実践式魔法講座とそれに伴う考古学的冒険録
景丸義一
序章
某教授の魔法基礎講義
三大源力について
あ~、諸君。ようこそ私の講義へ。君たちは入学したばかりでまだ魔法のことなど毛ほども理解しておらんだろうから、まずは私が懇切丁寧に基礎知識を教えて進ぜよう。毎年毎年ここから始めるのもそろそろ飽きてきたが、教壇に立つ者として後進の育成をサボるわけにもいかんから仕方ないな。ありがたく静聴するように。
えー、魔法と一口に言ってもその種類は実に様々で、中には「こんなのを魔法と呼ばんでもいいだろ」というものまであり、そういった意見への配慮から……なのかどうか真相は不明だが、わが校でも一般にいわれているように主に『術』という単語を使っていくこととしている。そしてその術にはいくつものカテゴライズが存在する。最初に触れるべきは『三大源力』だが、さすがにこれくらいは全員が脊髄反射的に答えられるだろう。
そこのおまえ、いってみ。
……そう、そのとおり。生命力・霊力・魔力だ。
これらは術を発動させるために必要な現象の源であり、三大源力とはその種類を三つに区分したものとなる。魔法を使うために必要なのは主に魔力だが、ここは魔法も含めすべての術について専門的に教える教育機関であるからして、ここに入学した以上は魔法にしか興味がなくてもきちんと覚えるように。
というわけで、まずは生命力から解説していこう。
生命力とはその名のとおり生物の命の力を利用するもので、あとで説明するが気術などはほとんどがこれを使っての発動となる。生命力は生物なら誰でももっておるし比較的制御も楽だが、魔力などと違って肉体的に疲労するため実のところ使いどころが難しい。
この中にも、気術しか使えない脳筋な武芸者を馬鹿にしている者がいくらかはおるだろうが、そういうやつは間違いなく自身が気術を使えないか、キツいのが嫌だから使おうとしない怠け者だ。
剣と盾をもち、重い鎧で身を固めて真っ先に敵陣へ斬り込んでゆく、あるいは敵の猛攻に耐えるため自らを盾として仲間を護る……そういう肉体的負担の激しい役割を担っていながら誰のせいでもなく気術の素養しかもたなかった脳筋は、更に肉体への負担がかかる気術を使うことでしか仲間を護ることができない……
その苦労を思えば生命力の扱いの難しさ、それを使って生き抜く者の強さが少しはわかるであろう。まあ、目の前で仲間が食い殺されるような厳しい冒険をしたことのないヒヨッコの君たちにはまだ難しいかもしれんがな。
話が逸れたな。ああ、ついでにいっておくが生命力を消費したからといって別に寿命を縮めるわけではないからな。中にはそういう危険な術もあるが、そういうものをここで教える気はない。知りたければただちに退学することだ。
さて、次に霊力だが、これについては頭にハテナマークを浮かべている者が多いのではないか?
……うむ、実に期待通りの反応だ。そうなるのも無理はない。そもそも三大源力とは、個人差があるにせよいずれも人間が生まれながらに備えているエネルギーだが、霊力とそれを素に用いられる霊術は圧倒的に使い手が少ないのだ。私もここで教鞭を執って久しいが、霊術の素養のある生徒は特定の血筋を除けば年に一人いるかいないかという程度だ。
ではなぜそうなのかというと、これは単に人間の種としてのレベルが低いせいだ。簡単にいえば、生命力と魔力はどちらもこの物質的空間内で物理法則に従って作用する物理現象にすぎんが、霊力は物理法則を無視するのだ。即ち、この三次元と呼ばれる世界の枠を超えた未知の力というわけだ。この未知の力を未知の力と呼ばなくなったとき、初めて人は正しく霊力を使いこなすことができるのだろう。
いっている意味がわかるかね?
……ふむ、なんとなくはわかるが納得のいく理解には及ばない、という顔ばかりだな。まあ構わんさ、どうせこの中に素質のある者がいてもせいぜい一人、それに霊術に関しては私の専門外なのでな。ここで教えられるのはあくまで術全般の基礎的な知識と簡単な実践だけだ。今すぐ理解する必要はない。
さて、最後に魔力についてだが、これについてはもはや説明するまでもないだろう。ないだろうが、いまいち論理的な理解に達していないという勉強不足な者のためにきちんと解説しておくとしよう。
術を使うための三大源力最後の要素、魔力。一言で表すならばそれは、世界との接点だ。
この世界にはあらゆるものが存在している。人に獣、海に山、火に風に精霊に魔物たち……形のあるものないもの、意思をもつものもたないもの、あらゆるものがこの世界にわれわれと同じく存在している。それらと自己を結びつけ、魔法という現象をを生み出すための原動力。それが魔力だ。生物に命があるように、世界には魔力がある。魔力とは世界の命と言い換えることもでき、ゆえに魔力をもつものは世界に等しいということもできる。
「私という存在はこの世界そのものだったのだ」
とは、かの現代魔術の祖クガナ・シュエル・ヴィルヴァの名言だ。まさかこれを知らんなどという不届き者がここに入学したりはせんだろう。なあ?
さて、こんな基礎中の基礎を軽く説明するだけで結構な時間を食ってしまった。いやしかし去年は酷かったぞ。コネを使った裏口入学は結構だが、せめてこの程度の基礎知識ぐらいは叩き込んでおけよと。君たちの一学年上になるが、あれはいまだに自分が馬鹿であるということに気づかず家名を振りかざしてでかい面をしておるようだから、関わらんように気をつけなさい。
で、えー、なんの話だったかな。
ああ、そうそう、昨日買った娼婦の具合だったな。
……そんな顔をするな、冗談の通じん生徒たちだな。私の若いころは……いや、やめよう。自分の若いころと今を比較する老人はいつの世も嫌われるものだ。まさに私自身そうだった。
では気を取り直して次の項目に移る。これは君たちももう少し興味をもって聞けることだろう。
そう、『術系統』についてだ。
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