術系統について その1
……さて、術系統についてだが、わが校では『十大系統』として教えている。そこのおまえ、いってみそ。
……うむ、できて当然だ。
十大系統とは、魔術、気術、霊術、命術、幻術、封術、界術、呪術、妖術、そして秘術の十に分類された術系統のことだ。秘術を抜いて九大系統やら、命術を生術と死術に分けて十一大別やら、そこから秘術を抜いて十大別とする説もあるが、魔術師連盟が昔から唱えてきたこの十大系統が最も一般的で理に適ったまとめ方であろう。
で、まずは魔術から解説していくが、知ってのとおり魔術とは以下の系統の総称でもあり魔法という単語の同義としても使われるため今回は系統名として魔術という語を使う。混同せんように。
さて、魔術とは、魔力の基本運用などをはじめとした最も初歩的な技術を指す言葉でもあり、四大元素の力を利用する術のことでもある。四大元素とは即ち世界を構成する地水火風という四つの元素ことだな。同時にこれは物質の四つの状態、熱冷湿乾の四大性質にも対応している。
さっきも触れたが、魔力とは世界の命であり、君たちはみな世界と繋がっているため、魔力をもつ者はみな魔術師であり既にこの系統は習得済みということもできる。が、わが校では魔術のより専門的な知識と技術を叩き込んでいくので覚悟しておくように。術師なら誰しもが当たり前に使えるこの魔術こそが最も奥が深い分野ともいえるのだ。
次に気術だ。これもさきほど触れたが、気術とは主に生命力を源力として用いる術のことで、これは魔法に含めなくてもよいのではないかという声が世界中から上がっている。正直私も同感だが、いったようにここはすべての術を専門的に教える学校であるためきちんと教えるし、魔法でなくとも実に興味深い分野だと個人的には思っている。なにせ興味が高じて私も習得してしまったほどだ。
この気術、魔法の素質をもたない者が武術のひとつとして習得することが多く、自身の生命力を使って体力と引き換えに生物の内なる力を高めるといった効果がほとんどだ。具体例を挙げれば、一時的に筋力を増強したり治癒力を高めたりだな。お陰で私もこの歳にしていまだにこの若さだ。
……少しは笑ったらどうだ。
ともかく、そういった性質であるため広範囲に効果が及ぶような技は少ない。
さてお次は最も人気のなさそうな霊術だな。これもその名のとおり、精霊や死者の霊、生者の霊的エネルギーなどに干渉する術のことだ。もし悪霊を見たというならすぐに最寄りの霊術師のもとへ駆け込むことをお勧めする。精霊と接触するのは他の術師でも可能だが、悪霊の類は霊術師でなければまず対処できんからな。
ん? 霊術師はどこにいるのか?
ドアホ、ここをどこだと思っとる。職員室に駆け込め。
まったく……話を戻すぞ。霊術師が希少である理由は先ほども述べたが、いまひとつ、土地柄という事情も関わっていることを補足しておこう。
どういうことかというと、この大陸ではかつて、死術と霊術を専門とする古代魔術が魔法の主流として栄えていた時代があった。ところが文明が発達し他の系統も確立されていくにつれ、それらは邪法として迫害の対象となり、かの悪名高きファイエルジンガー家などごく一部の例外を除いて衰退していった。つまりこの大陸の人々、われわれの祖先は人の死や霊的エネルギーというものをマイナスなものとして目を背け続け、それゆえにいまだ充分な理解も研究もなされていないというわけだ。
ところが、大陸の東に広がる諸島国家『
ようするに大陸人は物質に重きを置き、海陽人は精神を重視しているということだな。どちらも少々極端な観は否めんが……
次は命術。これはその名のとおり命に関わる術のことで、わかりやすいところで治癒術があるな。しかしそれとは真逆の効果をもつ術もこれに分類されており、命を助ける術を生術、命を奪う術を死術と分けることもある。治癒術の使い手は冒険者にとって神より貴重な存在だが、気をつけたまえ。救うことに長けた者は同時に殺すことに関しても専門家なのだ。ふふふ……。
ところで、魔術は魔力を使い、気術は生命力を使うが、さて、命術はいったいなにを源力とするのか……? わかる者はいるか?
……ふむ、入学したばかりの諸君にはまだ少し難しい問題だったかな。
答えは、魔力と生命力の両方、だ。
正確にいえば、両方を同時に使うこともあればどちらか片方だけでよい場合もあるのだが、それは状況と術師のタイプ次第だ。
たとえば、君が深く傷つき倒れ治癒術を受けたとしよう。そのとき命術を得意とする術師の場合、たいていは魔力だけで治癒術を発動させられる。しかし命術が専門ではない術師の場合、魔力だけでは充分な効果が期待できないため自身の生命力を君の生命力と呼応させて効果を高めるのだ。むろん、軽傷の場合は必要ないがな。
それと、これはいうまでもないと思うが、死術は準禁術だ。ゆえに特別な理由がない限りここでは教えないし、たとえ習得したとしても入学時にサインした術師規約の内容に反する使用は認められない。まっとうな術師でありたいなら死ぬまで忘れんことだ。
さて次は……幻術だったな。
これは主に他者の五感に作用する幻覚の術だが、地味だと思うなかれ。この術は極めれば誰にも気づかれることなく要人を暗殺したり、なにもない殺風景な部屋を南国リゾートに仕立てて女を口説くこともできる、非常に便利な術なのだ。麻酔代をケチるために幻術で痛覚を麻痺させて手術を行う医者もいるほどだ。魔術に次いで何気に使い手の多い系統でな、覚えるつもりがなくても研究や戦歴を重ねるうちに気づけばそれなりに使えていた、という声をよく聞く。
とはいえ、今のところ解説できるのはこんなところだ。深く語ればきりがないのでな、時間もないことだしとっとと次に移ろう。ここからは少々厄介な系統が続くぞ。
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