26 渦~different~
3日前、机の中に入っていた手紙の差出人は同じ1年生の女の子だった。
俺はそれを2度読み返し、その手紙の内容をしっかり理解し、消化した。3日間のインターバルは、冷却期間。手紙をくれた相手にも、俺にも、多分、必要な時間だと思った。
3日目、俺は手紙に書かれていたクラスと名前を頼りに差出人に会いに行った。休み時間、人気のないところで、俺はその返事をした。
好きな人がいます。その人が大事です。だから付き合えません。でも、気持ちはとても嬉しかったです。ありがとう。
女子生徒が俺の返事に少し肩を落として、そうですか、とつぶやいた。落ち込んだようにうつむいていたので、俺はもう一度、ごめんね、と言った。
彼女はふと顔を上げて、あのう、とすごく言い辛そうに問いかけてきた。
あの噂は、本当じゃないですよね?
あの噂?
俺は首をひねった。彼女が慌てて何でもないです、と両手を振ったので、俺は気になって逆に問い詰めることになってしまった。彼女はまるで自分が傷ついたみたいに辛そうな顔で、私は信じてませんけど、と前置きした上で、俺にその噂の内容を話してくれた。
彼女が去ってから、俺はしばらくその場を動けなかった。
一番最初に思ったことは、俺自身のことではなく、夏基(なつき)のことだった。
夏基を傷つけることだけは、絶対にしたくない。
噂はいくつもあった。
その全てが女のひとがらみで、告白してきた女の子をこっぴどくふっている、というまだましなものから、妊娠させて捨てたというひどいものまで、内容は様々らしい。俺にそれを教えてくれた女子生徒が辛そうな顔をするのも無理はなかった。
俺が誰に恨まれようが、反感を買おうが、どうでもいい。けれど、それに夏基が巻き込まれるのは我慢ならない。
その日の夜、俺は目いっぱい夏基にべたべたとくっつき、眠る直前までその身体を離さなかった。好きだと何度も告げて、夏基が半ば呆れたようにはいはい、と言うのを聞いていた。
そして今日、迎えに行った夏基を昨日同様抱き締め、今日も大好き、と言った。
通学の電車の中で、同じ制服を見かけてからは、少し距離を置いた。学校に着いてからは、一言も話さなかった。昇降口で手を振って、俺は急いで夏基から離れ、教室へ向かった。ぐずぐずしていたらその決意が鈍るような気がして、振り返りもしなかった。
きっと、夏基はそんな俺を変に思っているかもしれない。
けれど──
「おはよー」
教室に入って、いつものように挨拶した。大抵の場合、クラスメイトが笑いながらあちこちから返事をしてくれる。けれど、今日は、数人の声しか返ってこない。俺を見て、あからさまに目をそらす人もいた。
気にしない、気にしない。
俺は教室の一番奥、窓際の一番後ろの自分の席に座った。
1日の大半を、俺は夏基と過ごす。市谷(いちがや)先輩に注意されてからはなるべく3年の教室──そうでなくてもあまり居心地のいいとは言えない特進クラスである──に行く回数を減らした。あとで夏基が教えてくれたのだが、夏基たちはあの教室ではあまり受け入れてもらえてないらしい。そうでなくてもいい印象のない夏基たちの元へ、1年の俺が頻繁に遊びに行くのは、さすがに体裁が悪いのだろう、と思っていたら、市谷がお前を心配してるんだよ、と言ってくれた。
俺たちだけならまだしも、お前にまでその矛先向けたくないんだ、と。
つまり、あまりこっちに来るな、という市谷先輩の言葉は、俺に対しての気遣いだったというわけだ。
1日に2度ほど、休み時間に夏基に会いに行く。昼休みは、一緒に食事を食べる。教室だったり、学食だったり、たまには屋上や中庭で。
今日は、そのどれも我慢しよう、と思っていた。
「沢村」
声をかけられて、俺は顔を上げた。
「おはよう」
「おはよー」
机の横には広瀬。
「空気、悪いね」
「──窓、開ける?」
俺が訊ねると、広瀬はくすりと笑った。
「そうだね。少しはすっきりするかも」
もちろん、広瀬の言う「空気」が、教室の雰囲気のことだというのは分かっていた。昨日までは、多分、噂は一部だけに広がっていたのだろう。教室の中は普段通り穏やかだった。俺の挨拶にもみんな笑顔を返してくれていた。
「俺はあんまり隠し事とかできないからはっきり言うけど──」
「うん」
「どれも信じてない」
「──うん」
たったそれだけの言葉が、何だかすごく心強いと思った。思わず喉が詰まる。
「数学の宿題、やってきた?」
さらりと話題を変えられて、俺はごしごし目元をこすって、再びうなずいた。
「やってきたよ。ちゃんと、なっちゃんに教わってきた」
「なら安心」
「それ、俺が1人でやったら、不安ってこと?」
「そりゃそうでしょ」
広瀬が笑う。
「沢村の数学の成績、ひどすぎるよ」
おかしそうに言うので、俺もつられて笑った。受験が終わってからは、張りつめていた糸が途切れてしまい、あんなにぐんと伸びた苦手な理数系の成績も、緩やかに下降気味だ。進学校であるこの高校で、俺は早速その洗礼を受けている。
この分では、2年からのクラス決めで、夏基と同じように理数クラスだけは選べそうにない。
まんべんなく成績のいい広瀬は、俺のつまずいた箇所を丁寧に説明してくれる。何とか授業についていけるのも、広瀬のおかげである。
「広瀬、今日のお昼、一緒に食べよう」
「いいよ」
広瀬が自分の席に戻って行くのを、俺は胸がいっぱいになるような気持ちで見ていた。
たかが数時間なのに、もう夏基に会いたい。
いつもは、お昼休みの前に一度は顔を見に行く。教室でいつものように市谷先輩や小沢先輩を話している夏基の姿を見つけ、思わず駆け寄りたくなる。けれどなるべく大人しく、聞き分けのいい犬みたいに、俺は廊下で、夏基が来いと言ってくれるのを待つ。
時々、夏基の方から廊下までやって来てくれる。待ちきれない俺に手を伸ばし、まるでちゃんと待てたご褒美でもくれるみたいに頭を撫でてくれる。
今頃、夏基も俺の噂を聞いているのだろうか。
どう、思ったのだろう。
俺がそんなことをするはずがないと思ってくれている?
それとも、そんな噂を流されるような俺に、愛想をつかしてる?
夏基に会いたいのに、会いに行く勇気がない。
きっと、3年の教室にもその噂は届いているだろう。そんなところに俺がのこのこと現れたら、きっと、夏基や、2人の先輩にまで好奇の目を向けられる。
迷惑はかけたくない。
俺の席の背後に、ベランダへ出る扉がある。昼休み、俺と広瀬はその扉からベランダに出て、お昼ご飯を食べていた。
「今日は柴崎さんのところに行かないの?」
2人並んでお弁当を開いていた。大柄な俺の隣に、小柄な広瀬が座っている。けれど弁当は俺と変わらないくらい大きい。おまけにおやつに甘いものまで持参している。
「うん、迷惑かけちゃいそうだから」
俺はそう答えてから、今更のように気付いて、隣の広瀬を見た。
「どうしたの?」
「──ごめん、俺といたら、広瀬にも迷惑かけるかも」
広瀬はきょとんとして、それから少し機嫌の悪そうな顔をしてみせる。
「迷惑なんて思ってないよ」
「でも
「沢村は、身体でっかいのに、気小さいね」
「……ごめん」
俺が謝ると、広瀬はくすくすと笑う。
「ねえ、沢村」
「ん?」
「──午後の授業、サボろっか」
「え?」
真面目な広瀬の提案とは思えなかった。あまりに俺が驚いた顔をしていたのだろう。広瀬が苦笑する。
「何だか、教室の中、嫌な感じだからさ」
「うん、でも、駄目だよ、やっぱり」
「そうかもね」
「──本当は、サボっちゃいたいけど」
大半のクラスメイトは、何事もなかったかのように俺と接しようとした。けれどその態度は昨日までとは違い、どこかよそよそしく感じる。残りのクラスメイトは完全に俺に訝し気な視線を向けた。噂の真偽がどうこうというより、そんな噂が流れることがもはや問題なのだろう。
「俺ね、今日、甘いのいっぱい持ってるんだ」
傍らのレジ袋を指さして、広瀬が言った。
「飲み物買って、どっかで食べよう」
広瀬の甘いもの好きはかなりのもので、親しくなるきっかけになったのも一粒のチョコレートだった。俺が女の子からもらったそれを捨てようとしたところを、広瀬に止められた。そんなことをしちゃ駄目だ、とたしなめられ、俺は寸でのところで嫌なやつにならずに済んだ。
──今まで、そんなことをしようとは思わなかった。
女の子からの手紙も、プレゼントも、きちんと持ち帰り、封を開け、ちゃんとしかるべき措置をした。それなのに、高校に入ってから、俺は、ある女の子からの言葉に急に焦りを覚えたのだ。
幼馴染みだからって、いつも一緒にいるなんて変よ。
その子は、そう言ってまるで俺をなじるように続けた。
沢村くんを自由にしないなんておかしいわ。沢村くんにはふさわしい人がいるわよ。ただの幼馴染みなのに、いつまでべったりなの? そのうち向こうだってかわいい彼女ができるに決まってるのに──
多分、俺に断られて、思わず口走ったのだろう。けれど、その言葉は俺を動揺させるのに十分だった。
今まで一度だって考えたことがなかった。
夏基の隣に、俺以外の誰かがいるなんて、あり得ないと思っていた。
かわいい彼女、とその子は言った。
俺じゃなくて、かわいい彼女が。
あり得ない。
夏基は言ったじゃないか。俺がいいと。俺じゃなきゃ駄目だと。
急激に、俺は、夏基にふさわしくならなきゃいけない、という気持ちばかりに囚われ始めた。俺を好きだと言ってくれる女の子たちが、突然とても邪魔なものに思えてきた。
こんなところを夏基に見られたらどうしよう。こんなことを夏基に知られたらどうしよう。
そう思っていたところにあのチョコレートだった。夏基に気付かれる前に、処分しなきゃいけない、と思った。だから、男子トイレのごみ箱に、それを捨てようとした。
通りかかった広瀬がそれを止め、俺は、ようやく、正気に戻った。
チョコレートは、高級ブランドのトリュフチョコ。
俺は、どきどきしながら次の休み時間、広瀬に声をかけた。よかったら、さっきのチョコ、一緒に食べない? と。広瀬は、せっかくもらったのに悪い、と断ったが、俺がお願い、と頼み込むと、渋々うなずいてくれた。
そのチョコレートの箱を開けたとき、広瀬が期待に満ちた笑顔を見せた。俺が見ているのに気付いて、慌てて自分の頬をぺちぺち叩いて、ごめん、と言った。
俺、甘いもの大好きなんだ、と、まるで懺悔でもするかのように言った。
このブランドのチョコ、すっごくおいしいんだよ。
どうぞ、と差し出したチョコレートを口にした広瀬は、とても幸せそうに笑った。
俺も、それを食べた。洋酒の香りと、とろけるようながナッシュクリーム。口中に甘みが広がり、俺たちは顔を見合わせ、同時に笑い出した。
おいしすぎる。
楽しくて、おいしくて、ひたすら笑った。笑いながらチョコレートを食べたのは、初めてだった。
あの日から、俺と広瀬は友達になった。
もちろん、そのチョコレートをくれた子には、ちゃんと返事をした。いつも通り、ごめんなさい、と。けれどチョコレートはとってもおいしかったです、と言うと、その子は嬉しそうに笑ってくれた。
──弁当を食べ終えた俺たちは、場所を移動した。見つからずにサボれる場所など思いつかなくて、しばらくぐるぐると校内を徘徊していた。途中、自動販売機で飲み物を買って、結局、授業中に人の出入りがないだろう、と思われた図書室の奥の資料室にこもっった。
チャイムが鳴るのを聞いて、俺たちは床に座って、広瀬の持ってきたお菓子を食べた。レジ袋の中身は見事に全部甘いものばかりだった。チョコレートにドーナツ、チョコチップクッキー、カラフルなキャンディ。
「俺ね」
飲み物まで甘いイチゴ牛乳。広瀬をかじったら、きっとどこもかしこも甘いんじゃないかと思うくらい甘いもの漬けだ。
「中学の頃、男の人と付き合ってたんだ」
思わず、俺は食べていたクロワッサンドーナツを喉に詰まらせそうになった。
「え?」
「塾の先生だった大学生。──そればばれちゃって、学校でちょっといじめられてた」
突然の告白に、俺は驚愕する。けれど、広瀬はいつも通り淡々と続けた。
「成績だけは良かったから、この高校にはいったんだ。俺の通ってた中学からは、誰もここに入学してないから」
「そう、なんだ」
「結局別れちゃったんだけどね。──気持ち悪い?」
俺がぶんぶんと首を振った。
「そっか。よかった」
「──広瀬」
「ん?」
「俺──」
同じだ、などと言うつもりはない。けれど、まだ会ったばかりの付き合いの浅い俺にこんな告白をしてくれた広瀬を、否定するつもりなどない。
「俺、なっちゃんのこと、好きなんだ。──ええと、そういう、意味で」
「──ああ、そうなんだ」
広瀬は、思ったよりもすんなりと、受け入れた。けれど、やはり驚いたことは驚いたらしい。かじっていたイチゴチョコレートでコーティングされたプレッツェルを飲み込んで、ふう、と息を吐いた。
「──本当のことを言うと、沢村があの噂のことで、何か話してくれるかなって思って、話しやすくなるようにこっちからぶっちゃけてみたんだけど──思ったよりすごい答えが返ってきちゃった」
「う、ごめん」
「ううん。先にとんでもないこと話したのは俺だし。──そっか、そうなんだ」
広瀬は1人、納得するようにうなずいた。
「俺はね、多分生粋のゲイなんだと思うよ。──でも、沢村は違うよね?」
再び、広瀬はさらりとすごいことを口にした。あまりにも簡単に言うので、当然のように受け入れてしまう。
「──そういうの、分からないけど……俺は、なっちゃん以外、誰も好きにならないと思う」
「そっか」
俺は緑茶のペットボトルに口をつけ、がさごそとレジ袋を漁った。箱に入った粒タイプのチョコレートを見つけ、ぺりぺりと封を開ける。引き出した箱の中にきちんと整列したそれを、一粒口に入れた。
甘い。
ビターでなく、ミルク。そんなところも広瀬らしい。
「噂、どうして急に広がったのかな」
「分からない。けど、俺、気になってることがあるんだ」
「何?」
俺は、あのあともいくつか、クラスメイトから聞いた噂を思い出す。
「ほとんどが女の子がらみだったよね」
「うん、俺が聞いたのもそうだったかな。──中にはえげつないのもあったけど」
広瀬が思い出すように言う。
「あの中で、ひとつだけ、ちょっと腑に落ちないものがあって」
「うん」
「中学の頃教師とヤりまくってた、ってやつ」
「ああ……それね」
俺は、ほんの数か月前までのことを思い出していた。
鍵のかかった進路指導室。担任の、甘い香り。媚びるようなあの声。
「──どうしてその噂だけ、教師なんだろうなって」
「ああ、そういえばそうだね。他は女、としか聞いてないもんね」
「だったら、別に『中学の頃、女と~』でよくない?」
「うん、確かに」
「もしくは単に『教師と~』とか」
「ああ、そうだよね」
中学の頃、と限定されているのが不思議だった。俺が通っていた中学の女教師など、調べればすぐに分かる。何年も前の話ではないのだから。ほんの3か月前まで、俺は中学生で、その「教師」と毎日顔を合わせていたのだから。
だからと言って、あの担任がこんな馬鹿な噂を流すわけがない。バレれば自分の立場だって危うくなる。そんなことをする意味が分からない。
「出所の調べようなんて、ないよね」
「そうだね。──しばらくは辛いかもしれないけど」
「ううー、ハリのムシロ」
「沢村……」
「まあ、多分、そのうち消えてなくなるんだろうけど」
俺が笑ってみせると、広瀬もそうだね、とうなずいた。
「沢村のこと、ちゃんと見てる人なら、信じないよ、きっと」
「うん、ありがとう。──でも、俺、本当に、広瀬には感謝しなきゃ」
「何で?」
「あのチョコレート、捨てなくてよかった」
ほう、っと、俺は大きく息を吐いた。壁に寄りかかっていた身体を、立てた膝に向かって倒すようにうなだれた。
「あのまま、嫌なやつになってたら、噂を後押ししてたかもしれない」
こっぴどくふっている、などという噂を、俺自身が本当にしてしまうところだった。あのとき、チョコレートの箱を捨てようとしたところを見られたのが広瀬で、本当に良かった。
「おいしかったね、あのチョコ」
広瀬が、顔を上げた俺を覗き込むようにして笑った。
「うん、おいしかった」
「気持ち、こもってるんだよ。──沢村のこと考えて、一生懸命選んだんだと思うよ」
「うん、そうだね」
俺は俺自身で、その焦りを生んだのだ。あの女の子の言葉なんて、ただのきっかけだ。囚われたのは、俺自身の弱さなのだろう。
夏基に会いたい、と思った。
たった数時間なのに、もう、辛い。
俺は傍らのチョコに手を伸ばそうとした。箱に並んだ1ダースのそれが、いつの間にか残り2個になっていた。じとりと広瀬を見ると、俺に向かって小さく舌を出した。
──本当に、甘いものには目がないらしい。
俺は残っていた2個のチョコレートを、ひょいと口に放り込んだ。その瞬間、ポケットでスマホが振動する。取り出してみると、夏基からだった。
『陽佳(あきよし)』
俺の名前が、画面に浮かんでいた。
なっちゃん、と思わずつぶやく。
再びスマホが音を立てる。
『会いたい』
短い言葉が、画面に並んだ。
『会いたい』
『陽佳』
まるで呼びかけられているように感じて、俺は胸が痛くなった。
朝、玄関先で夏基を抱き締めた感触は、まだ腕に残っていた。今日一日、この感触をしっかりと覚えて乗り切ろう、と思っていた。
けれど、足りない。
急激に何かがこみあげてきた。
俺はスマホに返事を打ち込もうとして、校内に響き渡るチャイムの音に、その手を止めた。
「──広瀬」
俺は隣の広瀬を見た。広瀬はうん、とうなずいて、にこりと笑った。
「行ってきなよ」
「うん。ごめんね。──ありがとう」
俺は立ち上がり、もう一度ありがとう、と言いながら資料室を飛び出し、図書室を出て、廊下を走り出した。3年生の教室は、図書室と同じ1階にある。
夏基、夏基。
俺何度もその名を呼びながら、走る。
会いたい。
今すぐに会いたい。
夏基のクラスが見えてきたそのとき、教室から出てきたその姿に気付いた。見間違えるはずがなかった。
俺の、夏基だ。
その姿を見たら、もう止まらなかった。あんなに我慢していたのに、それが簡単に決壊してしまう、と分かっていた。
「なっちゃん」
俺は大声で呼びかける。夏基が振り返る。
あとから教室を出てきた市谷先輩と小沢先輩が、何か言った。けれど、俺は、それを聞いている余裕がなかった。
俺は夏基に抱きつき、その勢いで夏基がよろけたのを気遣うことすらできなかった。
教室の前で廊下に崩れ落ちた夏基に抱きついたまま、俺は堪えていた涙をどうしても止めることができなかった。
了
186センチの身体が飛びついて来たら、倒れますね、多分。
設定として夏基は171センチ、華奢なので(しかも体力なし)絶対支えられないだろうな……。
廊下で頭を打たなかったことだけを祈りましょう(笑)
次は夏基。
この続き、です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます