて聞かれたので、お茶、と答える。
市谷(いちがや)は、昼休みが始まるとともに放送で呼び出しをかけられて職員室だ。素行や成績の心配のない市谷だから、きっと、また面倒ごとでも頼まれているのだろう。
と、いうわけで、俺は広瀬と2人で、体育館へと続く渡り廊下から土足でぐるりと回り込むようにしてたどりつく、校舎裏の非常階段にいた。
あまり人も来ないし、大きな木があって涼しい、とこの場所を発見したのはもちろん小沢で、時々サボりに来ているらしく、まだ一度も見つかったことがないと笑っていた。普段は利用しない非常階段は、確かにひっそりしている。
いつもは生徒会にこき使われているらしい広瀬が、今日は珍しく陽佳と一緒にやってきた。
お邪魔します、と頭を下げたその表情は少し緊張していて、何度か一緒に食事をしているのに、まだ慣れていないらしい。俺はあまり口数が多い方ではないし、見た目がきついとよく言われる。さっきから広瀬が俺の出方を窺って固くなっているのには気付いていた。
そう言えば、2人きりになるのは、初めてのことだ。
「広瀬──」
「は、はい」
「あまり緊張しないでくれ。──こっちが困る」
広瀬は慌ててぶんぶん首を振ると、
「すみません。──いつも、沢村に話聞いてるので、すごく身近な感じだったんですけど……やっぱり、緊張しちゃいます」
「何話してるのか、聞くのが怖い」
俺が苦笑すると、広瀬も表情を緩めた。
「柴崎さんがどれだけかっこよくてかわいいか、ばっかりですね」
「──あの馬鹿」
俺は思わず頭を抱え込む。
陽佳が俺を自慢してくれるのは嬉しい。だからといって誰彼構わずに吹聴して歩くのはいかがなものかと思う。市谷や小沢相手ならまだしも、事情を知らない広瀬に──
そう考えて、俺ははたと、思い直した。
「……もしかして、俺と陽佳のこと、知ってるのか?」
広瀬はきょとんとした。やっぱり分かっていないのか、と思ったら、
「付き合ってること、ですか?」
などと平然と訊ねてきた。
「知っていたのか」
「沢村から聞きました。──でも、軽々しくとかじゃなくて、俺が先にカミングアウトしたので、沢村も自分の秘密を打ち明けてくれたっていうか」
「カミングアウトって」
「俺、ゲイなんですよね」
ずいぶんと容易く、さらりと口にした。
「女性には全く興味が持てません。──沢村は、別に俺と同じだと言ったわけじゃないですから。念のため」
「そうか」
「──そうか、だけですか」
「そうだな」
何だか、俺と陽佳の関係を伝えたときの小沢との会話に似ているな、と俺は思った。
あの時小沢も、ずいぶん簡単に、あっさりと、分かったとうなずいたのだ。
「沢村も、柴崎さんも、簡単に受け入れてくれますね」
「小沢なんかはもっと順応が早い。──市谷は……まあ、あれは人外だから、人の性癖には興味ないしな」
広瀬が一瞬ぽかんとして、それから笑いだす。何だか泣き笑いみたいな顔をしていたので、少し心配になった。
「──俺、中学の時、ゲイバレして、ものすごくひどい目にあったんですよ」
「そうなのか」
「柴崎さんと話してたら、あの頃の辛さが馬鹿みたいに思えてきました」
広瀬はまだ笑っている。今度は妙に開き直ったように、おかしそうに。
「元気になったなら、いい」
「はい」
広瀬は手にぶら下げたレジ袋を漁った。ちらりと覗き込むと、お菓子のパッケージが見えた。陽佳からも聞いていたが、何度か顔を合わせているうちに、広瀬がかなりの甘いもの好きであることを知った。市谷は昼飯によく甘い菓子パンを食べているが、広瀬はその上をいく。大きな弁当を食べたあとにデザート代わりに甘いお菓子を次々に食べる。甘いものがあまり得意ではない小沢が、思わず目をそらしてうええ、とつぶやくくらいに。
「これ、どうぞ」
広瀬が差し出したのはキャンディだった。紫色の果実が、ミルククラウンの中に描かれたパッケージのそれは、ブルベリーミルク味。俺がブルーベリー好きだと、陽佳にでも聞いたのだろう。
「ありがとう」
「おいしいですよ」
「ん、あとで食べる」
「──人間扱いしてもらえなかったので」
ゲイだと告白したときと同じくらいさらりと、広瀬が言った。
「もしかしたら俺は本当に、人間じゃないのかなって思ってました」
どんな辛い目に合ったのか、聞くことはできなかった。
「沢村と友達になれて、良かったです」
「──ん」
俺はうなずく。いつも感じのいい笑顔を浮かべているこの後輩に、思い出したくないくらいの壮絶な過去があったのだと思うだけで、複雑な気持ちになった。俺が知る広瀬は、陽佳と一緒に楽しそうに笑っていて、市谷を尊敬するように慕って、俺や小沢とも屈託なく話す。
2人きりになって、その表情が少し硬かったのは緊張だと広瀬は言ったが、これが俺ではなく市谷や小沢ならば、そんなに硬くならずにいられたに違いない。
「なっちゃーん」
陽佳の大声が響いて、俺と広瀬は声の方を見た。陽佳が両手をぶんぶん振りながらこっちにやってくる。その後ろを小沢がやれやれという顔で歩いていた。
非常階段を半階分だけ上って、踊り場に座り込み、小沢は柵に背を預けた。陽佳も真似して隣に座る。俺と広瀬は二人と向き合うように階段に座った。
「えーと、なっちゃんのお茶買ってきたよ。それから、ブルーベリーヨーグルト」
陽佳がペットボトルのお茶と紙パックのヨーグルトを差し出した。俺はそれを受け取り、ありがとうと言った。小沢が缶コーヒーを開け、コロッケパンをかじる。俺たち3人は弁当だ。陽佳の弁当がでかいのはいつものことだが、それに負けず劣らずの大きさの弁当を食べる、俺と同じくらいの体形である小柄な広瀬の姿は、いつ見ても違和感だ。
小沢の足元には、紙パックのカフェオレとマーラーカオとピーナツバターサンド。甘いものばかりだな、と思っていたら、それは市谷の分だと言う。
「あいつ、生徒会引退したのに、まだ頼られてるんだってな」
「はい。市谷先輩は、元会長よりも頼りにされてましたから」
現役生徒会執行部の広瀬が、力強く答える。実は広瀬を生徒会にスカウトしたのも市谷だ。今や広瀬は市谷のあとを継ぐ優秀な役員である。
「あー……会長に選ばれるのは面倒だから、お飾りを立てる、とか言ってたよな」
「言ってた」
小沢の言葉に、俺はうなずく。
結果、見た目も華やかで人気もある男子生徒が知らず知らずのうちに会長にされ、市谷はその難を逃れたのである。──逃れた、というよりは、計算ずくだったのだろうが。
「市谷先輩、中学のときも生徒会長だったもんね」
「ああ、さすがに選挙で当選じゃ、逃げられないからな」
「いい会長だったよね。優しくて、頼りになって、慕われてて。──ますますあの本性に驚くよ」
陽佳ががくんと肩を落とす。
「今だって、とっても優しくて、頼りになって、慕われてますよ」
市谷の本性を知る4人目となった広瀬は、それでもその尊敬を翻さない。
「面倒見はいいからな」
「面倒、みてもらってます」
広瀬が笑う。
「ま、出来のいい後輩は、かわいいだろ、あいつも」
小沢の言葉にかぶさるように、階段の下から声がした。
「出来の悪い学友も、かわいがってるつもりだが」
階段を上ってきた市谷が、にやりと笑った。小沢が慌てて目をそらす。
「本人のいないところで悪口とは、いい度胸だ」
「悪口じゃねーよ」
市谷は愉快そうな笑顔を見せて踊り場まで上がってきて、陽佳とは反対側の、小沢の隣に座った。小沢が並べていたパンとカフェオレを押しやる。
「悪いな。金はあとで払う」
「おー」
小沢がブラックコーヒーを、市谷が甘いカフェオレを、並んで飲んでいる。対照的なこの2人の組み合わせが、時々とても微笑ましい。
「ところで」
市谷が、マーラーカオをちぎって言った。
「あさってから夏休みだな」
「ん。──それが?」
「小沢、陽佳、課題を手助けてやる。うちに泊まりに来い」
「────」
陽佳と小沢が顔を見合わせ、それから何やら微妙な顔をした。市谷が厚意だけでそんなことを言い出すはずがないと分かっているので、その表情は怪しげなものを見るようだ。
「裏が、あるな」
「ありますね」
2人がうなずき合う。
「ないわけないだろう。馬鹿か」
市谷にばっさりと切り捨てられ、2人はうっとひるんだ。
「──その見た目を活用させろ。恩を売っておきたい相手がいる」
なるほど、と俺は思った。市谷の実家は会社を経営している。創業100年を超えるアパレルメーカー。元々は着物を中心とした和装が本業だが、近年は洋装の方も手掛けている。
夏、で、和装。そして陽佳と小沢の見た目、とくれば──
まあ、想像はつく。恩を売っておきたい相手、というのは、どうやら身内らしい。──市谷らしくて、俺は苦笑した。
「その代わり、夏休みと補講の課題は完璧だ。どうだ?」
市谷の挑戦的な笑みに、陽佳と小沢がうなずくしかなかったのは、仕方ないことだろう。
俺は、さっき広瀬からもらったキャンディを口に放り込み、その甘さに笑みを浮かべた。隣に座っていた広瀬がそれに気づいて、嬉しそうに笑った。
「俺、何されちゃうのかな、なっちゃん」
「何が?」
ベッドに腰掛けてあずきアイスを食べようとしていた俺の隣で、陽佳がうーん、と頭を抱えている。
「市谷先輩が怖い」
「ああ──別にたいしたことじゃないだろう」
かちこちに固まったあずきアイスは、硬くてかじれない。かといってぺろりと舐めたら、舌が貼りついてしまいそうだ。どうしたものかと首をひねっていると、陽佳が身を屈めるようにしてぱくんとそのアイスにかじりついた。
てっぺんがぽくんと折れ、陽佳が冷たいーとつぶやく。
俺は欠けた部分を舐め、角を溶かす作戦に出た。てっぺんに気を取られていたら、下の方から溶けてきて、水滴になって落ちそうになるそれを、慌てて舐める。
「なっちゃん、あずきアイス食べるの下手だよね」
「うるさい」
仕方ないので溶けた下の部分からかじっていく。首を傾げるようにして食べていたら、陽佳の顔が近づいてきて、反対側を食べられた。
「垂れちゃうよ」
「ん」
なるべく急いで食べようとするけれど、一度溶け始めたアイスは、じわりとどの角も無くしていく。俺が必死で食べるのを、陽佳が楽しそうに見ている。
ようやく食べ終えて、木のスティックをゴミ箱に入れると、陽佳が俺の手を取ってぺろりと舐めた。
「甘い」
「手、洗ってくる」
「行っちゃ駄目」
アイスの雫が垂れた場所を舐めながら、陽佳が俺を見て笑った。最近、陽佳がどこかからかうような目をして、俺の反応を見ていることがある。多分、俺が戸惑って赤くなるところを見たくてわざとそうしているのだろうということは分かっていた。
いいよ。お前の望むようにしてくれ。
だから俺は、それを拒否しない。お前がしたいと思うなら、いくらでもそれに乗せられてやる。
俺の知らないお前の顔を見られるなら、それも悪くない。
「甘いなっちゃんをー、頭からかじって食べちゃいたいねー」
「別に俺は甘くない」
陽佳があはは、と笑った。
「確かにー。──そういえば、広瀬は今日も甘いお菓子ばっかり食べてたね。多分全身甘いよね、あれ」
大きなお弁当を平らげ、レジ袋からお菓子を取り出してかじりながら、広瀬は俺たちの話を聞いていた。クリームサンドのビスケット。フルーツ果汁の入ったグミ。色とりどりのマーブルチョコ。あんこたっぷりの薄皮饅頭。
「小沢がうなってたな」
マーブルチョコを手のひらにざらりと広げられ、困ったように1粒2粒口に入れながら、小沢がそれをそっと隣の市谷に横流しする。非常階段が甘ったるいにおいに包まれて、今にも頭を抱えんばかりになっていた。
「──なあ、陽佳」
「んー?」
陽佳は俺をぎゅうと抱き締めたまま返事をした。
「広瀬がいじめられていたことを、知っているか?」
「──うん」
陽佳の声がトーンを落とす。
「そういう事実があったってことは前に聞いてたんだけど、最近、どんなことされたのか話してくれたんだ」
「そうか」
「あのね、なっちゃん」
「何だ」
陽佳の腕に力がこもり、俺は目の前にクロスするように回ったその腕に手を添えた。
「広瀬は、ただ、男の人好きなだけだったんだよ。塾の先生だったんだって。付き合うようになって、すごく幸せだったんだって。──なのにね、それが学校でばれちゃって、辛かったんだよ」
「──ん」
「机やロッカーにホモとか死ねとか落書きされて、ジャージ切り裂かれて、上靴捨てられて……そういうのは、まだ普通のいじめの範囲だから耐えられたんだって」
それだけでも十分に辛い。俺は陽佳の腕をきつく抱く。
「──服脱がされて、写真撮られて、ネットに流されたりしたんだって。いっぱい殴られて、いたずらされて、死にたいって思ったって」
「…………」
一緒に昼休みを過ごした広瀬の穏やかな笑顔を思い出した。ミルクチョコーレートの包みをはがし、かじりつく。飲んでいたのはイチゴ牛乳。
──ああ、本当に、広瀬はきっと、全身甘いに違いない。
「でもね」
陽佳が俺の肩に顔を押し付けるようにしてつぶやく。
「彼氏が──好きな人がいてくれたから頑張れるって思ってたらしいんだ」
「塾の先生?」
「うん。大学生だったんだって。──けど、広瀬が一番辛いとき、その人は、急に消えちゃったんだ」
ずきん、と胸の奥が痛んだ。
「消えた?」
「うん。塾もやめて、携帯もつながらなくて、アパートも引き払って、大学まで行ってもどうしても会えなかったんだって」
それは、広瀬を見捨てたということだろうか。
「広瀬、死のうとしたんだって」
俺の背中から抱きついて肩口に顔をうずめている陽佳の表情を確認することはできない。けれどその声が、少し、震えている。俺は陽佳の頭をそっと撫でてやる。
「でも、どうしても死ねなかったって言うんだ」
好きな人がいればそれでいい、と思う。俺には陽佳がいればそれでいい。どんな困難だって、苦境だって、きっと陽佳さえいれば乗り越えられる。
たとえ世界中の人間が俺を必要としなくても、陽佳が必要としてくれるなら、それだけで。
「死ねなかったんだ、って──笑って言うんだよ、広瀬」
辛い過去があったとは思えないくらい穏やかに、優しく笑う広瀬が、陽佳にそんなことを吐露していたのだ。その時の気持ちを考えて、俺はとても心が痛む。
「あんなに辛かったのに、死ねなかったんだ、って、笑って──」
ぐす、と陽佳が鼻をすすった。
「俺、何も言えなかった。同情して泣いたりしたら、広瀬が今笑ってるのを否定してるみたいになっちゃうような気がして、我慢した。広瀬は気付いてたみたいだけど、いつもみたいに笑ってた。──あいつね、いつもさらっとすごいこと言うんだよ。こっちがびっくりしすぎて固まっちゃうようなこと、何でもないみたいに言うんだ」
陽佳と小沢が席を外していたほんの数分、俺と広瀬は非常階段の下で二人きりだった。俺と変わらない、170センチをわずかに超えた身長と、細身の身体。並んでいたら、何だか親近感がわいてきて、同じ高さの目線に少し笑ってみた。
俺より5センチほど高い市谷も、10センチ近く高い小沢も、15センチ以上高い陽佳も、みんな俺を見下ろすから。誰かと同じ目線の高さで向き合って話すのは、とても久しぶりだった。
さらりと、まるで何でもないことのように、広瀬が言う。
その言葉の重みを感じさせないくらい、当たり前のような口調で。
「何でもないはず、ないのに」
「……ん」
俺の肩がいつの間にか濡れている。陽佳はさっきからずっとすすり上げてばかりいる。
「──なっちゃん」
「何だ」
「俺は、絶対に逃げたりしないから」
肩が軽くなって、俺は振り向くように首を傾げた。目を赤くしてぐしゃぐしゃになった陽佳が、すぐ近くで俺を見ていた。
「もし、俺たちのことがばれて、それで、周りから何言われても、絶対逃げないから」
「──馬鹿」
俺は身体をずらして陽佳に向き合うと、右手を濡れた頬に伸ばした。
「お前が逃げるなんて思ってないし、俺たちがそんなことでどうこうなるなんてあり得ない」
「うん」
「俺たちは、多分、周りに恵まれてる」
「うん。市谷先輩も、小沢先輩も、広瀬も、きっと俺たちの味方だって思う。でもね、なっちゃん」
「ん」
「俺は絶対逃げないから。なっちゃんを1人になんてしないから」
「分かってる」
「信じられないよ、大好きな人を置いてどっか行っちゃうなんて──」
きっと、広瀬の相手は、広瀬ではなく自分を選んだだけだ。自分自身の保身のために、広瀬を切った。公になれば、きっと自分も広瀬のような扱いを受けると、その時になって気付いた。きっと、その相手は、広瀬のように考えられなかったんだろう。
──好きな人がいてくれたから頑張れる、って。
きっと、広瀬のような強さを、持てなかっただけだ。
陽佳の言葉は純粋だと思った。
俺は陽佳を抱き締める。静かに泣き続ける陽佳の頭を撫で、そのでかい身体を包み込んでやる。
俺だって、きっと、陽佳を1人にはしない。逃げたりすることはあり得ない。
けれど、俺には広瀬の相手が逃げ出した気持ちも分かるのだ。
いや、正確には、少し、違う。
それが逃げ出すほど辛いことだと分かっているのなら──
俺は、逃げ出してほしい、と思っているのだ。
死ぬほど辛いと思うくらいなら、俺を置いて逃げてくれ、と。
お前を苦しめたくないんだ、陽佳。
だから、俺を置いて、逃げてくれ。
「なっちゃん」
「──ん?」
「大好き」
俺も、と小さくつぶやいて、俺は天を仰ぐ。滲んだ視界に映るのは、見慣れた天井。白い壁紙がゆっくりと歪む。
俺も大好きだよ、陽佳。
だから、必ず逃げてくれ。
そう思っているのに、俺は陽佳の身体を抱き締めたまま、その腕をいつまでも離したくない、と思っていたのだった。
了
タイトルからも分かる通り、ちょっと苦しいお話でした。
夏基と広瀬、という何も接点のない二人の会話からスタートしますが、あまり人のことを親身に考えない(ひどい)夏基ですら、広瀬のことはちょっと気になる……という感じです。
陽佳は前出「stay~Disease another~」で書いた広瀬の過去を、ほとんど聞いています。
それを踏まえてお読みいただけると、分かりやすいと思います。
私は、自分のために大事な人が傷つくのは、どうしても耐えられなくて。
そんなことになるくらいなら、初めからそうならないようにすればいいんだ、と思って、あまり深入りしないように生きてます。
それでも大事な人のことは、大事に思っていたいなあ、とか、傍にいたいなあ、と思ってしまうので、すごくジレンマです。
だから、もし、私の大事なあなたたちが、傷つきそうになったら、すぐに逃げてください。
振り返らなくていいです。見捨ててくれていいです。あなたが傷つかなければ、それでいいです。
そう思っています。
広瀬は、どんなに辛くても、それを飲み込んで、表に出さず、したたかに生きていくんだと思います。
何もなかったような顔をして、一人で傷ついて、抑えこんで、ただひたすらに。
いつか、ちゃんと救ってもらえるといいなあ、と思ってます。
す、救えるかな……?(不安)
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